アラクネ戦~そういや、バターって意外と固いよね~
つまるるところ。
これがこのルートのボス戦だった。
流石にグリーンエリアで戦闘はまずい。
イエローエリアの例の廃倉庫に移動して。
賭ける物は――互いの船。
多対多。
四対四。
向こうは黒服三人と少女。
こちらはいつものメンバー。
なのだが。
「今回はリーダーを決めましょう」
少女はそう言いだした。
「こちらは私。そちらもリーダーを決めてくださいな。――そして、リーダーのHPが0になった方が負け、としましょう」
「リーダーは誰でも良いんか?」
「構いません。ただし事前に申告してもらいますけどね」
交錯する視線。
進み出たのはノブナガだった。
「そんならリーダーは――このマサムネや」
「は!?」
いや、おい!!
完全にお前がリーダーになる流れだっただろうが!!
なに俺に押しつけてんだよ!?
「……いいでしょう。では赤か青を」
「赤」
ぴいんと弾かれたのは赤と青のコイン。
それは青を上にして床に落ちた。
「では、こちらが先に室内に入ります。――五分後に入ってきてくださいな」
「……強化の魔法は使ってええんやな?」
「構いません。お好きなだけ使ってくださいな」
そう言って。
四人は廃倉庫へと入り――扉は閉ざされた。
「……おい、なんで俺がリーダーなんだよ」
「防御と回復を担っとるマサムネが倒れたらそこで終わりや。庇わんといかんのは一人の方がええ」
「うむ。俺は『カバーリング』覚えたからな。多分真っ先にHPが尽きる」
「俺も一撃食らったら落ちるっす」
「僕だけ残っとっても何もできん。マサムネが頼りや」
「……ならしょうがねえけどよ」
いや、俺一人残ってもそれこそ何も出来ないが。
まあ、そういうことなら仕方ないだろう。
「了解したところで強化タイムや。MP尽きるまでかけい」
「いや、そりゃヤバいだろ!?」
「ポーションあるっす。大丈夫っす」
「……お前らちょっとは静かにしろ」
そんなこんなで。
五分が経過した。
* * *
「うらあああああああああっっっっっ!!」
戦闘は――ドーザンのそんな叫びで開幕した。
両開きの扉を普通に開けるなどというまどろっこしい真似をこいつがするわけがない。
両手に握った刃を力任せに叩きつける。
ギャギャギャギャギャギャッッッ!!
ドルドルドルドルドルドルルルルンッッッッ!!
甲高い金属音――に混じる。
腹の底に響くようなエンジン音。
断罪の鋸刃。
神でも殺せるという触れ込みの――ドーザンの新たなる愛刀。
神でも。
この言葉にぴんと来る奴は――いやゲーマーでなくても分かるか。
それぐらい有名な――とあるバグ技。
そう。
チェーンソー、である。
……。
…………ドーザンよ。
それでどーやってカバーリングするつもりなんだ?
思いっきり攻撃力極振りじゃねえか!?
まあ、そんな野暮な突っ込みで止まるような火力絶対主義ではないのだ。
今回もまるでバター……よりも容易く倉庫の扉を切り裂いた。
バターって意外と固いよな。
朝忙しいときとか軽くいらっとするぐらい固い。
バゴオオオオオオオンッッッ!!
そんな取り留めのない思考は――爆風と轟音によって遮られる。
爆弾。
恐らくは――C4あたり。
ちっ!! やっぱ仕掛けてやがったか!!
そりゃそーだわ。俺だってこういう展開なら扉にトラップ仕掛けるわ。
「……はあっ!!」
気合い一閃。
ドーザンは爆風吹きすさぶただ中に突っ込む。
このためにドーザンの防御力は思いっきりあげてある。
MPが真面目に尽きかけました。ポーションで回復してあるけど!
さあ、ドーザンよ!! 神風特攻だ!!
「あああああああああああああああああっっっっ!!」
絶叫しながらドーザンは黒服の一人に切りかかる。
無情に回転する鋸刃が背後からの陽光に光る。
ギイイイイイイイイイインッッッッッ!!
甲高い金属音。
チェーンソーの刃を受け止めた腕。
破れたスーツの隙間から鈍い金属光沢がのぞいている。
ドーザンにチェーンソー使わせた理由はそこにある。
物理防御力が高すぎて普通の装備じゃ抜けないのだ。
まあ、カバーリングは……ホントどうすんだろうな?
なんか考えがあるとか言っていたが……どうすんだ?
「仮想障壁」
ははっ!! 絶叫してチェーンソー振り回してる男のそばで少女の無感動な声ってそそるねえっ!!
薄青く輝きながら出現した障壁にドーザンが一歩後ろに下がった。
後退?
ドーザンの辞書にそれはねえ。
一歩下がったのは――二歩踏み込む為の布石だ。
リィィィィィィィィイイイイイインッッッ!!
金属音よりもっと澄んだ――水晶が震えるような音がする。
見れば。
無骨なチェーンのその外っ皮に――赤く光る神々しい刃。
それが共鳴するように――障壁と拮抗している。
拡張現実。
仮想現実内での拡張現実。
AR IN VR!! ここでたぎらねえヤツはVRゲームの技術者名乗んなって話だよ!!
ARだぜ!? VRとの規格競争に敗れて消えた夢の技術が再現されてるんだぜ!?
錬金術しかり、蒸気機関しかり、こういうのはホントたぎるよなあ!!
ま、正確には規格競争に敗れたっつーより法整備が上手くいかなかったってことらしいんだがな。
VRに比べて現実の実生活に深く食い込む分難しい舵取りが必要とは言われていたんだが……理系人間の性だな。どうしても法律には弱い。
それはさておき。
「……」
「……」
「……」
ドーザンと黒服は一対一で斬り合ってる。
他の黒服――めんどくさいからABCで――は手を出さねえ。
そうだろうな。
なぜなら俺たち三人がまだ姿を見せてねえ。
正確には俺が姿を見せてねえ。
ドーザンを倒したって何の意味もねーんだ。
俺のHPが1でも残ってる限りドーザンのHPが何度0になろうが勝てねえんだからな。
黒服Aでドーザンが押さえられるなら――それでよしとするだろうぜ。
くくくっ!! 探してる探してるぜ!!
感知魔法に仮想探査、その目なら赤外線だろうが紫外線だろうが写るんだろうなあ!?
――折り込み済みだよ!! 馬鹿野郎!!
こっちの作戦はシンプルだ。
とにかくドーザンが暴れて他の三人は隠れる。
特に俺。
有らん限りの迷彩で何重にもカモフラージュしてある俺の居場所を見つけられるかな?
攻撃は苦手だが――そういうのは俺結構得意なんだぜ?
まあ、見つかったら一発でアウトなんだが。
「ああああああああああああああああっっ!!!」
ドーザンは叫ぶ。
その勢いすら利用するように障壁ごと黒服Aを弾き飛ばす。
――黒服Bめがけて。
「らああああああああああああああっっ!!」
ギャアアアアアアアアアアンッッッッ!!
ドドドドドドドドドドドドドドドッッッ!!
突撃、突撃、突撃!!
黒服AとBをまとめて壁側に追いつめる。
「進行補助」
少女の声でBが一気に加速。突撃を振り切ってドーザンの背後に回る。
刹那、斬撃の嵐が吹き荒れた。
ギャガガガガガガガガガガガガッッッ!!
剣舞。
セイメイがゼヘクで見せたアレである。
ただし――この場合。
発動させたのは――ドーザンである。
剣舞は攻撃回数や範囲は増えるが威力は落ちる。
しかし、チェーンソー――断罪の鋸刃ともなれば――それでも十分。
オレンジの火花が薄闇を照らす。
「……自動修復」
黒服Aは静かに呟く。
ふむ?
ここで回復、だと?
素のHPがそこまで高くない、のか?
「うらああああっ!!」
切り返し――からの「重力撃」
そこで初めて――黒服Aが動いた。
「改造。――ソードブレイカー」
ガギョガギョッ!!
黒スーツを突き破って――刃が生える。
ギザギザの鋸刃よりも深い切り込みは刃を挟んでへし折るためのもの。
両手が変じたその刃にチェーンソーのブレードが挟まれる。
「ああああああああああああああああっっっっ!!」
ドーザンは――刃の切れ込みを断ち切るように刃を叩きつける。
ここで刃を引くようなら――それはドーザンでも何でもない。
火力絶対主義は伊達ではない――生き様だ。
「仮想強化」
「回転数上昇!!」
ドドドドドドドッッッッ!!ガガガガガガガッッッッ!!
赤と青の光が拮抗しオレンジの火花が乱舞する。
そのドーザン背後に――黒服B。
音もなく忍び寄ったソイツは銃口と化した右手を振り上げて――
キインッ!!
その肩を――一本のクナイが縫い止める。
「――いかせねえっすよ」
薄闇から現れたのは――セイメイ。
次の瞬間――空間を銃弾とクナイが埋め尽くした。




