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 街に戻ったアリスは、まずは女神像がある広場に向かった。

 レベルが上がったから、新しいスキルを習得する為だ。

 しかし手に入れたアイテムを売却するなら、距離的に途中で冒険者協会に寄った方が断然効率的である。

 女神像まで行くと往復する必要があるし、協会に戻るにもそれなりに時間が掛かるはず。

 そんな事はアリスも分かっている。

 でも今はスキルが最優先事項だ。

 新スキルと言う心が弾む存在を前に習得を待ちきれないとか、別にそんな子供っぽい理由じゃない。

 これはもっと真面目な話だった。

 アリスは例え死んでも良い様に保険をかけるつもりなのだ。

 もしスキル習得前に何かしらのイベントが起きてしまったとして、それで死に戻りになってしまえば、とても悲しい事になる。

 取り戻した経験値を再び失って、アリスは明日もまた経験値稼ぎをしなくてはならなくなってしまうからだ。

 それは避けたい事態だ。

 アリスにとってはそうだし、きっと平原兎もそう思っているに違いない。

 誰にとっても不幸な明日を防ぐため、街の中だと言うのに過剰なくらいの警戒をしながら道を進んだ。


(あ。あの人、包丁持ってる!)


 道端で包丁を研ぐ厳つい男を見て警戒を強める。

 もしかしたらあの鋭く研いだ包丁で私を刺そうとしているのかもしれない。

 そんあ憶測がアリスの脳裏を過る。

 考えが被害妄想の域に入り始めていた。

 完全に杞憂である。

 少しでも冷静なら分かるはずだが、男は商人だ。

 屋台店に立ち、明日のため道具の整備をしているだけの善良な人間だ。

 怪しい男にばかり注意を向けるアリスはてんで気が付かないけど。


(うわ、今度は剣だと!?)


 包丁男の襲撃を華麗に防いだアリスは安堵の息を吐いた。

 だがその一瞬の油断を突き、更なる襲撃者が訪れる。

 唐突に横道から全身鎧姿の賊が現れた。

 腰から下げるのは見るからに名剣。

 辻斬りだ。

 アリスは確信してその場から飛び退いた。

 こんな場所で重武装をするなど、明らかに一般人じゃない。

 相手は困惑した様子だが、それは気の所為だとアリスは思う。

 緊張した面持ちで、アリスは全身に力を張った。


「おい、何してんだ?」


 アリスにとって、それは予想外だった。

 賊の声に聞き覚えがあったから。

 急激に熱くなった頭が冷えて、周りがよく見える様になった。

 途端に、顔が赤くなる。

 知り合いに馬鹿な姿を見られたみたいで、何だかとても恥ずかしい。


「ロイさんこそ、そんな格好で何しているの?」


 質問を質問を返した声は、僅かに震えている。

 鎧の男はロイだった。

 顔は兜によって遮られ、識別出来なかったのだ。

 恥ずかしさは薄れ、代わりに腹立たしい思いを抱く。

 そんな奇妙な様子のアリスに首を傾げながらも、ロイは自分の職務について軽く説明するため口を開いた。


「今週は街の見回りなんだよ。ここ1週間小さいとは言え騒動が頻発しているから、しっかり装備も整えてな」

「ああ、そう」


 興味の欠片もなさそうな生返事。

 しかしロイはそれに気を悪くした様子もなく、再び聞く。


「それでアリスは何してんだ?」


 純粋に疑問に思っているらしい。

 普段なら何でもない質問だが、今はとても答え難い。

 このゲームに於いて、レベルの概念が存在するのはプレイヤーだけだ。

 間違いなくNPCであるロイにデスペナルティを食らわないように警戒していたと言っても意味は通じない。

 そもそも事実を教える気なんてこれっぽっちも無いけど。

 アリスは変なところでプライドが高い。

 それ故に、絶対に自分の失態は言わない。


「別に、女神像の広場に向かっていた途中ですし」


 目を逸らした。そして不貞腐れた様に呟く。

 嘘は言っていない。

 確かにアリスは広場に向かっていた。

 だが質問の答えにもなっていない。

 またしても不思議そうに首を傾げた。

 しかしロイは何も追及してこなかった。


「そうか。最近は物騒だから気を付けるんだぞ」


 それだけ忠告して、ロイは自分の仕事に戻ろうとした。

 そっと胸を撫で下ろす。

 どうしてかは知らないが助かった。


(あ、そうだ)


 アリスも広場に向かおうとする。

 しかし折角だし用事を済ませるのも良いかもしれない。

 右足の踵を軸にクルリとターン。

 ロイを呼び止めた。


「良い宿屋を紹介してくれて、有り難うございました」

「……おう。気に入ってくれて良かったよ」


 礼を言えば驚いた様子だった。

 それにムッと口をへの字に曲げた。

 何がロイをそんなに驚かしたのか想像して、勝手に不愉快になる。


(私はちゃんとお礼を言うよ)


 言いたいことは言ったので、用事は終わり。

 顔を背けて、広場に向かって駆けていく。

 広場はすぐそこだ。

 段々と落ちていく太陽に、空は暗くなり始める。

 アリスは少し急ぎ出した。


(あった。女神像)


 広場に着いた時、女神像の台座には既に灯りが点いていた。

 等間隔に置かれた蝋燭の火が揺らめいている。

 それに歩み寄る。

 改めて見上げると、随分と巨大である。

 流石はこの街の象徴の1つだ。

 聖堂都市と言うだけあって、この街は宗教が盛んだ。

 女神教の総本山だから余計に力が入っているのかもしれない。

 まあそこら辺はアリスにとって重要な事ではない。


(祈りのポーズは決まっていたはずよね?)


 女神像に祈りを捧げるなら、ちゃんとした姿勢を取る必要がある。

 開発の拘りなのだろうか。

 それともスキルの獲得の祝福を誤作動させない為なのか。

 このゲームではアバターの作り直しが出来ない。

 だから多くのプレイヤーは良いスキルを習得する為、吉凶を占ったり、縁起を担いだりする。

 それが影響してか、この儀式を不満に思う者は少なかった。

 凄い事だと思う。

 ただ、これらの行動に果たして意味があるのかは不明だ。

 最後に情報サイトを見た時も検証は終わっていなかった。

 気になる所だが、真相はどうあれ、今は意味のない話である。

 そう言うのは次にレベルが上がった時にでもするとしよう。

 アリスは事前に調べていた通りに、地面に膝をつく。

 両手の指を組んで、目を瞑った。


(これであってるはず)


 その思考は最後まで続かなかった。 

 暗闇の中に、光が生じた。

 それはまるで翼の様だ。

 5対の形を成して、大きく広がる。

 畏怖を感じた。

 神聖で偉大な者がそこにいる。

 頭を撫でられる優しい感覚。

 体は力で満たされ、心は安息に包まれる。

 気づけば、光は失われていた。


(……終わった?)


 目を開けると、何事も無かったみたいに街の喧騒が戻った。

 アリスは立ち上がって、ズボンに着いた汚れを払う。

 それから思いっきり背筋を伸ばした。

 何だかさっきよりも調子が良い。

 それ以外には特に変わった様子はない。

 いや、もしかしたら自分だけが気付いてないだけで、実は大きな変化があるのかもしれないが。

 どっちが真実でも関係はない。

 アリスには確認する術があるからだ。


(さて。何を得られたかな)


 システムパネルでステータスを確認する。

 そしたら、新しいスキルの名前が加えられていた。

 何とも自分らしい物を得たと苦笑する。

 <怪力>。

 それがアリスの得たスキルだった。


(予想はつく。けど一応調べておこう)


 スキル名をタップする。

 新しいウインドウが現れ、それの詳細が表示された。

 詳細と言っても、詳しい説明がある訳ではない。

 精々が簡単に書かれた効果程度の物だ。

 スキルによっては曖昧に書かれているのもあるらしいから、これを頼り過ぎてはいけない。

 しかし今回のは分かり易い内容だった。

 筋力の限界値が上がり、重い物でも軽々と持ち上げられる。

 つまり力が強くなるのだ。


(もしかして、近接攻撃に補正が入ったりもするのかな?)


 習得されるスキルに外れはない。

 だがこのスキルは間違いなく当たりである。

 格闘で戦うアリスには筋力不足は重大な問題だ。

 今は良くても、後々に辛くなるのは目に見えていた。

 それが序盤の内に解決された。

 とても喜ばしい事だ。

 でも相変わらず変化は感じないけれど。

名前:アリス

種族:獣人/兎/女

レベル:2

<格闘術><怪力>

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