マシロ登場~もふもふアイドル対決~
「卑怯やああああ!!」
「卑怯っす!! ずりいっす!!」
「にゃあむ……」
「あまり吠えるな。マシロが怯える」
「誰のせいじゃい!!」
以下ドーザンによる回想。
「わははー。ツクモ名演技だったぞー! 主演女優賞間違いなしだな!!」
「みゃうん♪」
「にゃうん……」
八ミリカメラの撮影が終わって――。
きゃっきゃうふふといちゃつく一人と一匹を寂しげな目で見つめる白いもふもふがいた。
ツクモの妹である。名前はまだない。正確にはミュミュ語のしかない。
「にゃうん……にゃうん……」
良いな……お姉ちゃん楽しそう……。
そんな年上の兄弟を持つもの特有の哀愁を漂わせる彼女の頭をそっと撫でる手があった。
「にゃうん?」
見上げれば――そこにいたのはドーザン。
ふうわりと優しげに微笑んだその男は頭を撫でながら言う。
「――一緒に、行くか」
「にゃ、にゃうん?」
良いの? 私で良いの?と目を丸くする妹ちゃん。
わたわたと挙動不審になるその姿にくすりと笑ってドーザンは断言した。
「一緒に来い」
「にゃう!」
ぴょこんと妹ちゃんは一声鳴いて頭を下げた。
回想終わり。
……。
要するに。
八ミリで動画撮るときに特別出演した妹ちゃん。
あの子と仲良くなったドーザンはその子をお持ち帰りしちゃったらしい。
毛の色からマシロと名付けて可愛がっているとか。
「にゃん♪」
すりすりとドーザンにすりつくマシロちゃんはツクモよりちっこくて丸っこい。
ツクモがお母さん似のすんなり美人系ならマシロちゃんはお父さん似のもふもふかわいい系だ。
「~~~!」
「どおおおおおおざああああああん……?」
「なんだ?」
「テイムしたんはええとして――なしてこのタイミングでバラしたん?」
「嫉妬に歪むお前等の顔が見たくてな」
「「やっぱりかあああああああ!!」」
うん。
ドーザンはこういう奴です。
「ふふふ。羨ましかろう?」
「おのれい……」
「鬼畜っす!! 鬼っす!!」
「にゃん♪」
マシロちゃんえへんと胸を張る。
うん。そこは胸張るところじゃない。
「まあ、それはさておき――悪い選択じゃないと思うぜ」
「それはまあそうやねん」
「それはそうっす」
「そうだろうそうだろう」
ドーザンはカバーリング担当なんで真っ先にHPが尽きやすい。
回復能力を持つペットはいくらいても良いぐらいだ。
可愛いにゃんこといちゃいちゃしてるだけで回復できるという点においてミュミュは最も優れたモンスターである。
「マシロは適合者じゃないからな。回復以外はほとんどなにも出来ないが……それでも十分だろう」
「にゃん!!」
私頑張るもん!!って感じにマシロちゃんは一声鳴いた。
可愛い。可愛すぎる。……いえ、浮気じゃないんですよツクモさん!!
「みゃ」
ぺしん。
しかし、そんな和んだ空気を一変させる者がいた。
マシロちゃんの姉――ツクモである。
「みゃ」
「にゃあん……」
うっすらと笑うその顔は――みっちりきっちりしっかりしごいてあげるわと言っていた。
* * *
「にゃにゃにゃにゃにゃにゃあああああん!?」
「みゃ」
弾幕のように飛び交うスーパーボール。
狭い船内に反射して上下左右から不規則に飛び交うそれをツクモは時にかわし時に障壁で弾く。
勿論そんな真似が最近まで龍人ヶ原で安穏と暮らしていたマシロちゃんに出来るわけもなく。
「にゃあ……にゃあ……にゃあ……」
スーパーボールに襲いかかられながら肩で息をしている。
耳ぺたんである。しっぽしゅんである。
「みゃ」
てしてしとしっぽで床を叩くツクモ。
この程度で音を上げるぐらいなら龍人ヶ原に戻りなさいといった風情である。
「おい、そんなに厳しくしなくとも――」
「みぃっ!!」
止めに入った俺をきっとにらみつけるツクモ。
部外者はお黙んなさいと言わないばかりだ。
「…………にゃあああああああん!!!」
ぺたんこになっていたマシロちゃんついに吠える。
えいやっと気合いを入れて障壁を展開。
それはツクモのものに比べればいかにも薄く頼りないが――スーパーボールを弾くには十分。
「みゃ」
よろしい。
満足げなツクモである。
「にゃあにゃあ!!」
もう一本お願いします的なマシロちゃん。
「みゃ」
ふ、これからが本番よなツクモ。
――二匹の子猫の間に熱血スポ根時空が展開されていた。
* * *
「ツクモちゃんスパルタやんねえ……」
「ミュミュは基本的に誇り高いんだよ……」
ミュミュは攻撃力もほとんどないモンスターだが龍王倶利伽羅の寵愛深き種族である。
人懐っこくテイムしやすい上、向上心が高く役に立とうと一生懸命になる性質がある。
ツクモは適合者だから特にその傾向が強く、「ふみゅ~……」とか鳴きながらも決して木の実を拒まない。
むしろ、もっとよこせもっとよこせと催促してくる。
むしろ「みぃ……」とか鳴いた後に「みゃみゃ!!」と頭フルフルしてきっとした顔で「みぃ!!」と鳴く様はツンデレですらある。
いや、ニャンデレか?
「ふに~……。……ダメダメ!! つ、辛くなんかないんだからね!! むしろもっと来いなんだからね!!」的な。
萌えるわ~。マジ萌えるわ~。
「……とか言いつつ、どーせ『あれはなんちゃらアルゴリズムに基づいた何とか~』とか言うんやろ?」
「当たり前だ」
ため息をつくノブナガの頭を軽く小突く。
「ツクモが零と一の塊だったところで――所詮俺らだってタンパク質と脂質の塊だろう?」
「……ああ、うん、まあ、そうやけども……」
ノブナガ既にげんなりである。
……変なことを言ってるつもりは無いのだが。
これが理系と文系の差なのか?
「……なんと言うかな。AIに心を認めると言うのは――結局の所『彼ら』には『人間の偽物』としての価値しかなくて、『人間に近い』かどうかだけが唯一の価値基準だといってるような気がする」
「……ふうん?」
コンピューターを人間に寄せようと言う研究はかなり前から行われている。
というかコンピューターの歴史の半分はそれだと言っても過言ではない。
アセンブラ言語しかり、オブジェクト指向しかり、GUIしかり……。
だけどそんなのは結局の所人間の側の都合なのだ。
今も昔もコンピューターは零と一をひたすら計算している。いやアナログコンピュータと言うのもあったけれども。
ツクモの可愛らしさだって、そう言ったありのままの姿が人間には理解しがたいから――人間らしい行動を、思考をするように機能を付け足していった結果に過ぎない。
さながら家畜化していって最終的に野生ではどうにもこうにも生きられなくなった生物を前に――権利を与えるような。
「……まあ、こんなのは意味のない感傷だとは思うがな。ただやはり一技術者としては――そう言った枠の向こう側を見てみたいと思うな」
「……なんや、色々考えてはるんやねえ」
ノブナガは呆れ気味である。
まあ、文系に分かるような事でもないから仕方ないか……。
「……あー、でもちょっと分かるっすよ」
不意に。
割り込んだのはセイメイだった。
奴はいつも通りの朗らかな笑顔で――言った。
「だってツクモちゃん――ツクリモノっぽいっすもん」




