作用反作用~そんなこんなで終わる三日目~
「作用反作用の法則って知ってるか?」
「なんなん、いきなり……」
「しらねえっす!!」
うん。今日もセイメイは文系である。
「要するに物体Aが物体Bに力を及ぼすとき、同時にBが同じ大きさの力をAに及ぼすという法則――の事だな。何かを押せば押し返される」
「わかんねっす!!」
「じゃ、お前物体Aな」
船内を無重力モードにして適当な荷物をセイメイに渡す。
「今持ってんのが物体B。前に向かってぶんなげてみろ」
「? ういーっす」
首を傾げながら荷物を前に放り投げるセイメイ。
荷物はひゅんっと前に飛び――セイメイはふよふよと後ろに下がる。
「荷物を投げたら後ろに下がっただろ? これが反作用だ」
「おお~」
無重力モードを解除しながら説明する。
「ようは『何かを前に放てば放った方は後ろ向きの力を得る』って法則があんだよ。基本宇宙船ってのはこの力を使って動いてるんだ」
「で、それがなんなん?」
「別にそれは燃料に限った話じゃねえってこと。ミサイル飛ばしてもレーザー飛ばしても反作用は発生する」
極論すれば人は呼吸するたびその反作用を受けてる。
それで体が動かないのは地面との摩擦や空気抵抗が存在するからだ。
逆に言えば。
そのどちらも存在しない宇宙空間では――その影響は極めて敏感に現れる。
「だから武装を発射するたびガスを噴出してバランスとるシステムがあんだけど、その辺をちょっといじくってみたんだ。これで戦闘時かなり動きやすくなったはず」
武装の反動って結構馬鹿にならない。
リアルでも無反動砲とかあるし。
あらゆる向きを操る超能力者でもなければ対策は必須なのだ。
「元々ついてなかったん?」
「物理ベースのはそのまんまでも良かったんだけど、魔法は使用者依存だからな。ノブナガに合わせて調整しといた」
「ああ、そうなん? ありがとさん」
今までだとノブナガの魔法の反作用を殺しすぎて魔法うつたびに前方向に加速してたからな。
その隙をつかれて二隻も取り逃がしてしまった……。
これでもう取り逃がしたりしないはず。多分。
「欲を言えば魔法火力上げたいんだけどなあ……」
「マサムネなんか攻撃魔法使えんの?」
「空気刃ぐらいしか……あと魔力増強Ⅲが使えるからバフかけられるけど」
「効果時間どんくらい?」
「五分かそこらってとこか」
「タイミングが重要やな……運転しながらだと発動体杖じゃ都合悪いやろ。……あった。これ使いい」
そう言ってノブナガが投げてよこしたのは赤い腕輪だった。
鑑定すると「紅玉の腕輪」と出た。
魔法命中と攻撃に30。
防御魔法と付与魔法にボーナスがつく。
「運転しながら魔法使うのか……疲れるなあ」
「ツクモちゃんに癒して貰えばええやろ。あんな美人ときゃっきゃうふふ出来るなんてこっちが羨ましいんや」
「どーだ。羨ましいだろー」
「めっちゃムカつくからやめい」
そんな事をダベりつつ。
俺らはナティルに帰還した。
* * *
「お待ちしておりました!!」
「「「「お待ちしておりました!!」」」」
ナティルに降り立った俺らを迎えたのは――整列した兵士達だった。
昼行灯と名高いナティル正規軍のくすんだ灰色の制服じゃない。
白地に鮮やかなエメラルドグリーンのライン。右胸のポケットには蜥蜴のエンブレム。
精鋭ぞろいのレザール社ナティル支社警備部だ。
「レザール社ナティル支社警備部第一部隊長アズール・トリトン以下三十名。レザール支社長ヴェール・レザールより貴殿らと連携して海賊退治せよとの命を受けて参上いたしました!!」
「「「「参上いたしました!!」」」
ざっと。
訓練された一糸乱れぬ敬礼。
「……監視っちゅー訳かい」
ぼそりと呟いたノブナガの悪態は――幸いなことに向こうには聞こえなかった。
まあ、ここでへまをするノブナガでもないが――つまりは、そういうことだろう。
レザールにとって最悪なのは家出息子の身柄をレーヴェに押さえられること。
なんと言ってもレザール一門直系だ。ごまかしはきかない。
それを防ぐために虎の子の実戦部隊を投入したってところか。
「ホンマ心強いわあ~。よろしゅうたのんます」
空々しい笑顔で一歩前に出たノブナガが手を差し出して――
「は! 是非とも海賊どもを一掃しましょう!!」
アズールは白い歯を光らせてその手を握りかえした。
* * *
転移装置のレザール。
魔法変換器のレーヴェ。
宇宙船業界ではそう言われているらしい。
無論、レザールが魔法変換器を作らないわけでもレーヴェが転移装置を作らない訳でもないが――代名詞的な得意分野としたらやはりそうなる、らしい。
何が言いたいかというと。
今、俺の目の前に鎮座しているこれが――レザールの秘密兵器。
転移妨害装置である。
装置というより――船である。
ちいさなコントロールルーム一つ残して中型船まるまる一つがその装置で埋まってしまっている。
エンジンを極限まで削った結果としてトロいし。
燃料や酸素もそんなに積めないから長距離の運航は出来ない。
武装なんて上等な物はない。防御も最低限である。
定員はわずかに二名。装置担当と運転担当。それで精一杯。
「……どーせいっちゅーんじゃ」
「同感だな」
「船自体はこっちで紐つけて引っ張ります。奴らが出てきてから作動させる形ですね。ようやっと実用化までこぎ着けられました」
「……ビミョーにこぎ着けられてへん気がすんのは気のせいやろか?」
「ははは、面白いことおっしゃいますね」
アズールは白い歯を光らせていい笑顔である。
しかし、その目が若干泳いだことを見逃す俺らでもなかった。
「……ともかく、コイツが出来たから海賊退治に本腰を入れる気になったってことだな?」
表向きは、とは言わない。
言っても仕方ないだろうし。
「……いえ、これは内密にお願いしたいのですが」
アズールは声をひそめた。
「ナティル支社長ヴェール・レザール様のご子息ブラン・レザール様が宇宙海賊どもに誘拐されておりまして……その奪還を優先するようにと仰せつかっております」
「……それは大変ですなあ」
アズールの顔色だけではその真贋は分からない。
プレーヤーから聞いた話とは違うが――何かのフラグが立って違うルートに入ったのかもしれない。
「分かりました。そういうことなら協力しましょ。ただ――こっちもレーヴェとの契約があるんで……」
「ご子息の身柄さえ引き渡していただければ正規船は乗組員共々引きとっていただいてかまいません」
「それは、おおきに」
慎重にノブナガは頷く。
何か見落としがないか頭をフル回転させているのだろう。
「では、詳しいことは中で話し合いましょう。明日の作戦決行までに出来る限り話をつめておきたいので」
「……そうですなあ」
いつしか――日が傾いていた。
こうして。
数多の疑問と不吉な予感を乗せたまま――三日目が終わる。




