シリアス開始~あれ? シリアス始まるんだよな?~
「……どないしょ」
掲示板を眺めつつノブナガはアイテムの山の隙間に仰向けに倒れ込んだ。
畳の感触を背中で感じつつ――ぱらぱらと腹に降ってくるアイテムを手ではらう。
ノブナガ――織田拓海という男はリョーマ――坂本龍馬という男の事があまり好きではなかった。
自分と同じ――本音を隠す仮面を付けた人間の匂いがするから。
なにより――その左腕の包帯の下が。
どうしても――好きになれなかった。
無論。
その仕事ぶりに関しては評価しているし、あの修羅場を乗り越えたもの同士としての仲間意識みたいなものはある。
あの男は「hospital」は勿論――その後も次々とヒット作を生み出している。
その事自体はとても評価している。
また一緒に仕事したいぐらい、といったら言い過ぎだが。
とにかく、ノブナガにとってリョーマはあくまでも――リョーマが親友と呼ぶ――マサムネを介しての友人という位置づけに過ぎない。
実際二人で飲みに行ったり食事したりといったことはほとんどない。
あっても終始無言だった。
それでも。
「……これはアカンやろ」
ひたひたと。
ひたひたと。
忍び寄る最悪の予感を前に――ノブナガは一人呟いた。
* * *
「えー、いい加減ログアウトしてからのことを決めようと思うんや」
俺の口に木の実(加工済み)を放り込みつつノブナガは言った。
場所はのの字屋ゼヘク店応接室――現在はアイテム置き場――である。
「ログアウトしてからっすか?」
「エスケープボタンが押されてからってことか」
ノブナガは頷く。
「せやね。一応タイムリミットギリギリまで粘れるとすると……ウチ、ドーザン、セイメイ、マサムネの順になるんか?」
「微差だけどなー。リアルタイムだと二十分と違わないだろ」
「こっちだと八時間差……ぐらいっすか?」
「だな」
20×24=480。
480÷60=8。
セイメイよ。文系とはいえこれぐらいはさっと暗算しろ。
「ウチらの家族は新幹線使わな東京来れへんけど……マサムネは実家東京やん?」
「二十三区外だけどな」
「電車だと何時間ぐらいっすか?」
「一時間ぐらいだな」
「「近っ!!」」
だから、男同士でハモっても嬉しくも何ともないっちゅーんじゃ。
ちなみにドーザンは京都出身。関西弁喋らないけど京都出身。
ちなみに京都出身ではあっても「京都人」ではないらしい。
その二つの間には越えられない壁が存在するとか。
「高知とか……陸の孤島なんやで?」
「陸の孤島っていうか四国自体島じゃないすか」
「四国の中でも陸の孤島やねん」
それはさておき。
「ま、そんぐらいならボタン押しにこないとも限らんやろ」
「……まあな」
「なら、ログアウトしたらウチらのボタン押しに来てくれへんか?」
「あーノブナガんちって六本木だっけ?」
「そやね」
「俺新宿っす」
「ドーザンは青山やったっけ?」
良いとこに住んでやがるぜ、畜生。
俺か? 俺は秋葉原だよ!! ゲームが買いやすいぜ畜生!!
「まあ、一回来たことあるからわかるやろ? 時間に余裕があるようなら押しに来てや」
「ま、良いけど。もし万が一お前等の方が先だったら押しに来いよ?」
「ええよ」
「了解っす」
じゃ、ウチドーザンに連絡しとくわ。
そう言ってノブナガは奥に引っ込んだ。
「マサムネ先輩」
その隙にちょいちょいとセイメイが俺をつつく。
「……なんだよ?」
俺をつついて良いのはツクモだけだ。
野郎につつかれて喜ぶ趣味はない。
そう言おうとして――セイメイのマジな顔を見て。
思わず口をつぐんだ。
「――ノブナガ先輩、様子変じゃありません?」
「……まあな」
ノブナガの顔色というのは読みにくい。
わざとらしい関西弁の裏に隠された本音を読みとるにはそれなりの経験が要求される。
例えば――本音を隠す余裕もない修羅場を共にくぐり抜ける、とか。
「……なんか、ピリピリしてるっていうっすか」
「……なんか、隠し事がありそうだよなあ」
うーん、と考え込む二人。
といってどうすることも出来ず……ん?
そうだ、こんな手はどうだ?
「よし、ツクモ。ちょっと偵察に行ってこい」
「みゃ!」
「うおお……まじっすか」
こそこそと。
ノブナガに聞こえないように声をひそめて話す二人と一匹。
「みゃ!」
元気よくそう一声鳴いて。
しゅたっと敬礼してツクモは出発した。
* * *
「みゃ!! みゃみゃ!! みゃみゃん!!」
三分後。
ツクモはやけに興奮して戻ってきた。
しっぽがぶんぶんなって、前足がすごいわたわたしている。
どうやらすごいスクープを取ってきたらしい。
「聞いて聞いて!!」って感じだ。
しかし。
「……何言ってるかちっともわかんねえっす」
「……ああ」
ミュミュ語のわからない二人であった。
「……って、マサムネ先輩どうにかしてくださいっすよ。飼い主でしょ」
「……ふふふ、ついにこの秘密兵器の封を開ける時が来たようだな」
そう言ってしゃきーんと腕のウェアラブルコンピュータを構える俺。
「ついに購入しました! 意志疎通用アプリ、その名も……『みゅみゅりんがる』!!」
「うわ……パチモンくせえっす」
「まあ、パチモンだからな」
「パチモンなんすか」
「イエローで買ったジャンク」
「……それ、ダメじゃないっすかね?」
論より証拠。
俺は早速アプリを起動してマイクをツクモに向ける。
「ほーら、ツクモ。簡潔に報告してみような~?」
「みゃん!」
ちょっと緊張気味のツクモ。
アナウンサーのようなおすまし顔で話し出す。
「みゃ。みゃみゃ。みゃみゃん。みゃむみゃむ。みゃあ」
『解析中デス……解析中デス……解析完了』
思わず、モニタをのぞき込む二人と一匹。
そこに出ていたのは――
『お腹が空いたにゃん』
「みゃあああああああああああああん!!! みゃああああああああああああああああああああん!!」
ツクモぶちぎれました。
顔真っ赤にして俺のウェアラブルコンピュータにミュミュパンチ。
ふしゅーふしゅーと涙目でお怒りの様子。
「あたしこんなこと言ってないもん!! 言ってないんだもん!!」って感じである。
「……マサムネ先輩、やっぱパチモンはダメっすよ」
「……ああ、アンインストだなこりゃ」
本日の教訓。
パチモンに良品なし。




