ミワミワまふまふ~意思疎通がレアすぎる~
我らが親愛なるブラック企業worksworksworksには一つのルールがあった。
朝七時から朝七時十五分までの十五分間はどんな作業をしていてもいったん休憩。
絶対十五分休み――それがルールだった。
勿論。
正規の勤務時間は朝九時から午後五時までなので――朝七時に出勤している時点で残業確定である。
というか徹夜明け確定である。
正直、それぐらいだったらとっとと帰って寝たいのが本音であり――あまり人気でなかった制度なのだが。
なにせ、給料出なくなる前からその十五分間給料でなかったし。
しかし。
一人抜け二人抜けしていく中で――一人当たりの作業量が加速度的に増えていく中では。
数少ない――情報共有と息抜きの時間だった。
その頃になるともう五人とも――会社に住んでいるようなもので。
自宅には本当にごくたまに着替えを取りに行くだけで。
夜もなく昼もなく――食事すらとったりとらなかったりで。
だから。
七時のチャイムがなるとみんなホッとしたように作業の手を止めて。
お茶を飲んだり、コーヒー入れたり、仮眠をとったり、ストレッチしたり、バク転したり――そして。
左腕の包帯を取り替えたり――した。
* * *
「みゃみゃみゃみゃみゃ!!! みゃうなうみゃう!! みゃあああああん!!」
「おー、ツクモどうした? そんな興奮して……」
「大変大変大変なのー!! 大事件なのー!!」って感じだ。
前足を上げたり下ろしたりわたわたと非常に忙しい。
うーん。
なんかツクモ的に大変な事が起こった事はわかるが……詳細は流石にわかんねえな。
「みゃみゃみゃ!!」
そう鳴いて左前足を右前足でてしてし叩くツクモ。
「……蚊に刺されたのか?」
「みゃああん!!」
ぶんぶんと首を横に振るツクモ。
違うらしい。てしてし、てしてし叩き続ける。
怪我したわけじゃなさそうだが……。
「うーん?」
「みゃあ!!」
俺の察しの悪さに業を煮やしたのかツクモはぷいっとどこかに言ってしまった……「意志疎通」欲しいなあ……いまだに発見できてないってどんだけレアなんだよ。
「…………」
「みうみうみう!!」
と思ったら。
ツクモがドーザンを連れて戻ってきた。
ん? なんかドーザンが上の空だな?
「ドーザン、どうかした?」
「……ああ、そうか、ツクモ聞いていたのか」
「何をだよ」
「…………すまない。今はまだ気持ちの整理がついていないんでな。落ち着いたら全部話す、と言うことにしておいてくれないか」
「? まあ、良いけど? おーい、ツクモそう言うことでいいか?」
「……みゅう」
「あんまり良くないけど……まあ、いいって事にしておいてあげるわ」といった感じのツクモ。
しっぽが不満げに揺れている。
うーん。こういう感情面の事はスキル無くてもだいたい分かるんだよなあ……事実の伝達が難しいだけで。
「……悪いな」
「ま、良いって事よ。俺一応お前のこと信じてるし」
「…………一応か」
ドーザンが力なく笑って。
そして二人は船に乗り込んだ。
* * *
「うーん、日程考えたら今日中に次のエリア行きたいねん……」
「でも、流石に補給なしって訳にはいかねえっすよ?」
「結構広範囲に点在してるからなあ……」
「船の速度を考えれば一日でまわりきれなくもないが……」
レーヴェ社のコロニーに船を泊めて――補給も兼ねて作戦会議。
なにせ宇宙は広いのだ。計画的にまわらないと一日でまわりきれない。
「手近なとこからまわっていって……三つ目と四つ目の間でナティルに寄って補給して……」
「七つ目の前には補給入れたいが……」
「七つと決まってるわけでもないしな」
流石に第六ステージ――第七ステージがラストだから最後から一個手前――ともなると情報が少ない。
リセットかかるかもってことで普段より断然情報が出回りやすくなっている今ですら――万全とは言い難い。
「うーん。とりあえずいっちゃん近いとこに突撃するしかなさそうやね……」
「それしかないかあ」
「ないっすね……」
「ないな」
そういうわけで。
ブラックホールへ突撃である。
* * *
ブラックホール。
中心部が光すら飲み込むほど超高密度・大重力になった天体……ではあるのだが。
流石にゲームでそこまでは再現されてない。
至近距離まで近づいても――引っ張られたりはしない。
「あえていうなら――ただのミワミワした黒い穴っすね」
「ミワミワってなんだよ!?」
「そうだな。正しくはうにょんうにょんした黒い穴だ」
「え? まふまふやろ?」
「お前らの擬音センスに異議ありだよ!?」
……ま、そんな擬音談義はさておき。
とにかくただの黒い穴なのである。
「ま、いこか」
「りょーかい」
そして、俺は。
アクセルを踏み込んだ。
直後――視界が闇に閉ざされる。
自分の手すら見えない真っ暗闇。
その中をひたすらに――直進。
しばらくして――突如船が停止。
その勢いのまま――前に投げ出される体。
「わっ!!」
「むっ!!」
「ぎゃっ!!」
「ぐへっ!!」
ぐるんぐるんとそのまま前転して。
三回転してようやく止まった俺たちのめに飛び込んできたのは――遙かな蒼穹と飛び交う天使達。
視線を下に戻せば――地面の代わりにふかふかふわふわの雲。
俺は――叫ぶ。
「船どこ行ったあああああ!!!」
理不尽に反抗する俺の叫びが――蒼穹に溶けた。




