ゼロ二つ違う~げに悲しきは格差社会~
ファーストエリアボス倶利伽羅には十六の形態がある。
倶利伽羅猫形態。
倶利伽羅鳥形態。
倶利伽羅侍形態。
倶利伽羅忍形態。
倶利伽羅仙人形態。
倶利伽羅踊子形態。
倶利伽羅騎士形態。
倶利伽羅幽体形態。
倶利伽羅弓兵形態。
倶利伽羅盗賊形態。
倶利伽羅格闘形態。
倶利伽羅粘体形態。
倶利伽羅神官形態。
倶利伽羅付与形態。
倶利伽羅楽士形態。
そして。
最も強く最もレアで最も美しい形態。
それが――倶利伽羅龍形態である。
* * *
「まさかドーザンが龍形態に出会っていようとは……」
「驚きっす」
倶利伽羅の形態は――プレイヤーにとって有利なように決められる。
正確には――プレイヤーがその真価を発揮できるように決められる。
侍には侍を。
弓兵には弓兵を。
格闘には格闘を。
神官には幽体を。
魔法使いには粘体を。
それぞれその持ち味を最大限生かせるように対戦形態は決められる。
そのシステムの中で――龍形態とは。
いずれの形態にも当てはまらなくなった強者の前にだけ現れる幻の形態である。
「市街戦闘員だからな……始まりの町で盗賊を追っかけてる内になんか強くなってたんだ」
「ほう。で、ホンマは?」
「……………しばらくボスの存在に気付かなくてな」
「ドーザン先輩、説明書読まないっすからね……」
なんかうっかり適正ステータスを大幅に振り切るまでファーストエリアでのたくたしていたらしい。
「いや、違うんだ。始まりの町に出る盗賊団の頭、そいつがボスだと思ったんだ。アジト壊滅させてから倶利伽羅の存在に気付いたんだ」
「なんのフォローをしてるんっすか……」
フォローになってない。
ただのうっかりさんである。
「それにしても……倶利伽羅、な」
「まさかの倶利伽羅ラスボス説再浮上っす」
「……単なる一人二役かもしれんが」
「それは、ないわ」
ノブナガは確信を持って首を振る。
「例えば……奈々ちゃんいるやん? 本木奈々ちゃん。 ヴォルフの秘書の声あててる子」
「俺、CD持ってるっすよ。歌も上手いし若手の注目株っすよね」
「ゼロ二つ違うんや」
「「は?」」
ああ、世の中とはかくも非情なのである。
世の中の理不尽さを噛みしめつつノブナガは言う。
「御大と奈々ちゃんだとギャラゼロ二つ違うんよ。御大の役なんか迂闊に増やせへんねん」
「ひゃく、ばいっすか……?」
「ゼロ二つ……」
「一回、仕事頼んだことあんねん。だから確実や」
恐るべき業界裏話である。
それでもボス声が御大だと売り上げが違うので使わざるが得ないという。
地声の渋さはもちろん演技力が違う。
同じような役ばかりのはずなのに――聞いただけでどの役か分かるほどである。
「……倶利伽羅、か」
「……逆に分かんねえっすよねえ」
「……資格、資格、資格、なんかあったか?」
うーんと首を捻る三人。
しかし、心当たりはない。
「……ミュミュっすかねえ? 倶利伽羅の寵愛深き種族らしいっすよ?」
「となると、マシロか?」
「流石に簡単すぎやない?」
ミュミュのテイムは非常に簡単だ。
龍人ヶ原を歩けば連れてって連れてってと寄ってくる。
電脳化さえしていなければ――イージーモード中のイージーモードである。
「適合者のミュミュ……とか?」
「とすると、ツクモか?」
「いやいや、ツクモちゃんて……あれユニークモンスターやろ? 難易度高すぎやない?」
「ツクモちゃんユニークなんすか?」
「適合モンスターは基本ユニークらしいねん」
「まあ、確かに強すぎっすよね……」
適合モンスターは育てればプレイヤー並に強くなる。
その強さはツクモで証明されているようなものだ。
そのツクモだって人数外の分だけ成長は遅くなってるはずで……他のモンスターなんて推して知るべしである。
「なんかこう……ミュミュ育ててると称号がもらえるとかそういうのがあればそれが臭いんやけど」
「………………あ」
「どした? セイメイ」
ぽかんと口を開けたセイメイは呆然と呟く。
「マサムネ先輩、倶利伽羅から指輪もらったって言ってたっす……」
「指輪!?」
「『紅龍の瞳』とかっていう……ステはそんな良くないっすけどマサムネ先輩ずっと付けてたっす」
「……当たりっぽい、な」
「せやな」
はああああっと盛大にセイメイがため息をつく。
ようやっと肩の荷が下りたような顔である。
「じゃ、マサムネ先輩待ちまましょうっすね」
「ん?」
「いや、マサムネ先輩から指輪もらわないとダメじゃないすか。船マサムネ先輩が持ってるから追いかけるって訳にも行かないっす」
「ああ、それか」
この時。
目をギラリと光らせたノブナガはまさしく魔王のようであったと――後にセイメイは語る。
八重歯をのぞかせて暗黒微笑を浮かべた様はまさしく悪魔のようであったとドーザンは語る。
ともかく、ノブナガはこう言った。
「安心しいや――策はあんねん」




