ツクモ、モテ期到来~もふもふは正義なり~
「かっわいい~!!」
「にゃん……」
「もふもふ~!!」
「みゃん……」
「つやつや~!!」
「にゃむ……」
「すべすべ~!!」
「みゃう……」
「萌え~」
コロニーに降りたって――ツクモとマシロちゃん大人気であった。
あっという間にプレーヤーに取り囲まれてしまった。
「はいはい、おさわりは一人一回までっすよ~」
「写真撮影はフラッシュ禁止だ」
「みゅう……」
「なう……」
さながらアイドル。
それにしても――ツクモの様子がおかしい。
ミュミュは人懐っこい種族だ。
大勢に取り囲まれたぐらいで萎縮する事はないはずなんだが――なぜか怯えるように距離をとっている。しっぽがしゅん。耳もぺたん。
マシロちゃんも同様である。
「ごめんね~。ミュミュなんて久しぶりに見たからテンション上がっちゃって」
そういって手を合わせる推定女性プレーヤー。
関係ないがライダースーツのような宇宙服を着ているため体のラインがかなりくっきりでている。
何がとは言わないが――実に良い。
「龍人ヶ原行けばいくらでもテイムできますけど?」
「知らない? 電脳化しちゃうと日常系モンスターテイム成功率下がるんだよ」
だから電脳化してないのかと思った~と俺のウェアラブルコンピュータを見る女性。
「リアルでも猫って電磁波嫌がるからね。電脳化する前にテイムして親密度上げとけば問題ないけど――電脳化してからテイムしようとすると逃げられちゃうの」
「ああ、だからツクモ元気が無いのか……」
「寂しいけどね~」
ここに元々いたという事は攻略組だろう。
テイムするとすれば戦闘用のモンスターがメインで。
ミュミュのような攻略の役に立たない日常用モンスターは後回しにされていたとみて良い。
「みゅみゅう~!」
「にゃん!!」
しゅたっとツクモが俺の胸に飛び込んできた。
マシロちゃんもドーザンの胸に飛び込む。
やっぱり電脳化した人々が怖かったらしい。
「ごめんね~。怖がらせるつもりじゃなかったんだけど」
「いや、ツクモも分かってると思いますよ。大丈夫です」
「ありがと~。あたし達あと一日ぐらいはいると思うからさ。なんか助けが必要な時は言ってね。多少は融通きかせるから」
「いえいえ、そこまでしてもらうわけには……」
「いいのいいの。可愛い猫ちゃん見せてもらったお礼。みんな一人暮らしでスイッチ押してくれる人もいないし」
ちょっと煮詰まってたんだよね、と女性はため息をつく。
「たまの休日でせっかくみんな揃ったのにこれだもんね~。みんながっくしきちゃってさあ……」
「ああ……」
「終わっちゃうのかなあ……『すろら!!』」
「……今月分に関しては払い戻しされると思いますけどね」
「……そっか」
「すろら!!」は月額課金ゲームだ。
おそらく今月分の支払いに関しては払い戻されるしひょっとしたら幾ばくかの賠償金が貰えるかもしれないが……金じゃないのだ。やっぱり。
そうなれば――この腕の中にいる小さな相棒ともお別れだ。
知らず、腕に力がこもる。
「最後にラスボスだけでも倒したくて俺ら進んでるんすけど……」
「あはは~。スゴいね。ウチら諦めてここでまったりしてるよ?」
「次の攻略情報とかご存じないですか?」
「うわ。マジかあ~。……よーし、お姉さんが一つ教えてしんぜよう」
えへんと胸を張るさまがツクモっぽくて可愛いお姉さんによる攻略指導が始まった。
* * *
お姉さんの名前はツキシロさんといった。
当人曰くリアルでも女性。東京の方の区役所に勤めるOLさんとのこと。
女性だけの攻略組ギルド「ブロッサム」のギルマスをしている。
「正直、うちらもそんな前の方にいたって訳でもなくて……ほら女の子だと色々ややこしいじゃん? それでつるんでるうちに攻略組のしっぽの方が見えてきたかな~みたいな」
そういって笑う表情は自然な感じでリアルでも女子というのは本当らしかった。
「知ってるだろうけど、この宙域の主な植民星は三つ。原住民のいるナティル、滅んだ文明のあるアンティ、植物の王国ジャンゴ。ざっくりいうとナティルがシティもの、アンティがダンジョンもの、ジャンゴがフィールドものかな」
「俺達ウロボロス倒しにきたんですけど……」
「うろぼろん? あれは強いよ。ナティル近くの巣が本拠地らしいけど」
「ネスト?」
「不法投棄されたコロニーの残骸って所かな」
「みゅう……」
情報料としてツキシロさんに抱かれてるツクモがか細く鳴いた。
耳ぺたんで顔ゴシゴシしてる。
「ツクモ、辛いなら……」
「みぃっ!」
ツクモきっとした顔で復活。
「つ、辛くなんか無いんだからね!! あたしお姉ちゃんなんだから!!」て感じだ。
「この子可愛い~♪ お持ち帰りしたい……」
「みゃ、みゃうっ!?」
「そ、そんな!? 私貰われちゃうの!?」って感じ。
「捨てないよね? 大丈夫よね?」って感じの上目遣いで俺のことを見上げてくる。ふるふる震えるしっぽが可愛い。
「お持ち帰りはダメです。ツクモはうちの子です」
「だよね~。ああ~ミュミュテイムしとくんだったな~」
残念そうにツキシロさんは笑った。
ツクモが安心したように「みゅう……」と鳴く。可愛い。
「話を戻すけど――ウロボロスは強いよ。特に正規船は強い」
「マジですか」
「マジマジ。あいつら短距離ワープしてくるから」
「マジで!?」
「マジマジ。一瞬で背後取られるよ」
正規船以外はそこまでの装備は無いみたいだけどね。
ツキシロさんはツクモを撫でながら言った。
「正直、正規船が二隻以上いたらもう逃げるしかないかな」
「マジか~……」
「船一隻だけっしょ? 非正規船だけでも五隻いたら危ないと思うよ」
「うわあ~……」
「むみゅ~……」
頭を抱える俺とツクモ。
なんか思ったより時間かかりそうだ。
「とりあえず、宙域マップはここで買ってった方が良いよ。あと、武器弾薬の類もここで買ってった方が良い。スペックと安定性が違うから」
「みゃう……」
「あーそれはそのつもりでしたけど……」
「みゃ、みゃう…………」
「すいません。ツクモが限界ぽいんでこの辺で」
「あ、ごめんね」
「みゃああああああああん!!」
ツクモが涙目で俺の懐に飛び込んでくる。
「怖かったの~! 私怖かったの~!」って感じに頭をすり寄せてくる。
「よしよし、怖かったな~」
「みゃあ…………みぃっ!!」
うるっときたツクモはきっと顔を上げる。
「うん、怖かった…………こ、怖くなんかないんだからね!」的な。
元々我慢強い子だったが妹が来てから強がりに拍車がかかってる。
「あたしお姉ちゃんなんだもん!! 妹の前でカッコ悪いとこ見せられないもん!!」って感じだ。
「うわー、マジでミュミュテイムしとけば良かった……」
ツキシロさんの残念そうなつぶやきがコロニーに落ちた。
その瞬間。
『エスケープボタンが押されました』
『十秒後、強制ログアウトを行います』
『九秒後、強制ログアウトを行います』
『八秒後、強制ログアウトを行います』
『七秒後、強制ログアウトを行います』
『六秒後、強制ログアウトを行います』
空間を埋め尽くす――赤色のメッセージ。
「嘘! まさかオカン岡山から来たの!?」
『五秒後、強制ログアウトを行います』
『四秒後、強制ログアウトを行います』
『三秒後、強制ログアウトを行います』
『二秒後、強制ログアウトを行います』
『一秒後、強制ログアウトを行います』
『ログアウトしました』
そんな叫びを残して。
ツキシロさんは――ログアウトした。




