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 もうすぐ学園主催のパーティが開かれる。オレは内心うんざりしていた。なぜなら山のように手紙が来るのだ。直接渡しに来るものや従者を使うものなど多々ある。それというのもオレがこの年になっても身を固めないからだ。婚約者の一人も居ない侯爵家の跡継ぎとあらば、飛び付かない女の子は居ないだろう。

 群がる女の子達を、笑顔でごめんねと突っ返す。ちなみに差し入れで、チョコだとかクッキーなんかも届く。食べきれないから止めて欲しい。

 けど女性の力は侮ってはならない。彼女達に相手にされなくなったら色々な事業に影響が出てくる。何せ彼女達の家は侯爵家と繋がりがある。愛娘の誘いを無視するような男に、手を貸すような人物はそう居ない。だから蔑ろにはできないのだ。


「貴方って本当にモテるのね」


「まあ婚約者も居ない侯爵令息だしね。関係を持ちたがる子は沢山いるだろうね」


「それもそうね」


 どこか不機嫌そうな彼女に少し焦る。まさかこれは嫉妬なのだろうか。だとしたら嬉しいと思ってしまう。けどそれと同時に、自分がどれだけ彼女惹かれているかも分かってしまう。本当の気持ちを隠すと決めたのに、気付けば彼女のことを目で追うようになったし、頭の中も彼女のことばかりだ。

 何をやってるんだオレはと思っていると、彼女の視線がある一点を見つめていて、そちらに視線をやれば、アイリスとかつての生徒会メンバーである取り巻き達が居た。

 もちろんその中にはリチャードも居て、彼女の顔が曇る。きっと彼女の中ではまだリチャードは初恋の相手で、完全になかったことにはできないのかもしれない。

 彼女には幸せが似合う。

 だから、彼女の見つめる世界も変えてしまわなきゃいけない。


「ねぇリリーナ今日はこの後講義はある?」


「いえ無いわ」


「なら一緒に図書室でレポート書かない? オレは歴史には自信が無くてね。もし良かったらだけど教えて貰えると嬉しいな」


「もう! 貴方のそういうところって本当に狡いわ」


「ダメかな?」


「そんな頼み方されたら断れないじゃない」


「ありがとう」


 自然と笑顔になれば、彼女もクスクスと笑う。良かった。やっぱり彼女には笑顔が似合う。ただ共にいるだけで楽しいと思って貰えたら一番だ。一緒に並び歩くこの瞬間すら特別だとオレは思っている。

 だから彼女にもそう思って貰えたら嬉しいと思う。


 あまり人の居ない図書室での二人の勉強会は、ここ数日続いている。不思議と心地よくて、図書室は彼女の新しい居場所になりつつある。これは良い兆候だと思う。

 本を取ろうとして爪先立ちになる彼女の姿を見つけ、すっと取ってあげれば彼女の顔が赤くなって、可愛いなと思ってしまう。やっぱり彼女を好きでいることはやめられないようだ。

 彼女は成績が完璧であるだけあって、教えるのも上手で、隣あって座り教えてくれる姿に胸がときめく。距離が近くなったことで、オレは本心を隠すのが難しいくらい、どんどん彼女にのめり込んでいった。


「そういえば貴方、結局誰をエスコートしてダンスパーティにのぞむの?」


「今年も妹をエスコートしようと思ってるんだ」


「確かに肉親が相手なら誰も文句は言わないわね」


 なぜか途端に上機嫌になった彼女に、まさか好かれているのかと思ってしまう。これが思い込みじゃなくて、しかも彼女がリチャードの婚約者じゃなかったら、オレは嬉しいのになと思った。

 ダンスパーティは今夜、この後準備があるため、今日は勉強を早めに切り上げた。


 きっちりとした格好をすれば、自分の気持ちも引き締まるもので、どこかいつもの自分とは違う気がする。何せこれが社交界での戦闘服のようなものだからだ。妹が『お兄様は本当にカッコいいわ』だなんて言うものだから本当かなと鏡を見る。今日もバッチリ決まっている気がした。

 会場まで歩いていけば異様な空気が流れていて、どうしたのだろうと思った。


 殿下がアイリス嬢をエスコートした。


 その言葉に目の前が怒りで真っ赤になった。妹に断りを入れ走り出す。彼女の居場所は考えなくても分かった。オレは生徒会室の扉を勢いよく開けた。


「イルーゼ……」


 今にも溢れてしまいそうな涙をハンカチでそっと拭う。大丈夫化粧は崩れていない。オレは彼女をぎゅっと抱き締めて言った。


「リリーナ、今日はオレに君をエスコートさせてくれ」


「でも……でも私には無理だわ」


「そんなことはない。オレが君を守る。

だから君はオレの隣で笑っていてくれ」


 その言葉に彼女は大きく目を見開き、次いでコクリと頷いた。

 ダンスパーティの開始ぎりぎりに会場入りしたリリーナとオレに、会場はどよめく。

 だが丁度音楽が鳴り始めてオレはホールにリリーナを連れ出した。


「リリーナ、オレが魔法をかけてあげる。今日この会場で一番美しいのは君だってね。だから前を向いて、そして今夜はオレだけを見ていて欲しい」


「分かったわイルーゼ、私は貴方を信じるわ」


 ダンスが始まる最初は固かった彼女の表情が次第に笑顔になり、その心からの笑みに、周りは見惚れていく。楽しげな彼女はそれはそれは美しくて、二人の時間は流れていく。ステップを踏みターンをし、彼女の生き生きとした姿にオレの顔も笑顔になる。先ほどの泣きそうな彼女が嘘のようだった。

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