四天使~いやちょっとこれ無理ゲーすぎだろ~
「……ミカエルっつー時点で予測しとくべきやったわ」
「ガブリエル、ラファエル、ウリエルといたっすか……」
「うわー……マサムネに『第六ボス倒したったー』とか自慢げにゆうたんちょーハズいんやけど……」
ノブナガ意気激消沈だった。
ののじ屋ヴァルハラ店にてぐったりしている。
「一応一人でも倒せばラスボスに挑めるみたいっすから嘘は言ってないっすよ」
「……せやけど、現状では手も足もでないやん」
「まあ、残り三人倒すしか無いな」
ラスボス手前の四天王戦。
一人でも倒せばラスボスに挑めるが四天王を倒した数によってラスボスの強さに補正がかかる。
よくある、といえばよくあるギミックである。
それだけに見抜けなかった事が悔しい。
「……まあ、予想通り倶利伽羅真形態だったっすし」
「倶利伽羅十六の形態全ての特殊能力が使えるとか……チートすぎやわ」
「完全に詰んでるな」
「無理ゲーっす」
猫形態で魔法連続攻撃。
鳥形態で飛行状態。
侍形態で物理連続攻撃。
忍形態で隠密状態。
仙人形態で魔法範囲攻撃。
踊子形態で回避力上昇。
騎士形態で防御力上昇。
幽体形態で魔法攻撃無効。
弓兵形態で遠隔攻撃。
盗賊形態トラップ配置。
格闘形態で防御力無視。
粘体形態で物理攻撃無効。
神官形態でHPとMPを回復。
付与形態で全能力上昇。
楽士形態でバットステータス付与。
龍形態でブレス攻撃。
……無理ゲーすぎる。
魔法攻撃無効の上に物理攻撃無効って……何。
その上こっちの防御力は無視してくるとか……なんなのこれ。
「『ぼくのかんがえたさいきょうのくりからさま』ってかんじっすね……」
「最強すぎや……『かみ』やってそんなに強くないやろ」
「天使どもを倒すことで能力をいくつか封じれるんだと思うんだが……」
「問題はいくつ封じられるんかやよね……」
少なくとも魔法攻撃無効と物理攻撃無効は封じたい。
というか封じないと死ぬ。
あとは回復技、防御力上昇、回避力上昇も潰しておかねばヤバい。
「少なくとも五つっすか……」
「この大天使のドロップ品『力の鎖』で封じられるっぽいんやけど……」
「となると、封じられて四つか」
「とすると、属性変更は必須っすね」
その時。
からりと障子が開いて女中さんが入ってきた。
ノブナガが雇っている店員のNPCだ。
豊かな金髪を日本髪に結ってるところがシュールである。
「旦那様、木の実の方加工終わりましたのでお持ちしました」
「ありがとさん」
大ぶりの湯飲みを受け取って躊躇無くゴクリ。
「……よし、エンチャント能力が生えたで」
「「……は?」」
「では、私はこれで」
「うん、ありがとさん」
一礼してにこやかに出て行く女中さん。
同じくにこやかに見送るノブナガ。
そして呆然と固まるセイメイとドーザン。
「うん? 知らんの? NPCにお金払うと木の実の加工代行してくれんやで?」
「だから、どっからその金は出てくんですか!!」
「店持ちなめんなや?」
「…………ドーザン先輩」
「諦めろ」
ドーザンの目からハイライトが消えていた。
「つーか、ため込んでもゲーム終わったらパーやで? なら使うやろ」
「…………終わっちゃうんすね」
「正直、惜しくはあるがな」
あの男がここまでまともなゲームを作るとは思わなかった。
感慨深くドーザンは言う。
「hospitalはリョーマの執念の物語だったからな」
「マジ電波だったっす……」
「まあ、だからこそーー怖かったんやけど」
hospital。
それは崩壊する正義の物語だ。
* * *
意外に思われるかもしれないがhospitalと言うゲームには死体は出てこない。
グロテクスな化け物も――美少女の裸も出てこない。
地方都市の総合病院を舞台にいっそ淡白と言っていいほど淡々と物語は進行していく。
語られるのは――二十年前の医療ミス。
一人の少女が死んだその事件を被害者の少女の幽霊や当時の担当医、事件を追う記者などの立場から語られていく。
そして。
それぞれが掲げる正義を粉微塵に破壊していくのは――謎の少年の幽霊。
純真そのものの笑顔で信念をへし折っていくその姿は――どこかリョーマに似ていた。
* * *
「もーマジ電波だったっす……」
「まあ、オンライン全盛のこの時代にあえてのオフラインやったからねえ。癖がある方が話題になって良いわけやし」
「『頼れるものは己一人。だからこその恐怖』がコンセプトだったからな」
「シナリオ作る方の身にもなってくれっすよ……。バットエンドルートとか作ってるだけで鬱になりそうでしたっす……」
セイメイはげんなり顔である。
シナリオ担当という役割上一番リョーマの被害に遭いやすかったのがセイメイである。
必死に考えたシナリオをしょっちゅう没にされていた。
「『もっと救い無く』とか『もっと悲惨に』とかうるせーんすよ」
「まあ、だからウケたとも言えるわけやしね」
「それは否定できない」
信念を砕かれて――正義を壊されて。
何を信じていいのか分からなくなって。
だからこそその先にある一つの希望は多くの人の心を揺さぶった。
「リョーマ自身のキャラクターも世界設定に合っていたからな。あの左腕の包帯がなければここまで流行ったか分からん」
「キャラ立てとしては有効やったからね~」
「ノブナガ先輩言ってましたっすよね。『正視に耐えないけど売れるから良し』って」
「まあなあ……」
売れるから良し。
それがこの三人に共通する思いだった。
正直気持ち悪いとも思ってはいたが――それでも話題性を重視してスルーした。
その読みは――確かに当たったのだけど。
「……マサムネだけやったね。笑ってたのは」
「マサムネ先輩も相当っすよね……」
「だけどそんなマサムネを――リョーマは信じて無かった」
リョーマの根底にあったのは人間に対する不信感だとドーザンは言う。
何度笑いかけられても――何を肯定されても。
それでも誰一人信じられなかった。
それが。
きっと。
あの男の一番の亀裂。
「だから、思ってはいた。――『心から信じられる誰か』が現れれば」
あの男は――劇的に変わる。
それは――同僚でもなくて。
それは――親友ですらなくて。
たった一人のどこにでもいる女の子だった。
「――惜しい人を亡くしたものです」
ノブナガが標準語で言った。
悼むように閉じた目には一体何が映っていたのか。
脳裏を過ぎるのは――平凡な女の子の弾けるような声。
『初めまして!! 香坂縁です!! もうすぐ坂本縁になる香坂縁です!!』
向日葵のような――笑顔だった。




