ステープラー、あるいはホチキス~やっぱもふもふは正義~
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「罰と言うのは――罪だよな」
リョーマがそんなことを言ったのは――高校三年生の春だった。
「どんな理由があれば、人から金銭を取り上げたり、人を閉じこめたり――人を殺したりできるって言うんだろうな」
それは――国家という名の暴力にすぎない。
それは――正義という名の理不尽にすぎない。
「冤罪が起こる度謝って――そんなことするぐらいなら最初から捕まえよなきゃいいのに」
良心の問題に――多数決は適応されない。
だったら、たった一人の冤罪者を守るために十万の犯罪者を見逃す正義だって――あって良いはずなのに。
「無罪の人も有罪の人も――等しく同じ人間のはずなのに」
一方だけ――不当に閉じこめて、苦しめて。
あまつさえ殺しても良いなんて――どんな精神が言うのだ?
「ああ――もうどうしようもなく、悪だよな」
はらはら、はらはら。
窓の外では桜が舞っていた。
* * *
別にリョーマが無政府主義者だったとかそういうことではない。
刑罰を悪といいつつ――必要悪としては認めていた。
社会を形作る上でどうしようもなく必要なこと。
所詮人はそんな風にしか生きられないのだと自嘲気味に笑っていた。
「でもな。殺人だけは許せないんだ」
くるくるとシャーペンを回しながらリョーマは言った。
「犯人を――殺人者を罰する理由に被害者を出すのだけは許せない」
きちんと言うべきだ。
ムカついたから――罰するのだと。
ただ、殺人者と同じ空気を吸いたくないから――殺すのだと。
被害者のことなど――何一つとして考えてはいないのだと。
「殺された無念を勝手に語って――人を殺す理由にするのだけは許せない」
ザンッ。
机に突き立てられたシャーペンが墓標のように揺れた。
* * *
「ミュミュ コワイ!」
「コワイ!」
「コワイ!」
「うるせえ……焼き鳥にするぞ」
ピーチクパーチク泣きわめくコーヴァスを引き連れてノヴァーリアの裏路地を歩く。
危険極まりない行為だが――こいつらのスカウト能力は本物だ。
ここまで騒いでもさしたるトラブルにも巻き込まれない。
――偉大なる石化弾のお力によって。
俺はコーヴァスを三羽ほどテイムする事に成功していた。
まあ、コイツらは龍人ヶ原におけるトナトナ並にテイムが簡単なので順当な結果である。
「ヤキトリ! ヒドイ!」
「ジンケン! ジンケン!」
「ギャクタイ! ハンタイ!」
「……」
地位向上を目指して泣きわめくコーヴァスの鳴き声をBGMに――考えるのは突如送られてきた写真のことだ。
ホチキス――ステープラーでもジョイントでも良いが――が無数に突き刺さった左腕。
アレはおそらく――リョーマのものだ。
* * *
ホチキスの針を左腕に突き刺すとはリョーマの奇癖の一つだ。
陶然とした――至福の表情で奴は左腕にホチキスの針を突き立てる。
毎朝午前七時に左腕の包帯をとって昨日打ち込んだ針を抜き――新しい針を突き立てる。
血の滲んだ左腕に新しく包帯を巻き付けて――終わり。
小六の頃からの――毎朝の習慣だという。
元々はーー奴の母親がやっていたことらしい。
リョーマが悪いことをしたとき――お灸代わりにホチキスの針を突き立てていたという。
それも異常だと思うが――自分にとっては母親との大事な絆だというリョーマの顔は至福に満ち満ちていた。
「ノブナガとかはドン引きしてたなあ……」
まあ、それが一般的な反応だと思うが。
俺もあまり好きじゃない。
ただ、これをやらせないとリョーマはリストカットに走るのである。
その二択なら俺はホチキス派だった。
「……」
黙って画像を確認する。
本来なら白く柔らかいはずの皮膚は赤黒く変色している。
腕の内側のこの皮膚は十年以上に渡る損傷のせいで硬質化している。
人体よりもビニールに近い独特の感触はマネキンを思わせた。
その硬質化した皮膚を時折カッターナイフで削ぎ落とすのも習慣で。
プラスチックの破片のような皮膚片がリョーマの席の周りに降り積もっていたものだ。
最早感覚も出血もほとんどないのだとリョーマは誇らしげに笑っていた。
「……」
向きの揃わないホチキスの針はストレスの証。
機嫌のいいときのリョーマは手首に平行に打ち込んでいく。
傷口がつながって裂けないように少しずつずらして打ち込まれたホチキスの針は――銀色の蛇のように見えたものだ。
「……」
重なり合って打ち込まれた通常サイズのホチキスの針の下には厚手の書類をまとめるための大型のホチキスの針が打ち込まれている。
構造的に人体に打ち込むことは出来ないそれを改造して人体に打ち込めるようにしたのはリョーマだった。
通常サイズじゃ物足りないのだと邪気のない笑顔でリョーマは笑っていた。
それもまた――ストレスの証。
「……」
それは。
十年以上に渡るリョーマの自傷の歴史だ。
毎日毎朝繰り返し積み重ねられてきた人体破壊の集大成だ。
一朝一夕に真似できるものではないし――容易く偽装できるものではない。
「……」
つまりこれは。
疑いようもなく――リョーマの腕だ。
死んでいるのかも――知れないけれども。
「……さて、ツクモ探すか」
むやみやたらに――もふもふが恋しかった。




