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 スキルは無事に習得できた。

 だからアリスは冒険者協会に向かう事にする。

 今日の狩りの収穫を売る為だ。

 平原兎50体分の毛皮や肉。

 売っても大した金にはならない。

 だが宿屋を1泊するのに掛かる料金の半分を得られると考えれば、売りに行かない手はない。

 今来た道を戻り始めた。


(ちょっと薄暗くなってきたかな)


 辺りを見渡して思った。

 もうすぐ日が暮れてしまう。

 その証拠に空には既に星が見えている。

 急がなくては。少しだけ焦りを感じていた。

 歩く足が自然と速まる。


(出歩いている人も少なくなってる)


 通りでは人の姿が疎らになっていた。

 開いている店の数も減っている。

 当然か。普通の店では夜に営業しても利益が少ない。

 だから多くが陽が落ちる頃には閉めてしまう。

 人が家に帰るのは現実と比べてとても早いのは、その影響もあるのだろう。

 しかし酒場や娼館なんかは別だ。

 寧ろそれらは夕方からが本格的な営業の開始だと言える。

 店ではないが、冒険者協会も例外の1つだ。

 協会は様々な緊急事態に対応出来る様にその扉は全日開かれている。

 中に酒場があるのもそれが関係している。

 夜遅くに仕事を終えた職員に食事を出す為だ。

 他にも収入源として重要な施設でもある。

 稼いだ冒険者に少しでも金を落とさせる様に、酒と食事が置かれているのだ。


(真っ暗になる前に帰れると良いけど)


 限りなく不安だ。

 この分だと間に合わないかもしれない。

 足を更に速め、小走りに進む。

 アリスが夜を避けたいのは、この世界に電灯が存在しないからだ。

 街中でも光源になる物はあまりなく、夜になれば殆ど視界が効かなくなってしまう。

 そうなってしまえば厄介だ。

 昼間でさえ迷いやすい宿屋への帰路を、暗闇という大きなハンデを背負って帰らなければならなくなる。

 アリスの場合は灯りを持っていないから余計に辛い。


(でも明日には回したくないし)


 明日もレベル上げをするつもりだ。

 その時間は出来るだけ長く取りたいと思っている。

 だから今日の内にアイテムの売却を済ませようとしているのだ。

 幸いにも所持金には余裕がある。

 協会にある道具屋でランプでも買うか。

 それなら暗くても何とかなるだろう。

 そう考えたら途端に気が抜けて、のんびりと歩き出した。


(あ。やっと着いた)


 アリスが協会の建物に入った時、外は目を凝らさないと少し先も見えないくらいの明るさだった。

 これでランプを買うのは確定だな。

 でもそれは後回しにして受付に向かった。

 そしてそこで、アリスは驚かされる。


「テレリさん?」

「あら。アリスさん。こんばんは」


 おかしな事だ。受付にはテレリが居た。

 協会の職員は複数人で交代に仕事をする。

 確か6時間毎に入れ替わりがあったはずだとアリスは記憶している。

 テレリとは朝にあったばかりだ。

 そして今は夜である。

 なのになぜまだ受付嬢をしているのだろう。


「うふふ。本来の当番の子が風邪を引いちゃってね。さっき臨時に入ったのよ」

「ああ。そうなんですか」


 不思議そうにしていたのに気が付いたのだろう。

 テレリは聞く前に答えてくれた。

 理解は出来た。しかし納得は出来なかった。


「でもそれって12時間も働く事になるんじゃ?」


 それは大丈夫なのだろうか。

 不安そうに見つめるアリスに、テレリは微笑みを浮かべた。


「心配しなくても大丈夫よ。だって1日だけだもの。それに冒険者の頃は何日も寝られない事がよく有ったわ。それに比べればとっても楽」

「うーん? そういう事じゃないと思うんですけど……」


 まあ本人が問題ないと言うなら首を突っ込むのは蛇足だな。

 そう判断する事にした。


「それでどうしたのかしら。もしかして常設依頼の事?」

「はい。アイテムを売りたくて」

「分かったわ。じゃあ売りたい物を出して。鑑定しちゃうから」


 テレリの質問を切っ掛けに、本題に入る。

 アリスは言われた通り、平原兎のドロップアイテムをカウンターに積み上げていく。

 手に入れた時のままの球体状だが、転がる事はないみたいでホッとする。

 転がるなら慎重に置かないといけない所だった。

 50個もあると多くの時間を要してしまうので実に助かる。

 非常に沢山のアイテムが積み上げられる様を、テレリは驚きの表情で眺めた。

 さっきまでなかった眼鏡を掛けている。

 変な装飾が刻まれているが、鑑定に使うのだろうか。


「これはまた、随分と集めたわね」


 呆れた様に言われた。

 自分でも薄々そう感じていた。

 アリスは恥ずかしそうに頰を掻く。

 カウンターには白い球体が山になっていた。


「それに全部が平原兎。珍しい子ね」

「あはは……。少し頑張っちゃって」

「ふーん。レアアイテムでも探してたの?」


 テレリの言葉に首を傾げる。

 レアアイテム。

 このゲームでは聞き慣れない言葉だった。


「レアアイテムって、あるんですか?」


 情報サイトにはそんな事は書かれてなかった。

 魔物の落とすアイテム一覧を見た時も、特にそれらしい表記はどこにもなかったと思う。

 流し見した程度だから確実とは言えないけど、そんな面白そうな単語があれば簡単には見落とさないだろう。

 訝しげに尋ねたアリスに、テレリはそうだと頷いた。


「普通のアイテムは白いオーブに入っているでしょ? レアアイテムは黄金に光り輝くオーブに入っているの」

「オーブ?」

「そう、オーブ。この球体の事よ」


 アリスは呆然と新たな情報を整理する。

 魔物からドロップする球体にはオーブと言う名前があって、オーブには種類があるらしい。

 事実にしては妙だと思う。

 結構な数のプレイヤーがいるのに誰からも報告がないんだから。


「それは噂話じゃなくて?」


 疑いが晴れないアリスにテレリは苦笑する。


「間違いないわよ。私も何度か手に入れたわ」

「へえー!」


 テレリは事実だと言い切った。

 そこまでされてようやく信じたアリスは目を輝かせる。

 一体どんなアイテムなのだろうか。

 期待に胸が高鳴る。

 そう言えば。

 テレリが思い出した様に呟いた。


「レアアイテムよりも更に珍しい虹色のオーブがある。少し前にそんな伝承を聞いた事があるわ」

「虹色のオーブ?」

「ええ。真実なのか嘘なのか。それは分からないけど」

「それって、とても気になりますね」


 魔物を倒しまくれば、いずれ見つかるのだろうか。

 そうだとしたら魔物狩りに楽しみが追加される。

 レアアイテムについてテレリにもっと詳しく聞く事も出来たが、敢えてそれはしなかった。

 そう言うのは自力で知りたい内容だ。


「さてアリスさん。鑑定が終わりました。全部で50イェンになります」

「はい」


 50体の兎が大銅貨5枚になった。

 硬貨をインベントリに仕舞う。


「ねえ。もしかしてそれってインベントリ?」

「はい。そうですよ」

「ふうん。随分と珍しい物を持っているのね」


 テレリは感心した様に言った。

 インベントリはプレイヤーの全員に備わっている機能であるが、稀にNPCにも使える者がいる。

 だから彼らの前で使っても、驚かれる事はあっても、変に思われる事はないのである。


「インベントリを持っているなら心配ないわね」

「えっと。何の心配ですか?」


 全く意味が分からず、アリスは聞き返した。


「何って、灯りの心配よ。外が暗いのに何も持ってないから気になったの。でもインベントリがあるなら納得だわ。態々持ち運ぶ必要ないものね」


 そこまで言われてアリスも分かった。

 テレリは自分が灯りを持たずに夜道を歩いて来た様に思えたのだろう。

 全くもってその想像通りなのだが。


「えっと。ランプはないので、ここの道具屋で買おうかなーと」

「ああ。持ってなかったのね」


 アリスは居心地が悪そうに目を逸らす。

 しかしそれではテレリのジト目は防げなかった。

 テレリは溜息を吐いた。

 恐る恐る視線を戻す。


「冒険者である以上、道具の準備は重要よ。いつどこでそれが必要になるのか分からないんだから」

「はい」


 テレリはそんな忠告をした。

 冒険するのは大変だとプレイヤー間でも言われている事だ。

 アリスは素直に反省する。


「因みにだけど。ランプは環境にほぼ影響されない魔法のランプがオススメ」

「魔法のランプですか。でもあれって高いんですよね」

「そうね。でもその価値があるのは間違いないわ」

「ええ。それは良く聞きます」


 性能が高い魔法道具は例外なく高価だ。

 今の所持金ではどう足掻いても買えやしない。

 だからこそ優れた魔法道具を持つ事も冒険者のステータスになり得るのだ。


「あっと。もうこんな時間だわ」


 テレリの声に釣られて、アリスもシステムパネルの時計を見る。

 そして驚いた。

 思ったよりも話し込んでいたらしい。


「では、また。テレリさん。私はランプを買って帰るとします」

「そう。じゃあ、また。気をつけてね」


 軽く挨拶をして、アリスは建物奥にある道具屋に向かう。

 手頃な価格のランプがあれば良いのだが。

 買えなければ夜の帳が下りた街を、灯りなしに歩かないといけない。

 切実に女神に祈りを捧げた。

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