玉砕覚悟で特攻~クロックアップはVRの特権~
体感時間加速技術はVRゲームの基本だ。
脳の処理速度を加速させてリアルでの時間よりも長く遊べる技術。
この技術によってVRゲームは普及したと言っても過言ではない。
だが、この技術にも欠点があって。
ゲーム内で寝た――精神的疲労を軽減する目的で推奨されている――場合時間加速は解ける。
つまり、寝ている間は体感時間もリアルと同じように時間が流れる。
「すろら!!」では二十四倍速という高倍率なので、ちょっとうとうとっとしたらもう起きる時間である。
まあ、別にガチ寝する必要はないので。
体感で五分ほど――ゲーム内の時間で二時間ほど仮眠を取れば十分。
それでMP・HPは全快するし、かなりリフレッシュできる。
そんなんだから。
ゲームの中で夢を見ることはあまりないのだが――この時は久しぶりに夢を見た。
たわいもない夢だった。
俺は高校生で、リョーマと一緒で。
一緒に飯食ったり、勉強したり、遊んだり。
『リョーマ、ゲーセン行かね?』
『クレーンゲー以外なら』
『お前、根に持ってんなあ……分かったよ、もう粘ったりしねえよ』
『ならよし。俺のトリプルコンボが火を噴くぜ』
『は? 負けねえし』
かつてと同じ光景。
ただ一つ違うのは――リョーマの左腕。
そこにトレードマークの包帯はなくて――傷一つ無かった。
そのことに俺もリョーマもなんの疑問を抱いておらず――そのことが。
目覚めた俺の胸の内に澱のようによどんだ。
* * *
「みゃ!」
ツクモが右前足をしゅたっと振り上げる。
「にゃ!」
マシロちゃんもしゅたっと振り上げて――ぷにゅっとハイタッチ。
「みゃ!」
ツクモは右前足を下ろして左前足をしゅたっ。
「にゃ!」
マシロちゃんもしゅたっとして――ぷにゃっとハイタッチ。
「みゃあみゃあ♪」
「にゃあにゃあ♪」
よくできましたと言うようにツクモはマシロちゃんのおでこを舐める。
マシロちゃんもご機嫌でのどをならす。
「和むわ~」
「和むっす」
「和むな」
「和む」
ミュミュはこと和み力にかけては右に出るもののいないモンスターである。
美人姉妹のきゃっきゃうふふなんて和まないやついるだろうか? いやいない。
「……そろそろ、本題に入ってもよろしいでしょうか?」
そういってこほんと咳払いするアズールもさっきまで和みまくっていたので説得力はない。
が、そろそろ話を始めるべきだろう。
「ああ、お待たせして申し訳ない。――四隻の船をお貸しいただけるとのことでしたが?」
「そのあたりが落とし所かと。艦隊戦となってしまうと戦略が全く違ってきますし」
基本、「すろら!!」の戦闘は同数同士で戦う。
この場合は船の数だから五隻対五隻。
艦隊船となれば数十隻の船が乱れ飛ぶことになる。
最早海賊退治でも何でもない。そんなのはただの戦争だ。
「こちらが要求するのはブラン・レザール氏の身柄と船五隻として……こちらからは何を提示できます?」
「……そちらが船を引き渡して良いなら、転移妨害装置を引き渡して良いと」
「……引き渡して良いと?」
「そのあたりも含めての『実用化』ですので」
「なるほど……」
つまりは、ベットの対象になる程度に有用で――もし、取られてもどうにかなる程度にポンコツ。
そのあたりの落とし所を探ったところああいう形になったということか。
「もっとも、あれを前線に出すかどうかは……」
「そうどすなあ……あれ一個で一隻になります?」
「なりますね」
「うーん……」
転移妨害装置に戦闘能力はほとんどない。
ぶっちゃけ偵察用に格納した一億のボロ船の方がまだましなぐらいだ。
あっちは一応ミサイルとか撃てるし。暇を見てはちょこちょこ改造してるし。
「牽引役の船も必要になりますしね……無論、戦闘が始まる前に撤退することも出来ますが」
「その場合ほとんど避けられも逃げられもせずタコ殴りやと」
「そうなりますね……」
「すろら!!」世界では「敵に奪われたらヤバいから爆破してやるぜ!!」的なことは出来ない。
ベットした以上負けたら引き渡さなければならない。
さながら神が定めた摂理のごとく――絶対なのがベットである。
それはさておき。
作戦、的な物が無くもない。
若干危なっかしいが……俺は手近な紙にさらさらと仕様を書く。
「ん~、質問なんですけどこういうのって用意できます?」
「……? 随分特殊な物ですが……おそらく用意できるかと」
「大至急お願いします」
分かりましたとアズールは答えて俺の書いた仕様書を部下に渡した。
「それが届いたらすぐに渡してください。最速で調整しますんで」
「分かりました」
「で、転移妨害装置なんですけど……」
そんなかんじで話し合って。
なんとか落とし込んでお開きとなった。
* * *
さて。
早速宇宙である。
もう時間が無いので色々と巻きである。
正直、もうちょっとじっくり調整とかしたかったのだが……まあ、しょうがない。
時は金なりだ。
「……大丈夫っすかね」
「ダメだろう」
「ダメやね」
「ダメだな」
「全否定っすか!?」
セイメイは叫ぶが――実際色々と詰んでいる。
ショートカットにショートカットを重ねて来たことがここに来て響いている。
純然たるステータス不足。それに尽きる。
今まで数々のトリックプレイで誤魔化してきたことがついに誤魔化しきれなくなったというか。
勿論、ここに至るまでチューブや木の実で最大限強化しているが――それでも。
全然足りない、と言って良い。
「まあ、一応切り札は用意したがな……そもそも正規船五隻と同時戦闘ってのがかなり無理ゲーだし」
「結局転移妨害装置連れてくことになったすしね……」
「無いと詰むやろ。仕方あらへん」
「ただ、実質五対三になるからな……」
「うわあ……」
どんよりした空気が狭いコクピットに満ちる。
「ま、玉砕覚悟で行くか」
「そっすねえ……」
「まあ、そうやねえ……」
「そうだな……」
そんなこんなで。
玉砕覚悟の宇宙バトルである。




