宇宙の銀蜘蛛~中二病とかいってはいけない~
さて。
宇宙船の資金が手に入った訳だが。
それだけで即宇宙とは行かない。
宇宙服に酸素ボンベ。そしてこれが一番重要なのだが――発着所である。
* * *
一夜あけて三日目。とうとう折り返しである。
とにかく一番安い宇宙船と宇宙服を買い込んだ。
そして役所に飛行ルートを書いた発着申請書を持って行く。
ノヴァーリアのことだから電子的に申請は出来るんだが、掲示板によればその場でプレッシャーをかけた方が通りが良いらしい。
そう言うわけで。
ノブナガがホワイトエリアの市庁舎に申請にいった。
セイメイとドーザンは木の実の加工。
俺はアプリとパーツの買い込み。
前回の反省を活かしてグリーンエリアである。
白と黒の高級感あふれる獅子の紋章が目印のパーツ屋――巨大企業レーヴェ社の直営店でお買い物だ。
「……ふむ」
まず買わねばならないのが運転補助と機械修理。
後は羅針盤、戦闘補助か?
魔力変換器は買えないな……桁が違う。
あんまり入れると俺の端末に入りきらなくなる。
宇宙船本体の容量を合わせても……その辺が限界か。
ううん、しょぼいな……。
お値段しめて五十万である。恐ろしい。
確かにイエローエリアに比べると質が段違いに良い。
ジャンク掴まされる危険は格段に低いだろう。
だが、イエローエリアで最も安全でお高いと評判のゴールデンウェブで買っても五万いかない。
イエローでジャンク買ったら一万かそこらだぞ。
とんでもない格差社会だ。
差し出された保証書に目を通し、電子マネーで会計する。
さて、とっととインストールしてカスタマイズしますか。
* * *
「――お前らがマサムネか」
イエローエリアの発着所のメンテナンスエリアに戻って、パーツの組み込みとアプリのチューニングしていると声をかけられた。
背の高い筋肉質の男だった。
短く刈り込まれた黒髪と揃いの黒目。
ブラックフェルトハット。
ワインレッドのシャツにシャープなシルエットな黒スーツ。
ネクタイと革靴もブラックで、極めつけは銀色の蜘蛛をかたどったネクタイピン。
「お前さんはコスプレイヤー? それともホントにアラクネの人?」
ヒュンッッッ!! カンッッ!!
抜く手も見えなかったが飛んできたナイフは俺の耳スレスレを通って船の壁にぶつかった。
地面に転がったナイフの柄にもまた――銀色の蜘蛛。
「……必要以上に船を傷つけない紳士的対応。本物みたいだな」
男は微かに笑って――白い封筒を差し出した。
赤い蝋封にも――やはり蜘蛛。
やれやれと――俺は両手を挙げた。
「ノヴァーリアで船を持つ者はアラクネにご挨拶しなければならない、だろ?」
分かっている分かってる、と封筒を受け取って――中身を見る。
「指定通り――正午にご挨拶に伺いますよ」
男は軽く頷いて――踵を返した。
* * *
宇宙の銀蜘蛛。
宇宙船購入ルートのボス……らしい。
とにかく船を買いに行っても、発着所を借りても、役所に書類を出しに行っても、アプリを買っても。
言われるのだ。
「アラクネ様にご挨拶をしたほうがいい」と。
話によれば宇宙周りを縄張りにしてるギャングだとか。
ノヴァーリア政府が押さえきれてない宇宙海賊との独自コネクションを持ち、ホワイトエリアのメガコーポでもない限り奴らに逆らうことは宇宙での死を意味するのだと。
おそらく宇宙ステージでのクエストやエネミーに関する情報も奴らが持ってるんだろうから顔は出すつもりだったが――向こうから来たか。
「結局何の用なんすかね?」
「流石にボスの攻略情報までは載ってへんわ」
「システム的にそこまで無茶はふられないと思うけどな」
「フフフ……今宵の断罪の鋸刃は血に飢えている」
「飢えすぎだろ……」
金を寄越せと言われるのが一番困るんだが。
流石にもうスッカラカンである。
「でも絶対金寄越せって言われますよね?」
「ショバ代寄越せやああ!? ってやつやな」
「映画館の方海賊版がもう出回ってるからな……」
「いくらゲーム内とはいえ別に著作権手放してる訳じゃないんだが……」
しかし、運営に保護を頼むわけにもいかない。
ログアウト不能という極限状態であんまり野暮なことは言いたくないし。
「時間かかるのも勘弁やなあ……」
「もう三日目だもんなあ……」
と、そこで。
足を止める。
墓標のように佇む灰色の廃倉庫。
アラクネの指定場所だった。




