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すろら!!  作者: 的菜何華
三日目
26/72

命がけの関西弁~そのうちどすとか言いかねない~

「ようこそ、と言っておこうか。招かれざる客人達」


ヴィクトリアンスタイルの豪華な応接室だった。

近未来チックな外装にも素朴な周囲の村落とも違う鮮やかな内装。

異彩を放つのはそこかしこにあしらわれた――蜥蜴の紋章。


「おおきに」


こちらはノブナガが一歩前に出た交渉用のフォーメーション。

カバー役のドーザンが右斜め後ろに控え、俺は背後で杖を構える。


「――して、獅子の走狗が何の用かね?」

「――ウチら、蛇退治頼まれたモンなんですけどなあ」


青く、白く、青白く。

不可視の火花が空間に散った。


「――ご子息のことで、相談がありまんのや」


 * * * 


巨大企業(メガコーポ)レザール社。

それがここナティルの支配者。

ナティルの開拓者は九割方レザールの傘下だ。


俺らが訪ねたのは――その現地支社支社長の邸宅。

そして、この目の前にいる男こそ――レザール社ナティル支社支社長。

銀色の髪を一部の隙もなく撫でつけて――高級そうなスーツに身を包んだ初老の男。


ヴェール・レザール。


レザール一族に籍を置く支配者直系の男である。


「――誰からそれを聞いたのかね?」

「――聞くまでもあらしまへんやろ」


ノブナガは飄々とうそぶく。


宇宙海賊(スペースパイレーツ)がなんぼのモンか分かりまへんけど――いくらなんでも強すぎでっしゃろ」


獅子のお方が蜘蛛の手を借りてまで潰そう思うなんて――ただのならず者の訳あらへん。


くすくすと。くつくつと。

ノブナガは口元を押さえて笑った。


「その仕事がウチらみたいな流れ者に回ってきたのも――おかしおすやろ?」


まるで。

――すぐに切れる尻尾を探しとったみたいやあらしまへんか。


「それとうちの息子となんの関係が?」

「非正規船は金貨一枚――おかしいでっしゃろ? まるで正規船を捕まえてはならないみたいやおまへんか?」


もし。

――捕まえてはいけない理由が蜥蜴にあり、

――捕まえたい理由が獅子にあるのだとすれば。


「随分な侵略者っぷりでしたなあ? ――正義感の強い子供なら反発しそうな絵面でしたなあ?」

「何が、望みかね?」


会話を断ち切るように――この星の支配者は言った。

ノブナガは――笑う。

黒く、黒く、漆黒に。


「――ご子息の身柄はそっち渡します。やからウチらの邪魔せんといてくれます?」


 * * * 


「……えっと、どういうことすか?」


屋敷を出て。

セイメイが口を開く。

うんうんと頷くドーザン。

俺も同意見だ。


「んー? つまりはレザールのお坊ちゃんが家飛び出して海賊になってもうたんやろ」

「マジすか……」

「多分、元々はレザールの支配に反対するものが集ったのが始まりなんよ。それがいつからか――レザールの下請けとして動くようになったんや」


お坊ちゃまはそれが許せんかったんやろうね、とノブナガは言った。


「……なんでそんなこと分かるんすか?」

「レーヴェのコロニーで聞いた」

「台無しだよ!?」


くそう、「なんて名推理だ!! 格好いい!!」とか思った俺の感動を返せよ!!


「口を開くだけで女の子の口が軽くなる方言――それが関西弁や」

「何カッコつけてんだ高知県出身東京在住!!」

「大学は関西やったし。わざわざ本場の関西弁覚えるために受験したんやで?」

「マジすか!?」

「マジやよ」

「残念ながら本当だな」

「残念言うなや。こっちは命がけやで?」

「??? ノブナガ先輩関西弁話さないと死ぬんすか?」

「まあ、広く言ったらそうやね」


からからとノブナガは笑う。

コイツにしては珍しい――あっけらかんとした裏表のない笑み。


「ウチ酒が飲めんやろ」

「そういやいつもウーロン茶でしたっすね……」

「アルコールはホント弱いんよ」


ノブナガの言うとおりノブナガは酒に弱い。

洋酒入りのチョコレートを食べて倒れるぐらい弱い。

粕汁とか食えない。お屠蘇も飲めない。筋金入りの下戸である。


「で、高知県民は酒に強いゆう俗信があんのや」

「マジすか」

「なんや高知県民の『酒に弱い』を額面通り受け取ったらアカンみたいな風潮があってなあ……」

「高知人の『呑めない』は『チューハイぐらいしか呑めない』って意味らしいぜ」

「統計的には事実として酒に強い人間は多いらしいが」

「例外もおんねん。マジ勘弁して欲しいわあ……」


日本では酒に強い人間は北と南に多いらしい。

東北とか九州とか。逆に中部とか少ないとか。


「でも、なんで関西弁っすか? 標準語使えば良いじゃないっすか」

「元々結構土佐弁きつい方やったんねん。下手に標準語話しても――むしろ話したからこそ些細な違いで見分けられる恐れがあんのや。やったら逆に別のなまりで思いっきりなまった方がバレにくいねん」

「そういうもんすか……?」

「セイメイ、自分土佐弁と関西弁の違い分かるん?」

「! わかんねーっす!!」


そういうセイメイは愛知の出身である。

中部地方の出身なのに酒には滅法強いのだが。


「それに、関西弁はメディアでも取り上げられやすくてファッション感覚で使う若者も多い。多少不自然でも違和感無いし――出身がバレにくいねん」

「時々めっちゃ不自然だけどな」

「あれはわざとやってん。土佐弁がでんへんように」

「……大変っすね」

「地元民には良い顔されんわー」


関西地方は方言に愛着のある地方として知られる。

生粋の関西人からするとノブナガのような「エセ関西人」は腹立たしいだろう。


「ウチも迂闊に酒飲んだら急性アルコール中毒で死んでまうしー、大目に見て欲しいわあ……」

「……大変っすねえ」

「大変やねん」


なのでノブナガは出身に関しては口を閉ざす事が多い。

経歴も大学までしか公開していない。

聞かれたときは「西の方」「四国」などとぼやかして言う。


「ま、お喋りはこの辺にして聞き込みと買い物行くで」

「ういーっす」

「了解」

「行くか」

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