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すろら!!  作者: 的菜何華
一日目
4/72

クワトロ・ヴァン・ディズ・ヌッフと言う語の必殺技感は異常~四つの二十と十九~

狼王子が走る。

広場の大きさは直径二十メートルほど。

間合いなんざ一瞬で詰められる。


「みゅうううう!!」


その鼻先に飛びかかる黒い小さな影――ミュミュ。

二本のしっぽを持つ子猫のモンスターで微弱ながら回復・強化・防御の力をもつ「すろら!!」のアイドルである。


「なるほど――後衛職が何故と思ったが、調教者(テイマー)か」

「……」


小さい。

王子もそこまで大柄じゃないがこうしてみると我が相棒の小ささが際立つ。


ミュミュに殆ど攻撃能力はない。小さな牙と爪がほぼ唯一の攻撃手段だ。

そう。

だからこそ――タイミングを誤るわけにはいかねえ。

思わず、ロッドを構える手に力がこもる。


「まさか――子猫一匹と言うわけではあるまい?」

「狼風情――子猫一匹で十分」

「みゅみゅうううううう……」


わが相棒――ツクモは狼王子を睨みつけて唸りを上げている。

頼もしいね。まったく怯んでねえ。


「ほう。子猫一匹で十分か――その身で試すと良い!!」


ジャキッと両手のタガーが増えて俺目がけて飛来する。

畜生。普通そうだよな。俺だって後衛から狙うわ。


「みゅ!!」

障壁(シールド)!!」


ツクモと俺の二重の障壁でタガーを弾く。

……技名を連呼しながら戦うのって趣味じゃねえんだが、ツクモとの連携を考えると仕方ねえ。

深呼吸一つ。

出し惜しみは無しだ。全力で行く。


「ツクモ!! 成獣化(グロウス)!! 致命上昇クリティカルアップ!!」

「みゃみゃみゃ!!」


三連の鳴き声と共にツクモの体が成長する。

……小せえ。成長したっつっても成猫程度だからな。


「みゃみゃみゃああああん!!」


ミュミュというモンスターは本来戦闘には向いていない。

「すろら!!」屈指の癒し系モンスターであり便利機能搭載の日常用のモンスターだ。

それでも。

俺がツクモを使うのは理由がある。


「……適合者か。随分とレアなものを使う」

「ものじゃねえ――ツクモは俺の相棒だ」


適合者。

実はプレイヤー意外のNPCやモンスターにも「フォルスの実」の適合者はいる。

噂によればラスボスは適合者らしいのだが――それはさておき。


「ツクモ!! 命中上昇(コントロールアップ)!!」

「みゃああ!!」

「相手が子猫では――二対一とは卑怯なりともいってられんかっ!!」


ツクモの爪が王子の首筋を狙う。

その爪をタガーで弾いて王子はツクモを弾き飛ばした。


そう。

本来ヴォルフ戦は一対一でなければいけない。

プレイヤーはおろかテイムしたモンスターの参戦も許されてはいない。

かろうじて許されているのはミュミュをはじめとした極めて弱い日常用のモンスターだけ。

これらのモンスターは人数外(アウトナンバー)という特殊能力を持っており既定数までは人数に含まれない。

しかし、その特性も適合者になると失われてしまう。


が、ミュミュだは別なのだ。

数多のモンスターの中でミュミュだけが――適合しても人数外(アウトナンバー)を失わない。


「みゃ!!」

「はは!! 子猫と侮ってる訳にもいかんようだっ――!!」

「みゃあ!!」


ツクモは弾かれた勢いのまま空中で身を捻り――出現させた障壁を蹴って更に首を狙う。

ツヤツヤの黒い毛並みが軌跡を描く。

空中での高速機動は彼女の必殺技。

王子のタガーがそれを弾こうとして――ツクモの爪から光が伸びた。

射程延長(レンジアップ)

近接武器の射程を延ばす近接職に人気のスキル。ツクモの場合は爪と牙だ。


「はは!! 子猫と侮ったことを詫びねばならんようだな!! 猫の勇士!!」

「みゃあ!!」


俺はツクモと王子の戦いを見つつ――一歩下がる。

隙がねえ。まったくもって隙がねえ。


わが相棒ツクモの最大の弱点は体が小さいことだ。

すなわち後衛への壁としては役に立たない。


今も――ツクモと戦っている筈の王子が虎視眈々とこちらを狙っているのが分かる。

ああ、狙うなら後衛の回復から。基本だよな。


ツクモは攻撃力そのものはさして高くない。弱点攻撃による即死狙いの軽戦士だ。

対する狼王子も即死狙いの軽戦士。

狙うとしたら体ちっこくて弱点部位が分かりにくいツクモより後方で突っ立てる俺だ。


「猫の勇士!! 汝の忠誠に敬意を表して!!」

「みゃ!?」

「――っ!? 障壁(シールド)!!」


ツクモの悲鳴。

この小さな相棒は自分が狙われた時に悲鳴なんか上げない。

ツクモが叫ぶのは――俺が狙われた時だ。

……まったく俺にはもったいないぐらいの相棒だよ。


「子猫一匹に随分と手こずるじゃねえか――狼王子」

「は! 彼の者は勇士の名に値する! 全力をもってお相手しよう」


そう言って狼王子の一方の手でツクモを押さえつつ――片手が俺の方に向く。


「削り殺そう――マサムネとやら」


氷の矢が飛ぶ。「障壁!」

炎の玉が飛ぶ。「障壁!」

間を縫うようにタガーが飛ぶ。「障壁!」


ツクモを相手にしながら――俺に嵐のように攻撃を浴びせかける。

まったく嫌んなるぜ。今までは本気じゃなかったってか?


ガリガリと削られる障壁。食い破ったタガーが突っ込んでくるのをかろうじて躱す。

……次はおそらく避けられん。


俺はそこで覚悟を決めて――



















――笑った。


「さて、今障壁張ってんのは誰でしょう?」

「――っ!? まさか!?」


ようやっと気づいた?

最初に言ったよな。ミュミュは回復・強化・防御(・・)をするモンスターだと。

俺は声出してただけさ。


俺は魔法を解き放つ。俺が唯一使える攻撃魔法。

「――チェックメイト、だ」


――解き放たれた真空の刃は過たず狼王子の首筋を切り裂いた。


「――決着!!」


秘書官の声。

一拍遅れての歓声。


俺とツクモの――初勝利だった。






クワトロ・ヴァン・ディズ・ヌッフ……フランス語で九十九。直訳すれば四つの二十と十九。マサムネが唯一知っているフランス語。

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