らしくない~連携する時って技名叫ぶよね~
まあ、そのダンジョンアタックについては割愛する。
だって、鍵穴まで戻って鍵開けてダイヤル回しただけだし!!
ホントにそれしかしてないし!!
……うん。
多分、鍵を二つそろえるために色々戦闘したり、情報収集したりしなくちゃいけなかったんだと思うんだ。
そのあたり軽快にすっ飛ばしましたよ。ええ。
――そして、今。
四人は試しの儀に挑むことになった。
試しの儀。
それはゼヘク公認の掃除人になるための最終試験。
これに合格する事で最終ダンジョンに挑むことが出来るようになるのだ。
対戦相手はTー758。通称ナゴヤ。
鋼鉄のボディ。八本足の蜘蛛に近い形状。両肩に機関銃、背には二本の蒸気管。吐き出す湯気は視界が曇るほど。
高いHP、高い物理防御力、高い特殊抵抗を持つ強敵である。
「それでは――双方賭ける物を述べよ」
審判役のロボがそう宣言し――ノブナガが一歩前に進み出る。
「ギギギ……ジャンククラッシャーのザヲカケル」
「機構核四人分――賭けましょ」
「承認する――始め!」
その声と同時――ドーザンが飛び出した。
その手には分厚い大剣――巨人殺し。
ゼヘクのロボはクリティカルでも即死しない。
そもそも弱点部位自体が狭く狙うのが難しい。
ドーザンの火力頼み。
ギイイイイイイイイイインッッッ!!
鋼と鋼の激突音。
弾かれた勢いのままドーザンは跳びすさり返す刀で再び斬りつける。
いや、それは最早――叩きつけると言った方が正しいか。
「ガン来んで!!」
「広域障壁!!」
「みゃん!!」
ガガガガガガガガガガガガガッッッッ!!
ノブナガの指示で二重の障壁を展開。
機銃の嵐をかろうじて防ぐ。
「麻痺!!」
ノブナガの魔法が飛ぶ。
一定期間の機能停止の状態異常をもたらす魔法だが攻撃力はない。
ただし。
動きが止まるというなら――この男が攻撃に加われる。
キインッ!
「っ! 外したっ!」
ドーザンとは比べものにならない程高速で飛び出したセイメイが関節部を狙って斬りつける。
だが――当たらない。
高い特殊抵抗がノブナガの状態異常魔法を弾いている。
「セイメイ! そんまま前でて盾になりい!!」
「了解っす!!」
セイメイが前に飛び出すと同時に俺はドーザンを回復。
ノブナガを守れる位置に移動する。
「……攻撃撃つわ。フォローよろしく」
「了解」
「みゅ」
詠唱に入るノブナガに軽く頷いて石英の杖を構える。
重装甲のドーザンは攻撃を食らいまくりだし、紙装甲のセイメイは一撃食らえば落ちる。
詠唱中のノブナガは他の行動はとれないし、防御・回復ってのは結構神経使う。
ツクモがいてくれてホント助かる。
「二人とも避けいよ!! 雷嵐!!」
「わ、広域障壁!?」
ノブナガの奴、識別不能スキルぶっ込みやがった……!
攻撃力もあるし、高確率で麻痺・中確率で動作不良を引き起こす強スキルとはいえ味方巻き込むか……!?
流石にそれは。
モラルがどうとかマナーがどうとかと言うよりは――らしくないというか。
「……フォローサンクス」
「……ああ」
心なしか――表情が固い。
いつも余裕綽々なコイツには珍しいほど。
「……あんまり無理すんなよ」
「すまん」
そう一言呟いて――ノブナガは詠唱に戻る。
何か言おうとして――
「っしゃあああああ!! 剣舞!!」
セイメイが雄叫びをあげる。
斬撃の嵐が吹き荒れて――
見れば八本の足の内――残っているのは既に二本。
既にだいぶ崩れたバランスがドーザンの突撃で完全に崩れる。
ガッシャアアアアアアアアンッッッッ!!
「これで――終わりだ」
動力部を貫通するドーザンの一突きで――戦闘は終了した。
* * *
「いやー、なんとか勝ったね」
「……ノブナガ先輩、ひどいっす」
「俺の巨人殺し……」
「……ドーザンうっとりした顔で剣撫でるの止めて」
試合を終えて。
なんかセイメイがふくれっ面だった。
――ノブナガの「雷嵐」は問題なく発動した。
高確率だけあって麻痺の状態異常が入り戦況が有利に傾いた
俺の広域障壁も間に合って前衛二人にはダメージもバステも行かなかった
だから――何も問題はない。
無いはず、だ。
「ノブナガ先輩……もしかして」
「なあん?」
「焦ってます?」
「まあ、ね」
ノブナガの笑顔が――ほんの少し陰った。
「みんな業界人やからね――分かるやろ。このゲームがどうなるか」
沈黙が降りた。
ああ、分かっている。
この六日間が「すろら!!」最後の六日間だ。
ログアウト不能が忌まれるのはそれがゲームの信用を大きく損ねるから。
ましてや「すろら!!」は月額課金のR18ゲームだ。
プレイヤーはゲームの世界に安住したい子供じゃない。
一時の息抜きを求めるビジネスパーソンだ。
このゲームはここで終わる。
誰にもクリアされないまま。
「――せやったら」
ノブナガは言う。
ひどくひどく真剣な目で。
「うちらでクリアしたろ思うやん」
クリアする。
ラスボスであるなんの情報もない第七ボスを打ち倒す。
俺たちは別に攻略組とかそういう訳ではない。
多分中堅程度の腕前だろう。
普通に考えて不可能。
「……ははっ」
セイメイが笑った。
「そうっすよねえ。――クリアしましょう」
「当然だな」
「ま、当たり前っしょ」
アイツには借りがあるのだ。
「hospital」というでっかい借りが。
クリアはゲームの終焉。
心ない悪意による終わりではなく――有終の美を。
それがきっと俺たちがリョーマにしてやれる全てだ。
――俺たちはまだ知らない。
外の世界でなにが起こっているか。
これから何が起こるのか。
「――それはそれとして今度ああいうことする時は事前に言ってくださいっす!!」
「スマンスマン」
本当に――何も知らなかった。
いちいち技名を連呼してるのは前衛との連携を高めるため。
無言だと訳わかんないから。
「別に俺らいつもつるんでる訳じゃねーっすから」
「以心伝心とはいかんねえ」