昼行燈~夢と希望と自己責任のフロンティア~
ログアウト不能三日目。リアルの時間では三時間。
ちらほらとエスケープボタンを押された人たちが増え始めたようだった。
「掲示板にも書き込みきてるな」
「『ギルメンがログアウトしちゃった人々のスレ』……実家暮らしは元より単身者にも出てるみたいっすね」
「ネットで呼びかけたのは確実として……あとはテレビか?」
「東京の子達が多いねえ。ローカル局でCMうったのかも知れへんねえ」
それでも。
若干の薄ら寒い予感を覚えずにはいられなかったが。
四人申し合わせたように――それには触れなかった。
「ログアウトしたらリョーマの愚痴につき合おう……」
「俺も行くっす」
「うちも行くねえ」
「俺もだ」
四人ともそこは一致していたのであった。
* * *
リョーマ――坂本龍馬という男は滅多なことでは愚痴を言わない。弱音を吐かない。
それは一種の戒律であり誓約である。
かつて半年に渡り給料が支払われなかった時も一度として文句を言わなかった。
社員が一人減り二人減りしていく中でも、仕事の山に押しつぶされそうになっても――ただ穏やかに微笑みながら黙々と作業をこなしていた。
が、である。
じゃあ、なんにも思っていないのかというとそんなことはない。
ため込んでいるだけで――内心ははらわた煮えくり返っている。
爆発したときの破壊力やいかにだ。
『あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!』
worksworksworksが潰れると聞いて。
「hospital」の続編が出せないと聞いて。
叫んで。
微笑みの仮面を消して――叫んで。
怨嗟込めて。
呪詛をこめて――慟哭して。
腹の底から全ての酸素を吐き出すように。
世界の全てを――否定するように。
言葉に出来ない思いの全てを乗せて――リョーマ叫んだ。
『ふっざけんなあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!』
そう叫んで。
社長の顔面ひっつかんで。
力任せに地べたに叩きつけて。
社長の禿げ頭をを踏みにじった。
まさに悪鬼の表情であった。
同時に泣き出しそうな幼子のようでもあって。
その時俺たちはようやく気付いた。
どれだけリョーマが――「hospital」を大切に思っていたか。
この作品に魂を削っていたか――どれだけかけがえなく思っていたか。
そして――その裏側。
どれだけの怨嗟を――呪詛をその腹の内に溜め込んでいたか。
微笑みの仮面の下にどれだけの不平不満があったのか。
ようやく――本当にようやく。
俺たちは気が付いた。
手遅れ、だったけど。
だから、まあ。
そういった事態を防ぐためには――こまめに不満を吐き出させるしかない。
素面だと絶対に言わないので強めの酒が必須。
そんなに強くない割にリョーマは酒が好きである程度まで酔うとものすごい勢いで愚痴り出す。
これをガス抜きといい顔面を地べたに叩きつけられたくなくば――三ヶ月に一回は必ず行わないといけない。
難儀な性格だと思う。
愚痴と言っても誹謗中傷とかそう言うんじゃなくて、誰がみても明らかな理不尽しか言わないが。
逆に言えば。
誰がみても明らかな理不尽に対してすら――酩酊しないと愚痴すら言えないというのは。
行儀が良いとかそう言うレベルではない。
あまりにも――虐げられなれている、というか。
自分の小さな相棒の事を思う。
リョーマが善性の象徴と呼んだ彼女。
お利口さんで主人の意に添わない行動はしない彼女。
おそらく契約段階で格別の措置がとられたであろう彼女。
そして多分きっと――生まれてくるはずだった我が子のトモダチになるはずだった彼女。
これが――答えなのか。
これが――リョーマが世界に求めるものなのか。
だとしたら。
それはあまりにも――。
* * *
「うーん。なんか拘束系の魔法か装備が欲しい所やねえ……」
「今食ってるのはなんすか?」
「魔力増強Ⅲ。そろそろMPかさ上げしとかんときついんよ。マサムネも食うとき」
「おーサンキュ」
何はともあれ。
ウロボロスの正規船を五隻ひっ捕らえなければならない。
順当に行っても後三日――下手したらもっと短いかもしれない。
ならば善は急げだ。
「残りのチューブ何ある?」
「ステータス上昇系と攻撃魔法がちょこちょこって所やね」
「俺も攻撃スキルがちょっとってところっす」
「俺は防御系だな」
「あーそんなもんか……」
宇宙船内は狭い。とても木の実を加工する器具を広げる余裕などない。
そこで活躍するのがこのチューブである。
要は加工済みの木の実のチューブ詰め。
大規模なコロニーで売っていて各種レベルに合わせて加工されたものがチューブにつめられている。
ただやっぱり選択の幅が狭まってしまうのが難点。
「とりあえず、ナティル方向に向かってはっしーん!!」
「「「おー!!」」」
とにかく。
行動あるのみである。
* * *
まあ、発進と言っても自動操縦な訳だが。
とにもかくにも無事ナティルに着いた。
いっそハワイアンな感じの南洋系の原住民集落と近未来的なドームで覆われた都市。
原住民対入植者の典型的な図式がそこにはあった。
ドーム脇の発着所に船を止めて、まずは情報収集と買い物である。
無策に突っ込んでいける相手でもないし――相手は宇宙海賊だ。
手配が回っているはずだし――懸賞金もついているはずだ。
「あーウロボロス? 基本非正規船で金貨一枚かな~」
役所の気の抜けたオッサンはそう言って眼鏡を拭いた。
絵にかいたような昼行燈である。
「随分と安いんやな?」
「正直ね~、連れてこられても困るしね~。植民星なんて人も物もないしね~」
「……巨大企業のコロニーに持ってって貰ったほうが安心って訳かい」
「というかね~、こっち持ってこられても大手さんに引き取って貰うだけだしね~」
「海賊相手に随分と及び腰なんやなあ?」
「ここは弱肉強食夢とロマンの植民星ナティルだよ~? きちんとした治安部隊に会いたいなら本星のホワイトエリアにでも行くんだね~」
「なるほど、なあ……」
西部開拓時代のフロンティア、みたいなモンなんだろう。
夢と希望と自己責任の荒野。
「……ほんなら、こっちから向こう行ったんもいそうやなあ?」
淡々と眼鏡を拭いていた手が止まった。
「なるほどねえ……」
眼鏡をかけてオッサンは微笑した。
「そっちが本命ってわけかなあ?」
つっと、書類が差し出される。
「ま、そこ行ってみなよ。僕は無関係って事で」
そこに書かれていたのは――




