許せる事と許せない事~実は俺はホラーゲームやらない派~
さて。
気付くやつはもう気付くんじゃないか? ……と思うのは自意識過剰か?
五年も前の話だしな……。良い子のみんなは知らないかもしれん。
それでも並べてみてあっと思った奴は相当なゲーム通だ。褒めてやろう。
システム担当、伊達マサムネ。
ビジュアル担当、斉藤ドーザン。
シナリオ担当、安倍セイメイ。
サウンド担当、織田ノブナガ。
デザイン担当、坂本リョーマ。
そう、五年前に大ヒットしたVRホラーゲーム「hospital~それでも君が~」の制作陣とは俺らの事だ。
……騙りじゃねえぞ? 本人なんだからな? 証明しろって言ってもなあ……。リョーマの包帯の下がどうなってるかとか、ドーザンの「眼鏡をキラーンと光らせるテク」の詳細とか、実は関西でも何でもないノブナガの地元の話ぐらいしかねえわ。
……ああ、そう。それで十分だって? ならいいわ。
まあ、あれだ。
「hospital」のヒットから流れるように社長の横領へと続き当然の結果として倒産へと至ったゲーム制作会社worksworksworksの最後の社員が俺たちだ。
……半年間給料払われなかったブラックすぎる労働環境はマジかって? マジだよ。
制作中に一人減り二人減りしていって最終的には俺ら五人しか残らなかった……。
まあ、創作の現場っつーのはどうしてもブラックになりがちだ。
物を――それも今までになかったようなものを創るってのはそんな簡単なことじゃねえのよ。
それにしたって半年無給はひどい方だけどな。
……それでも、自分たちの作ったもんが完成して市場に出回った時俺たちは報われる。
それがヒットして高い評価を得られれば半年無給だったことなんざどうでも……よくはならないが。よくはならないが!!
まあ、でも。
ボーナス弾んでくれればまあ、良いかなぐらいには思った。
だからこそ。
愛人に貢いで会社が傾くまで金使いこんで――結果としてhospitalの続編を出せなくしたあのバカ社長を許すつもりは毛頭ない。
ブタ箱ぶち込まれたのは双方にとって最善だっただろうぜ。迂闊に会ったら殺しちまう。
まあ、その後五人とも結構いい条件で転職できたし――悪い事ばかりじゃなかった。
全員バラバラの会社になっちまったけどな。
ゲームの中とはいえこうして会えるのが結構楽しみだったりする。
それはさておき交易都市マルクトだ。
道中は何もなかった――つーかポータルで転移するだけなので何も起こりようがないんだが――ので省略。
城壁で囲まれたいかにも中世っぽい街並みの中心――その広場に狼王子はいる。
この円形の都市は八方向の門から広場に向かって放射状に道が伸びている。
つまり、どの門から入っても道なりに進めば広場に出るって訳。
広場の中央に胡坐かいたいかにもグレてますって感じのパンクなにーちゃんがこの都市の『最強』。
実際このゲームにしては結構渋いスキルを備えていて中々強いとの評判だ。
スタイルとしては短剣二刀流の魔法剣士。
近距離も遠距離もいける口だそうで。
「誰行きますー? やっぱドーザン先輩っすか?」
「いや、俺が行く」
「「「は?」」」
三人の声が重なる。
「マサムネ先輩、非戦闘員じゃないっすか。どうやって戦うんす?」
「同感だ。こういうのは戦闘員に任せておけばいい」
「見せ場ぁ取られそうになって慌ててまんなあ。ドーザン」
訝しげなセイメイ。
不満気なドーザン。
くつくつと笑うノブナガ。
三人を見渡して俺は不敵に笑う。
「非戦闘員の戦い方――見せてやるよ」
* * *
「つーか、アレっすね」
「何だ」
「いやー、マサムネ先輩にも熱血成分つーか中二病成分あったんすねえ……」
「まあ、なんも無かったらこんな業界けえへんやろ」
「まあ、そうっすけど……マサムネ先輩ってめっちゃ理系じゃないっすか。だからなんかこう……意外っていうか」
「お前の理系観はどこかおかしい」
「……むしろ理系だからやない? マサムネ国立大卒やろ? ゲーム業界に限らへんかったらもっといい勤め先あったんとちゃうん?」
「あー、マサムネ先輩ゲーマーはゲーマーっすよねえ……」
「てめえら……ごちゃごちゃうるせえ」
まあ、良い。
なにはともあれコールだ。
「すいませーん!! 対戦希望のマサムネでーす!! 一試合お願いしまーす」
一瞬の静寂。
そして、湧き上がる歓声。
マルクトでは広場での戦闘を観光資源にしている。
王族直々に相手を務めるあたり本気度がうかがえよう。
「……対戦を希望するならば、資格を示せ!!」
ヴォルフが言う。声まで渋い。
しかし。
「お黙んなさい」
狼王子はぺしっと頭を叩かれて沈黙した。
「対戦希望者の方ですか?それではこちらにベット内容をお書きになって少々お待ち下さい。倶利伽羅さまの紹介状はお持ちですね?……はい結構です。それではベット確定までこちらでごゆっくりどうぞ」
キビキビと手続きをすませるのは英語教師っぽい美人。
ひっつめにした金髪にシルバーフレームの眼鏡。
タイトスカートから伸びる足は見惚れる脚線美。
名前不詳のヴォルフの秘書官である。
ヴォルフとデキているともっぱらの評判。
大人しく席についてしばし待つ……っと忘れちゃいけねえ。
ここではロトが出来るのだ。
「王子に二千!!」
「ヘボいのに五百!!」
「王子に五千!!」
っともう賭けが始まってるなあ……八対二で王子優勢ってとこか。
まあ、俺も初対戦だからな。勝てるかどうか分からん。
啖呵切ったものの……非戦闘員だからな……。
ちなみにスタイルとしては回復兼付与の純後衛。
そりゃ、ヘボいの呼ばわりされるわけだぜ……。
まあ。
切り札は用意してあるんだがな。
「俺に五千賭けます!!」
そんなところか。
ちなみに自分には賭けられても相手には賭けられない。八百長防止。
さて。そろそろか。
「ベット確定いたしました!! 両選手前へ!!」
秘書官の声が響く。
狼王子は両手のタガーをくるくると回して構えた。
俺はロッドを構えて距離を取る。
「始め!!」
さあ。
バトルスタートだ。