適任者~一人っていうか……~
リョーマの左腕。
それはもう偽装しようがないほどの個人証明だ。
この独特な質感を作るにはどうしようもなく年月がいる。
無論特殊メイクなどで作り出すことは不可能ではないだろうが――そもそもリョーマは左腕の情報を公開していない。
材料も何にもなくこれを作ることは不可能だろう。
とまあ、長々語るまでもない。
あの左腕の写真がやってきた以上、そこにリョーマがいるのは確実なのだ。
「リョーマ、コントロールルームとか大好きやったやん?」
「好きだったなあ……」
「それで巻き込まれたんとちゃうん?」
なんか未来っぽい感じが好きなんだそうで、ちょこちょこ見学に行ってはオペレーターたちを緊張の渦に突き落としていた。
はっきり言って迷惑だったんじゃね?
「左腕の包帯っつー目印があれば個人の特定はそう難しくねえよな……」
「逆に言えば、リョーマっつー人質がいるからユーザーをログアウト不能にし続ける意味がのーなったのかもしれん」
人質なんてバーチャルなモンよりリアルなモンのほうがいいやろ。
ノブナガはそういう風に言う。
しかし――しかし。
けれど反論は口から出ることはなかった。
反論が口から出ることは無かった。
舌の端に上った反論は――そのまま静かに嚥下された。
「まあ、そういっても推論に過ぎへん。うちらにできることはゲームをクリアする事だけや」
「……ま、そうか」
「つーわけでMP上げや?」
「イエッサー……」
まあ、結局こうなるのだった。
* * *
おそらくラスボス攻略に必要なパーツだからなのだろうが「アイテム鑑定V」と「意志疎通」では「意志疎通」の方が消費MPが多い。
非常に残念なことである。非常に残念なことである。
あまりに残念なので二回言った。正直、五回ぐらい言いたい。
まあ、そんなわけで。
「まだツクモとお話をしてないのに……」
「MP上げてないお前が悪い」
マサムネ、ツクモとのおしゃべりを延期してアイテム鑑定中である。
泣きたい。
「……つーか、これ種類あるっぽいぜ? 強いのと弱いのがある」
「んー、とりあえず強いのと弱いのに分けといてくれへん? それから細かく鑑定してや」
「ういうい」
四天使周回中のノブナガたちが取ってきた力の鎖は26個。
中ボスの威厳形無しの狩られっぷりであるが、まあ中ボスなんてそんなもんだ。
とにかくコーヴァスどもが強い。それに尽きる。
「とりあえず……強が4、弱が22だな」
「ふむ……ファーストドロップだけ強になるとかそういう感じか?」
「あり得るっす。ドロップ品目当ての周回は政府の最も嫌いとするところっす。こういう数集めれば強い系はそれぐらいのギミックがあってもおかしくないっす」
「なら、もっとわかりやすくしろって話なんだが……」
「巻きで来てるからなあ……ここまでくるような生産職なら普通アイテム鑑定ぐらい持ってるだろうし」
「つまりはこれ以上周回するんは無駄かもしれんちゅーことやな? で、その効果はどんなもんや?」
「えーと……」
ふむ、強と弱といったがそう簡単なもんでもないのかもなあ……。
これは使い方からして違うのかもしれない。
「弱の方は一分間どれか一つの能力を封じて、強の方はそのバトル中ずっとどれか三つの能力を封じるんだけど……」
「けど?」
「強の方は対象の近接攻撃範囲に入らないと効果がない。弱の方は遠隔攻撃範囲にいればいい。あと封じる能力はランダムだな」
「「「うわあ……」」」
ラスボス戦経験者三人集、げんなりである。
だよなあ……ラスボスの近接攻撃範囲までいってアイテム使うとか自殺行為でしかねえ。
まあ、それに見合う効果ではあるんだが。
四つ全部使うことができれば十二個の能力を封じることが出来る。そしたらもう、でっかいだけの蛇だぜ?
まあ、それは言い過ぎにしても三つはでかい。
「一番間合いに入っても平気そうなのは俺だが……」
「ドーザンのシネパラがのうなったらと攻略そのものが破綻しかねんのよな……」
「こっちにはそれしか切り札がねえっすからねえ……」
「かといって後衛がでるのは論外だろ? セイメイ出られるか?」
「まあ、努力はするとしかいえねっす……」
なんかこう……基本的にはもっと人数の多いパーティー向けなんだろうなあこれ。
レイドボスとかまではいかないにしても……。
四人パーティーで一人アイテム使いに行くって結構でかいぞ?
手詰まり感ただよう沈黙の中、口を開いたのはノブナガだった。
「……いや、一人おんのか。適任者」
「「「は?」」」
「一人というか……一匹」
「………………………ってえおい!!!」
「みゃん!!」
いつのまにか。
俺の膝の上にいたツクモが一声鳴いた。
それはもう任せて!というように胸をはっていたそうな。




