表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

泣いた、悪いねこ。

作者: マーシャ

 ある街に、嫌われもののとらねこがいました。

 そのねこは食べ物を盗み、こどもを驚かせ、人間の家に入っては中を荒らすため、街の人々はそのねこが大嫌いでした。彼らはそのねこを、“悪いねこ”と呼んでいました。

 ある日、街では大きなお祭りがひらかれました。ねこは食べ物が欲しくて、お祭りの雑踏のなかへと足を踏み入れました。人間の目を盗んでは屋台の近くをふらつき、おいしそうなものをキョロキョロと探します。

 ふと、一匹のさかながねこの目に留まりました。たぷたぷのみずに満たされた袋に入っている、赤い綺麗なさかなです。その屋台にはたくさん、きらきら光るさかながいましたが、ねこには赤いさかなが一番美しく見えました。

 ねこは、そのさかなに恋をしたのです。


「やあ、さかなさん、君はとても綺麗だね」


 ねこはどきどきしながら、さかなに声をかけます。


「あら、ねこさん、ありがとう。ねこさんは、わたしを食べるのかしら?」


 さかなは心配そうにいいました。

 とんでもない、とねこは声をあげました。


「きみを食べるもんか。きみのことが好きなんだ」


「ありがとう、ねこさん。でもね、わたしは売りものなの。売れなければこの袋のなかでいつか死ぬのよ。この袋から出られないの」


「なんだって!?」


 ねこの叫び声を聞いて、屋台の人がねこの存在に気がつきました。


「おい!悪いねこめ、うちの商品を食べるつもりか!」


 ねこは驚き、飛び上がりました。咄嗟に赤いさかなのはいった袋をくわえ、急いで走り出しました。後ろから屋台の人間が追いかけてきたため、ねこは必死に逃げます。


「この、泥棒ねこ!!」


 人間は怒って石を投げてきました。

 ねこは後ろも振り返らず、走ります。


 走って、走って、走って。


 ねこは人気のない山まで来ました。


「ここまでくれば、だいじょうぶ」


 くわえていた袋を地面に降ろし、ねこは大きな瞳に愛しい彼女をうつしました。 

 ところが、赤いさかなはポロポロと涙をこぼし始めました。


「どうしたんだい!?」


 ねこはびっくりして問いかけます。

 さかなは言います。


「さっき、投げられた石が袋に当たったの。袋は破けてしまっていて、みずが減ってきてるわ。わたし、みずがないと死んでしまうの」


 ねこが振り返ってみると、走ってきた道にはみずが溢れた跡がありました。さかながはいっていた袋も、水を失ったせいか小さくなっています。


「ああ、待ってて、ぼくがすぐみずを探すよ」


 ねこは袋をくわえ、また、走り出しました。

 山をかけまわり、さかなが泳げるようなみずのあるところを必死に探します。しかし、最近はあめが降っておらず、山にはみずたまりひとつありませんでした。


 走って、走って、走って。


 ねこの体力が尽きかけるのと同時に、袋のみずもなくなりました。


「ごめんよ、ごめんよ」


 ねこは大声で泣きました。


「ぼくは、悪いねこなんだ。ぼくはなにもできない、きみを、大好きなきみを助けることもできないんだ」


「泣かないで、ねこさん。あなたは悪いねこなんかじゃないわ。わたしを連れ出そうとしてくれたんだもの」


「でも、ぼくはなにもできない。きみがすきだ、きみに死んでほしくない」


「ねこさん、どうか泣かないで」


「きみをあいしてるんだ」


 ねこは大粒のなみだをぼろぼろこぼしました。さかながいくらなだめても、ねこが泣き止むことはありませんでした。

 次第に、ねこのまわりになみだのみず溜まりができはじめました。それにも気づかず、ねこは泣き続けます。


 泣いて、泣いて、泣いて。


 ねこのなみだが枯れる頃には、なんと、ねこの前におおきな池ができていました。

 さかなは袋から飛び出て、池に飛び込みました。


「ありがとう、ねこさん!あなたのお陰でわたしは助かったわ!」


「これは、ぼくが作ったのかい?」


「そうよ、あなたがわたしのために泣いてくれたから、わたしは助けられたの」


 さかなは大喜びで池を泳ぎます。

 

「ぼくは悪いねこなのに?」


「いいえ、あなたは良いねこよ。誰かのために、こんなになみだを流せるあなたが悪いねこのはずはないわ。あなたは優しいねこ、素敵なねこよ」




 ある街に、みなに好かれるとらねこがいました。

 そのねこは盗みをする動物を叱り、こどもを笑わせ、人間に優しくするため、街の人々はそのねこが大好きでした。彼らはそのねこを、“良いねこ”と呼んでいました。

 そのねこは毎日、山にいます。食べ物が必要なときなどは山から降りてきますが、大抵は山にいます。自分の食べ物のほかに、少しのパンを持っては山に帰っていくのです。

 ある人はいいます。


「あのねこはね、山にいる、恋人と幸せに暮らしているんだよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ねこの涙に浄化されました。 素敵な作品有り難うございました。
2015/12/09 23:00 退会済み
管理
[良い点] 泣いて涙が池になる 唐突過ぎ まさかと思いましたが 童話ですもんねと 納得納得(笑) 一見軽いタッチで描かれてるように 見受けられますが結構構成しっかり してると感じます 猫に魚 涙が…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ