スイングバイ~無重力でツクモあわあわ~
何はともあれ契約書である。
一度はブラックに籍を置いた身、契約書に過敏になるのは仕方ないとも言えた。
いや、それにしたってノブナガはねちっこかったが。
とりま、ざっとまとめると。
・世界蛇の正規船を五隻とソ乗組員をレーヴェ社のコロニーに引き渡すこと。
・期限は一ヶ月以内。それまでに引き渡せなかった場合は宇宙船は没収。
・正規船とは世界蛇の紋章を掲げ恒星間移動が可能なものをいう。
・五隻引き渡し終わったらその船は自由にして良い。ただし、蜘蛛と獅子のエンブレムは消すこと。
・改造は復元可能な範囲でのみ可とする。船の所有権移行後は好きにしていい。
……的な感じ。
なんか宇宙船丸儲けじゃね?って感じだが――逆に言えば。
それだけ正規船を捕まえるのが難しいということなんだろう。
正規船があるなら――非正規船もある。そういうことだ。
弾薬や燃料、酸素に宇宙服は向こうが用意してくれた。
ノブナガは罠の可能性を疑って調べまくってたけど、何もなし。
俺達で買ったボロ船を内部に収納。
偵察用の小型機として利用できるようにして――準備完了。
さあ、宇宙へと出発だ!!
* * *
「み、みにゃみにゃみにゃあ……!」
「ほらツクモこっちに来い」
ああ、無重力状況下であわあわしてるツクモ可愛い。
くるんくるん回りながらバランスをとろうと前足がすごい速度で回転している。
しっぽもぶわあってなってぶんぶん。
あの凛々格好いい彼女が涙目で目回してますよ奥さん!!
「みにゅう……」
「よーしよし、怖かったなあ」
なでなで。すべすべの手触りは宇宙行っても変わらない。
よっぽどこわかったのかぎゅっと抱きついてざらざらした舌で俺の手を舐める。
「みゃうん……」
もう離さないよね?って感じに潤んだ目で上目遣い。
可愛い。ツクモ激可愛い。
「離さない!! もう決して離さないぞツクモおおおおおお!!」
「暑苦しいんじゃボケ」
ノブナガに頭叩かれた。
「操縦代われや。今第一宇宙速度やねん」
「第一っつーと衛星軌道上か。あーHOPESが見える」
「ああ、マサムネがえっらい名前付けた……」
「違えよ!?」
「そっす!! マサムネ星はまだ見えないっす!! ばっちりチェックしてるっす!!」
「お前は黙ってろよ!? セイメイ!!」
いや。なんというか。
ちょうど一年ほど前「夏だ夜空だ流星群だ!! 幸運のラッキースターを探せ!!」なるイベントがあったのだ。
衛星軌道上に新設される宇宙コロニーHOPESから氷塊を投げて人工的な流星群を発生させるというイベント。
流星群の中には氷付けにされたレアアイテムやレア素材が入った耐熱カプセルが紛れていてそれをみんな血眼になって探したものである。
それと平行して夏の短い期間だけ現れる幸運の星を一番最初に見つけた者にその星の命名権とユニーク称号(これがまた壊れ性能で)がもらえるというイベントがあったのだ。
……うん。お察しの通り。
見つけたの俺です。
全天の星の中からズームしてフォーカスして一個一個鑑定して名前がついてるかどうかを調べる地味ーなイベントで二十個目あたりで当たり引いた。
やってみるものである。
で、ま、あれだ。
まさか自分が当たり引くとは思ってなかったから現れたフォームに良く分かんないまんま自分のPN入れちゃって……。
かくして幸運の星はマサムネ星と名付けられたのであった。
うん。あれです。
マジ黒歴史……。みんなフォーム入力前にはきっちりチェックしような!?
それはさておき。
「こっからしばらく衛星軌道をぐるっと回ってから加速や」
「あースイングバイ的な?」
「スイングバイ的なや」
「すいんぐばいっすか?」
スイングバイ。近接飛行。
よーするに他の星の引力を利用して宇宙船の速度や方向を変える技術。
現実にも探査機なんかによく使われる技術。
と言ったがセイメイは頭から湯気出してる。この文系め。
「??? よくわかんねっす」
「まあ、別にこれもそこまでリアルに宇宙空間を再現してるわけじゃねえからなあ……」
再現できたら逆にスゴい。
宇宙はいまだに謎の多いブラックボックスだ。
ダークマターとダークエネルギーはどうしたんだって話である。
「まあ、とにかく進んでくれれば文句はない。レーヴェ社とやらのコロニーにいくんだろ?」
「にゃあん」
「ああ、そこで敵さんの情報を聞くことに……」
っておい。
ツクモは俺の腕の中にいる。鳴いていない。
じゃあ、今にゃあと鳴いたのは……?
思わず後ろを振り返る。
ドーザンが真っ白な子猫を抱えていた。




