創作の現場は運次第~いやいやリョーマは良い奴なんです~
さて。
ふと思ったんだがこのままだとリョーマRPG嫌いの変人だと思われるんじゃないか?
いやいやいや。
いやいやいや。
いやいやいや。
違うんですよ。奥さん。
リョーマは良い奴なんです。マジ良い奴なんです。分かってあげてくださいマジで。
……。
…………。
こほん。
真面目な話をすれば、「hospital」の成功の立役者は間違いなくリョーマだった。
奴にだけ見えていた。目指すべきゴールが。
リョーマの指示はブレなかった。リョーマの指揮に迷いはなかった。
リョーマだけが完成形を『知っていた』。
これがどんなに有難い事か――今、痛いほど身に染みている。
あそこまで変更のない仕様なんて通常あり得ない。
俺たちはただリョーマの描いた完成図通りに創れば良かった。
だからこそ――あんな劣悪な環境で「hospital」を完成させることが出来た。
チームとチートは似ている、と俺は思う。
一人でできないことがみんなとなら出来る。魔法のようじゃないか? 夢のようじゃないか?
けれどそのためには思いを通い合わせることを躊躇ってはならない。
ゴールを共有することを怠ってはならない。
リョーマはそう言う男だった。
丁寧に簡潔に。丹念に精密に。ゴールの共有――それに余念がなかった。
……まあ。
そのゴールがヒットしたのは単純に運です。運以外の何者でもないです。
創作の現場というのは最終的には時の運です。
美は細部に宿りますが美しくなくたって売れる時は売れます。
マジで。いやホントマジで。
そこの所はリョーマにも確信はなかっただろう。
しかし「hospital」に賭けるしか道は残されていなかった。
正に最後の幻想。
……まあ、あんなことがあってちょっとばかり落ち込んでますけど。
根は良い奴なんです。
閑話休題。
ログアウト不能二日目。
俺たちは機工都市ゼヘクに来ていた。
十九世紀的なレトロな建造物が立ち並ぶ。
「……なんかあっちこっちでふしゅーふしゅー言ってるんですけど」
「スチームパンク世界やからねえ」
ゼヘクは龍人ヶ原やマルクトとは趣を事にするスチームパンク世界だ。
蒸気機関世界。
その名の通り、蒸気機関による工業化の進んだ世界。
湯気が漂っているのは温泉地だからではないのである。
蒸気機関で動くロボット兵士がここのメインエネミーだ。
「とりあえずダンジョンに行こうぜ」
「ダンジョン! RPGらしくなってきたっすね!!」
「実績作らんとボスに挑めんかからねえ」
「ふふふ……今宵の巨人殺しはオイルに飢えている」
そんなこんなで。
ダンジョンアタックである。
* * *
スチームパンク、蒸気機関。
すなわち燃料は石炭。
つまりはゼヘクのダンジョンとは廃坑のこと。
不法投棄されたロボットや廃坑に隠れ潜む悪党を退治し、その実績をゼヘク自治協議会に申請して初めてボス戦の資格が貰えるのだ。
今回選んだのは第五鉱山。
「ここはイベントの多いダンジョンなんや。僕も全部のイベントをクリアはしてへんね」
「イベント、っすか?」
「廃坑内でロボットが軍団作ってたり、犯罪組織が協議会襲撃の計画立ててたりすんのや」
「ならば、これも何かのイベントキーだったりするのか?」
そういってロボ兵の残骸からドーザンが拾い上げだのは金色の鍵。
持ち手の部分に赤い宝石のはまった豪華なものだ。
「見たこと無いけどそうなんやない?」
「宝箱っすかね!?」
「とりあえず後衛が持ってろ」
「ほいよ」
投げ渡された鍵をキャッチしてイベントリに仕舞う。
このダンジョンのメインエネミーロボ兵は弱点部位が少なく防御力と特殊抵抗が高い。
クリティカル狙いやバステ狙いは分が悪いので火力特化型のドーザンがワントップだ。
ノブナガ、ドーザン、俺、セイメイの順で薄暗い講堂を進む。
ツクモは危ないので一時的に仕舞ってある。
ダンジョン物は通常よりもパーティ内の役割分担がハッキリする。
基本的に戦闘しかやらないからだ。
このメンツで行くと……。
アタッカー:ドーザン。
サブアタッカー:セイメイ。
サブアタッカー兼シーフ:セイメイ。
メイジ:ノブナガ。
ヒーラー:俺。
という構成。
セイメイが「罠感知」「罠解除」を持っているとは意外だった。
案外コイツも四人で冒険したいと思ってくれていたのかもしれない。
しばし、罠を解除したり敵と戦ったりしつつダンジョンを進む。
何か良い手柄はあげられていない。
因みにダンジョン内ではコールしてベットしない。
ダンジョンだからな! 騒いではいけないのである。雰囲気は大事だ。
よってここではデスペナルティで失うものを選択できない。
ポーション類はまだあるが進みすぎは危険だ。
「んー?」
ノブナガが足を止めた。
「どした?」
「なんやここに鍵穴があるんやけど……」
「だけど?」
「二つ、あるんやよねえ……赤いのと青いの」
「どれどれ?」
見れば赤と青の鍵穴……の下にダイヤル。
「厳重っすね」
「厳重だな」
「重要そうやね」
「重要そうだよな」
思わず顔を見合わせる四人。
そういう訳でとりあえずこれを攻略することになったのだった。
* * *
まあ、それについては回復してからにしようと町に戻る。
適当な酒場に入ってポーションを買い込んで補給。
このゲームに限らず基本VRMMOは飲食禁止だ。
満腹中枢を刺激しすぎて食欲不振に陥るからと言うのがその理由。
あと技術的なことを言うとそこまで再現するとデータ量がハンパ無くなるから。
なのでポーションも無味無臭。喉越しすらない。
単に口に付けて傾けるだけ。マジつまらん。
「まあ、とにかく――青い鍵とパスワードを見つけねばな」
「赤鍵持ってたのが指揮官級らしかったから指揮官狙いで行く?」
「みゅう!」
「ツクモちゃんかわええねえ。まあ、それで良いんとちゃう?」
「じゃーその方針で」
「あのーすみません」
そんな雑談に、透明な声が割り込んだ。
「もしかしてそれ――赤の鍵?」
「……あんたは?」
女性のアバターだった。リアルではどうあれ。
風体からするとシーフ系のスキル構成のようだが……。
「あーリリアって言います。私青の鍵持ってるんで良かったら差し上げますよ?」
「良いんですか!?」
「ええ、私あと三分でログアウトしますし、どうせ事件が終わったらリセットかかっちゃうでしょ? なら欲しい人にあげた方が良いと思って」
だから、どうぞと差し出されたのは間違いなく赤の鍵と対の鍵。
どうする、と視線が交錯する。
ゲームとして楽しむなら断るべきだ。しかし六日というタイムリミットを考えると――。
「あ、どうも。えらいすんません。ありがたく使わせてもらいます」
「いえいえ。お互い様ですから」
「ついでにパスワードとか御存じじゃありませんやろか?」
「あ、パスワードですか? 右六、左七、右三です」
「ほんまにありがとうございます」
「じゃあ、私タイムリミットなんで失礼しますね」
「おおきに~」
……そうだよ。コイツはこういう奴だよ。
一瞬だって迷うわけねえ。だってノブナガだし。第六天魔王だし。
そういうわけで。
二度目のダンジョンアタックと相成った。
そしてノブナガハこういう奴