バッグインバッグ~とりあえずあたって砕ける~
それはーー実に和風の外観だった。
浮世絵に出てくる呉服店のような間口の広い建物。
板張りの上がり口を抜けると敷き詰められてるのは――畳。
そろばん片手に控える店員がみんな羽付きなのはご愛敬だが――紛うことなき日本家屋だった。
古代ギリシャを基調とした町並みにとてつもなくそぐわない。
「……」
「……」
「……」
ドーザンはぽかんと口をあけ、セイメイはただ呆気にとられていた。
そして――ノブナガだけが――ドヤ顔だった。
そう、つまりは――これこそが。
のの字屋ヴァルハラ店であった。
* * *
思い出して欲しい。
ノブナガ、この男の持つ称号スキル――広域商人を。
その効果は「自分の持ち店とのアイテムのやりとり」。
そこが自分の店であるならば――別の星だろうと神界だろうと問題にならない。
すなわち。
ゼヘク店に預けられた「紅龍の瞳」を――ヴァルハラ店で受け取ることが出来るのだ。
「……いや、理屈はわかるんすよ? そういうことが可能だということはわかるんすよ。……だからって本気でやろうとする精神が全く分からないってだけで」
「……同感だな」
最早、ドーザンやセイメイに理解できる領域では無くなってきた。
商人系魔法使いノブナガ、独走で暴走中である。
「ん~、前々から第六ステージあたりに店出そういうんは思っとったからねえ」
「……広域商人のために?」
「広域商人のためにや」
提供されるアイテムはログアウト者が増えて終わりが明確になればなるほど増えていくだろうことは想像に難くなかったとノブナガは言う。
ラスボスの一歩手前あたりで装備やスキルを整える必要があるだろうと呼んでいたらしい。
「だから、ゼヘクに寄ったとき店の材料一式持ってきとったんねん」
「いやいやいやそれはおかしいっす!!」
ダウトと言いたい。
店一件分の建材背負ってここまできたと言うのか。
「マジカルナップザック+不思議なポーチやね」
「不思議なポーチは俺ももってるっすけど……」
不思議なポーチ。
持ち運べるアイテム量を増やすアイテムとしてはかなり下級のものだ。
アイテムスロットはわずかに十個増えるだけ。
初期で百個あるから決して多くない。
「マジカルナップザックはスロット五百増やすんやけど……不思議なポーチを入れ子にすることが出来るんや」
「……は?」
「つまり『アイテムを十個入れた不思議なポーチ』を一個のアイテムとしてスロットに入れることが出来るんや」
つまり、十かける五百で五千である。
それぐらいあれば店一件分のアイテムを持ち歩くことも不可能ではないだろう。
いや、そんなことよりも。
「……え、今ひょっとして『俺は不思議なポーチ五百個持ってるぜ』って言ったっすか?」
「持っとるよ」
すろら!!においてはアイテム所持量が増えるアイテムというのは結構高めに値段が設定されているのだが……この広域商人の前にはそんな常識ちり紙以下であった。
不思議なポーチ手に入れるまでの冒険がセイメイの脳裏を走馬燈のように過ぎった。
「……ドーザン先輩」
「なんだ」
「もう、ついてけねえっす……」
「俺もだ」
そんな二人の呟きが蒼穹に溶けた。
* * *
「さて、紅龍の瞳を手に入れた訳やけど」
くるくると人差し指に引っかけた指輪を回しつつノブナガは言った。
「こっからどーするかやね……」
「お? すぐに特攻するんじゃねーんすか?」
「……ミカエルが弱すぎる気がすんねや」
くるくる、くるくる。
銀と赤の軌跡が回る。
それを頬杖をついてノブナガは眺める。
「……なんや、見逃してることがありそうな気がすんのや」
「……ノブナガ先輩が強すぎるだけじゃねーすか?」
「それはあらへんよ」
あっさりとノブナガは首を振った。
「ウチの強さなんてたかがしれとる。攻略組のしっぽの方やろ」
「……それでも攻略組ではあるのか」
「うん」
即答だった。
断言だった。
……自明の事らしい。
「――しゃーない」
くるくる、くるり。
人差し指に引っかけた指輪を器用にはめて――ノブナガは立ち上がる。
「――あたって砕けんで」




