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すろら!!  作者: 的菜何華
一日目
6/72

クリカラ・キャットフォーム~ツクモは可愛い。異論は認めない~

買い物を終えて一旦解散となった。

サードボスはこのままでは勝てないと判断したからだ。


サードボスT-758、通称ナゴヤは倶利伽羅、ヴォルフとは格が違う。

具体的に言うとHPが多い。二、三十倍ぐらいある。

防御力も高いし削るのがかなり大変。


というか、倶利伽羅とヴォルフがボスの割りにHPが少ない。

めっちゃ少ない。PCとさして変わらない。


この二人のボスはゲームシステムに慣れるためのチュートリアル的な位置付けで、一人でも倒せるようにデザインされている。

本番は――ここからだ。


それはさておき。


「みゃう! みゃう!」

「ツクモー。あんまりはしゃいじゃダメだぞー」

「みゃう!!」


俺たち一人と一匹は龍人ヶ原に来ていた。

ここにツクモの家族がいる。


「にゃ!」

「なうー」

「みゅあ!」

「みゃん!」


コロコロと白と黒の四つの毛玉がツクモ目がけて飛び出してきた。

ツクモの弟妹達だ。

お兄さんやお姉さんはもう余所に貰われていったそうな。

流石、「すろら!!」のアイドルである。引く手数多だ。


「みゅう!」


ぴんとしっぽを伸ばしてツクモが答える。


「「「「みゃ!」」」」


四重の鳴き声共にツクモの前に整列する弟妹達。

……可愛い。

全員ツクモをキラキラした目で見つめてやがる。可愛い。

「おねーちゃん! おねーちゃん!」って感じだ。


良くできましたと言うようにペシッペシッと二本のしっぽでツクモが地面を叩くと弟妹達が一斉にツクモに群がった。


「「「「みゃああああん!!」」」」


……ああ、癒される。

白と黒のにゃんこが玉になっている。これを見て癒されない奴がいるだろうか。いやいない。


「みゃ」

「にゃあ」

「ご無沙汰しておりました!!」


猫玉鑑賞中の俺にとことこと近寄ってくるのはツクモのご両親。

すんなりした美人黒猫のお母様と貫禄ある白猫のお父様。


速攻で土下座。流れるように土下座。むしろスライディング土下座。

こちとら大切な御嬢さんを連れ出して戦闘させているのだ。弁解の余地はない。


ミュミュの小さな体にはフォルスの実は毒だ。適合者であってもそれは変わらない。

細かく磨り潰して餌に混ぜて少しずつ食べさせて――それでも。

木の実を食べる度ツクモは倒れる。


いつも聞き分けの良いお利口さんの彼女が苦しそうに横たわってか細く泣きながら俺のローブの裾を爪でひっかくのだ。


「……みぃ」


行かないで。そばに居て。そう言うように。


……やべえ。マジ萌える、とか思ってないんだからな!? ホントだぞ!?

いや、正直きゅんときたが。


辛いのならやめようかと言ったこともあるのだが……。


「みぃっ!!」


きっとした顔で睨みつけられた。

彼女の誇りが許さなかったらしい。


それはさておき。


気分はまさに嫁の実家に顔を出した夫。

単なる一と零の塊だろうと背中を預ける相棒の両親。

粗略には出来ないよな……。


「お世話になっております。これはつまらないものですが……」


用意した六尾のアジを差し出す。

龍人ヶ原は海から遠いのでこれは喜ばれるはずだ。


「……にゃあむ」

「みゃ」


ひとまず合格のようだ。

やはり、欲しいな「意志疎通」……。


「お嬢さんは俺が命に代えてもお守りいたしますので、どうかご安心を」

「にゃあ」

「みゃ」


鷹揚に頷くお父様。当然と言うようにつんとすましたお母様。

合格……なのか?


「みゃ! みゃ! みゃ!」


背後から援護射撃が来た。ツクモだ。

もう、鳴き声だけで分かるってあたり末期なのかもしれない。


「みゃ」

「にゃあ」

「みゃ! みゃ! みゃ!」


そして突如始まるミュミュ会議。

……さっぱり分からん。


どうやら、渋い顔をする親御さんをツクモが必死に説得してるらしいのだが……。俺にミュミュ語はわからない。


しかし、こうしてみるとツクモお母さん似だな。

すんなりした体つきやつんとすました時の顔がよく似てる。

ツクモも将来こんな美人さんになるんだろうか……。


「みゃ! みゃ! みゃ! みゃあ!」

「みゃあみゃあ」

「……にゃあん」


もめてるらしい。

動向をはらはらと見守る俺にのっそりとお父様が近づいてきた。

お父様は俺の石英の杖をちょいちょいと猫パンチする。


「……? ……っ! どうぞ!!」


一瞬、呆気にとられてから思い当たる。

そうだ。ミュミュは回復術師であると同時に付与術師でもある。


「にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ……」


お父様はにゃあにゃあ言いながら俺の杖に爪で文様を刻みつけていく。

爪痕に次々と青い光がやどり溝を満たしていく。


「にゃ!」


お父様が一声鳴いて手を離した時。

ぷにぷにの肉球だらけの手で書いたとは思えないほど精緻な紋章が俺の杖に刻まれていた。


ステータスを確認してみる。

特殊効果:ミュミュの守人。ミュミュを対象にした回復・防御の効果が二倍になる。


……おお、これはかなりすごい効果なんじゃないか?

なるほど。これでしっかりツクモを守れと。


「ありがとうございます。お父様。お嬢さんは必ず俺がお守りいたします」

「にゃあん」


満足げに一声鳴いてお父様は愛妻の傍らに戻る。

くそう。カッコいい。大人の余裕がマジダンディ。


「――何かと思えば、我から我が眷属を奪った男ではないか」

「みゃ!」

「みゃ!」

「みゃ!」

「倶利伽羅様!」


唐突に現れたのは九本のしっぽをもつ巨大な猫。

龍王倶利伽羅の猫形態である。


 * * * 


龍王倶利伽羅。「すろら!!」で一番忙しいボスである。

立ち位置的にはスライムに近い。


つまり初心者が最初に挑む敵。


「すろら!!」にはいわゆるボスでないモンスターというのは存在しない。

いや、存在はしている。ミュミュなんかが代表。

だが、彼らは倒して良いモンスターではないのだ。


「すろら!!」には魅力(カリスマ)という隠しステータスが存在する。

ざっくり言うとNPCからの好意度だ。

これが高いと非戦闘員ならNPCの方からアイテムを進呈してくれる。

戦闘員なら強いエネミーが宣戦布告してくれる。


この魅力(カリスマ)はミュミュみたいなボスでないモンスターを倒すとがくっと減る。

もうブラックマンデーかってぐらい減る。

現実で言えば子猫をいたぶって喜んでいるようなものだからな。

そりゃあ引くだろう。


ただ、戦闘員としては戦う相手がいないと困る。

そういうわけで「すろら!!」のボスは大変に忙しい。

特にファーストボスである倶利伽羅は非常に忙しい。

休日には倶利伽羅様待ち行列が発生するぐらいだ。


そんなわけで。

倶利伽羅様はいっぱいいる。

セイメイが戦った侍形態にセクシーな女格闘家形態など。

今のところ十六の形態が確認されており――それらは本体の写し身にすぎないという。

倶利伽羅様ラスボス説が囁かれるのも頷けようって感じだ。


あり得る話ではあるとは思う。

前に酔っぱらったリョーマは『なんでボスはあんなにHPが多いんだ!! おかしいだろう!!』とわめいていたし……。

まさかガチで低HPラスボス作っていないだろうな……?

ああ、やりそうで怖い。経験点システムにすらケンカ売ったぐらいだからな……。


そんなわけで。

倶利伽羅猫形態クリカラ・キャットフォームである。


「……うむ、我が眷属に無礼を働いていないようで大変結構。これからもこのように」


ぶおん。

扇風機のように九本ものしっぽを回して倶利伽羅は上機嫌だ。


「にゃ」

「みゃ」

「なあ」


ぺたんと平伏す猫三匹。

その横で俺も膝をつく。


「大事ないか? ツクモ」

「みゃ! なあみゃあなあ! みゃみゃみゃ! なうなう!!」

「そうかそうか。それは何より」


……ツクモよ。なんて言ったんだ?

いや反応からして俺の悪口じゃねえのは分かるけど……すげー気になるなあおい!!


「ツクモを大切にしてくれた礼だ」


ぽいっと。

しっぽがリズミカルに動いて何かが飛んできた。

投げ渡されたのは銀色の指輪。

ステータスを見ると「紅龍の瞳」の文字。

魔法命中に十、防御効果に二十の中々の一品だった。


「光栄に存じます」

「ツクモを頼んだぞ」


そう言って悠然と立ち去る九尾の猫の後姿に向かって一人と七匹はいつまでも礼をしていたのであった。

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