方言アンテナ殺人事件~そして始まる新たなる伝説~
「みゃ! みゃ! みゃ!」
小さな前足が三枚チップを滑らせる。
狙うは「赤」「偶数」「1から12」の三点賭け。
果たして小さなボールが止まったのはーー赤の6。
「みゃう!!」
ツクモのもとに七枚のチップが返される。
この一勝負で軽く二倍。
帰ってきたツクモさん――意外な博才見せていた。
* * *
一時間ほど前。
約束通りアーサーに返してもらったツクモを抱えて俺はノブナガに連絡を取った。これから帰ると言うつもりで。
だが、そうは問屋が卸さなかったのである。
『――待った』
「は?」
『不壊城におるんやな? なら朝までそこで待機しい』
「はあ?」
『攻略に必要なモンがそこにしかないんや。――リスト送るからゲットしときい』
「いや、俺今チップ一枚しかもってない……」
『マサムネ』
「……はい」
『根性見せろや?』
回想終了。
かくしてまたしてもギャンブルに明け暮れる事になった俺に意外な救世主が現れた。
それが我らがヒロインツクモさんである。
このハイスペックにゃんこがギャンブルにも対応していようとは……。
世の中ってのは分からねえ……分からねえよ。
「いやーネコさん幸運高いね」
「なかなかのものですな」
「……サン、レン、パイ」
ちゃっかりと赤に賭けていたエリオット。
くるくるとチップをもてあそぶモーリス。
黒に賭けていたアーサーは突っ伏した。
キティはリアルに帰ったとのこと。
「アーサー博才ねえな……」
「アーサーは運悪いよ」
「不運男アーサーといえばちょっとは知れた名ですな」
「オマエラ、ダマッテロ……」
ならば、先ほど引きはやはり偶然か……。
俺の運も大したことがない。
「いやーあれはユニークスキルでしょ」
「『逆転の英雄』ですな」
「おおう!?」
エリオット曰く。
一部のユニークスキルは最高レベルの封印具『グレイプニル』に優越するのだという。
魂に刻まれてる設定だからとかなんとか。
俺の「幸運の星」も多分そうだしーーアーサーのユニークスキル「逆転の英雄」もそうなのだという。
「はまれば強いですからな。あれは」
「なかなかはまらないんだけどね」
「まあすろらのユニークスキルはそういうバランスだからな」
余所のゲームではバランスぶっこわしの強スキルだったりもするが、すろらのユニークスキルは条件が厳しいか大きなデメリットのある一種のロマン技だ。
「逆転の英雄」も例外ではなく、その効果は「一定時間不利な条件を引き受ける代わりにその後極大ブーストされる」というものであるらしい。
入手条件は「不壊城で一番はじめに百連敗する」。
条件が条件だけに最初に達成した一人にだけ贈られるというのも頷ける話である。
「……って百連敗したのかよ」
「シタ」
「サービス開始初日にルーレットでねー」
「よせばいいのに0一点賭け百回やったんでしたな」
「……シタ」
うわー、不運な上にバカだ……。
まあ、ルーレットで0がでる確率は37分の1なので100回ぐらい賭ければでない方がおかしいんだが……。
「100回カケテ0が一度もデナイ確率は約6.5%……十分だとオモウだろうガ!!」
「いや、アーサー殿の運の悪さなら6.5%もあれば十分ですな」
「十分だね」
「ウウ……」
うなだれるアーサーである。
しかし、そうなると……気になることが。
「アーサーリアルでは大丈夫なんだろうな? その声デフォルトのボイチェっしょ?」
「エエイ、デフォボを貧乏人御用達ミタイにイウな!! オレは気にイッテルんだ!!」
「ロボロール?」
「チガーウ!!」
デフォボーーデフォルトボイスチェンジャーとはVRゲーム機にあらかじめ内蔵されているボイスチェンジャーのことだ。
これまた法律でVRゲーム機にはボイスチェンジャーを内蔵しなければならないと決まっているので容量をとらず著作権フリーなこのソフトがどこにも漏れなく入っている。
難点はアーサーのごとくカクカクした話し方になることだが……。
「あー、アーサーってよっぽどなまりひどいとか?」
「このリュウチョウな標準語をキイテもそう思うか?」
「まあ、確かになまってはないよなあ……」
「コレデモちゃんとハタライてる。ダイジョウブだ」
ボイスチェンジャーの内蔵が義務づけられているのは話し方から個人を特定されるの防ぐためだ。
つまりは方言による居住地域の特定を防ぐ。
過去にそういう事件がありその時の運営側の不手際もあって法律が作られたのだ。
「デフォボはデフォボ制作者のココロイキにカンドウしたんだ」
「地方を守るエンジニア有志の会ですな」
デフォボはネット上で集まった「地方を守るエンジニア有志の会」なる集団によって作られたフリーソフトだ。
VRゲーム黎明期、ゲーム上で知り合った男女の交際トラブルによる殺人事件があった。世に言う「方言アンテナ殺人」である。
まあ、いざこざの中身はほっといて――問題になったのが当時必須だった外付けアンテナと、方言だ。
被害者はかなり方言のきつい地域の出身であり、犯人はその方言から居住地域を特定。
衛星写真から外付けアンテナがついてる家を探し被害者の家を特定し犯行に及んだ。
それを受けて方言を消すために作られたのがデフォルトボイスチェンジャーであり、作ったのが地方を守るエンジニア有志の会である。
なので、本当にアクセントの平板化しかしてくれない。
ロボットロールプレイをするときにしか使われないのが難点である。
「一時期、ゆっくりボイスだって流行ったんだけどなあ」
「ボイチェは色々出ましたからな……。キティの語尾も実はボイチェですな」
「マジで!?」
マジわかんなかったぞ……。
最近のボイチェは性能良いな……。
「あらかじめ設定した声で何種類もの語尾パターン作ってAIに学習させなきゃいけないんだよね。結構高いし面倒い」
「しかし、ネコ語尾は人気ですからなあ……そうまでしてでも語尾に『にゃ』をつけたいという需要はあるようで」
「ネコ語尾恐るべしだな……」
「ゴ、レン、パイ……」
「みゃ!」
男三人ボイチェ談義で盛り上がるなか順調に勝ちを重ねるツクモと順調に負けを重ねるアーサーであった。
てか、アーサーも運悪いのになんで一点賭けばっかすんだよ……分散しろよ分散。
あとツクモがチップをてしてしやるのとしっぽくるくるするのが可愛すぎる。ツクモさんマジヒロイン。
「まあ、アンテナ方言事件でかなりVRゲームも方向性変わったよねえ……」
「変わりましたなあ……良くも悪くも」
「ああ……」
それまでは。
リアルを再現するのがVRゲームの目標だった。
よりリアルな動き、よりリアルな声……「よりリアルに」それが合い言葉だった。
だが、アンテナ方言事件以降重要視されるようになったのは「匿名性」だ。
最低限それまでのネットゲームで担保されていたのと同レベルの匿名性が求められるようになった。
結果としてあらゆる要素から個人を特定できるような癖が消されていった。
現在、ほとんどのVRゲームが技術上可能なレベルよりも大幅に低いレベルでリアルを再現している。すろらもそうだ。
思うところは色々ある。が、人命には代えられない。
「……そういえば昔のラノベでリアルのスキルが再現されるVRゲームで謎の拳法使いの主人公が無双するってのがあったよな」
「一発で個人特定されますな」
「ああ、あれ速攻でログアウト不能になってたよね」
「結局、運営がログアウト不能にした原因は書かれなかったけど、今にして思えば『もう、ログアウト不能にしちゃったほうが被害少ないんじゃね?』とか思ったのかなあとか思うよな……」
「これもそんなんだったら……イヤですな」
「イヤだね」
「イヤすぎる」
「ジュウ、レン、パイ……」
「みゃみゃ!!」
うん。
とりあえずアーサー。
お前はもうルーレットやめろ。
「ウルサイ……オレだってアイテム課金型ゲームにはテをダサナイようにしてるんだ」
「一瞬で破産ですな」
「というか……ネコさんのチップがなんか偉いことに」
「うおおおおおおお!?」
ツクモがハイパーキャットすぎる!!!
最初白チップ一枚しか無かったんだぞ!?
いつの間にか白チップに混じって銅チップが何枚もあるんだが!?
「みゃう!」
すちゃっと前足をあげるツクモさん。
満面の笑みである。
「わりい……俺ちょっとこれアイテムに替えてくるわ」
「交換所は向こうですぞ」
「ツクモ、白チップを一枚づつ賭けるんだぞ。借金しちゃだめだぞ」
「みゃみゃ!」
まかせろと言わんばかりにしっぽがぶんぶんである。
不壊城、ルーレット。
あまたのプレイヤーが泣いたこの場所で今、新たな伝説が始まろうとしていた――!




