白衣眼鏡~白髪ではないが俺様ではあると思う~
ドーザン――斉藤英志という男は一言で表わすなら――白衣眼鏡である。
眼鏡はまあ近視だから良いとして。
問題は白衣である。
出社するときも白衣、帰宅するときも白衣、仕事中も白衣、夏でも白衣、冬でも白衣雨が降ろうと風が吹こうと絶対的に白衣。
長身痩躯のその体を常に白衣で覆っている知的クール系イケメン。
それがドーザンという男である。
一般的にゲーム業界というのは服装にあまりうるさくない。
修羅場れば泊まり込みすらある業界だし、余所様とエンカウントしない立ち位置なら基本何着ててもいい。
無論それでもスーツ着なくてはいけない状況というのは存在するが。
そう言うときも家に帰れば即白衣である。
クローゼットは白衣で埋め尽くされているとか。
ヴィジュアルを仕事にする者として譲れないこだわりがあるらしい。
一方で。
自身のビジュアルに徹底的にこだわるその姿勢とは裏腹に。
仕事ではスタイルを選ばない男として有名である。
何でもやるし何でも出来る。
ファンタジーでもSFでも学園でも恋愛でもなんでも。
いっそストイックなまでに仕事を選ばない。
それで高い評価を得られるんだから天才だと思う。
全く神様ってやつは。
二物ほいほい与えすぎである。
* * *
「ただいま~」
「ただいまっす……」
セイメイとノブナガが帰ってきたのは日もだいぶ傾いた頃だった。
「なんとか十万ぐらいっす……」
「なんとか百万ぐらいやね……」
二人ともぐったりしてる。
というか、一日で百万って……。
「安心しろ」
ドーザンは胸を張る。
ついでに眼鏡がキラーンと光る。
ドーザンの顔防具キラリン眼鏡の効果だ。
「五千万、集めたぞ」
「「は!?」」
そうだろう。俺も「は!?」って思った。
「五千万、集めた」
「いや、二回も言わんでええよ。……で、どうやって?」
ドーザンはすっと背後を指さした。
そこにあったのは――
「八ミリカメラ……」
「俺を誰だと思っている。『hospital』ヴィジュアル責任者斉藤ドーザンだぞ?」
そういってドーザンは不敵に笑った。
そして、眼鏡はキラーンと光った。
* * *
八ミリカメラ。映像記録するアイテム。高い割に容量が少ない。
ゼヘクで売っているアイテムであり――コスパの悪さからハズレ扱いされているアイテムである。
ノヴァーリアで上位互換機「ビデオカメラ」や「ウェブカメラ」が安く買えるため完全な日陰者なのだが……一つ特徴としてエリアごとにある施設「映画館」で撮影した動画を放映出来るという特性がある。
そして、映画館の入館料はそっくり動画の提供主がもらえるのだ。
まあ、ウェブカメラで撮って外部サイトにアップした方が画質も良いし長いこと撮れるしってんで完全に忘れ去られてた機能なんだが……今このときは例外だ。
だってそうだろ? これが監禁罪にあたるかどうかはともかく六日間も閉じこめられて。時間を潰せる物もなくて。
戦闘? 生産? 今後ゲームが存続するかも怪しいのに?
今までやってきたことは――全部無駄になるかもしれないのに?
なにより――死ぬかもしれないのに?
俺たちみたいに無茶でも攻略を目指す奴らは少数派だ。
戦闘も生産もやる気を失ったその後に残るのは――圧倒的な退屈。
掲示板に愚痴を書き込むぐらいしかやることがない。
そんな時に。
動画が見られるって言われたら。
それは行くだろ。
ゲーマーと動画視聴者は基本カブってるモンだし。
「大入り満員だった。一人一万で五千人入った」
「……おおう」
「……うええっす」
それでも。
ここまで当たるとは思ってなかったけど。
だって一万である。三十分そこそこの動画に金貨一万。
それが次々に映画館にやってくるのだ。立ち見も構わない――見せてくれと。
禁断症状でも出てるんじゃないかと思った……。マジで。
「素材が良かった。――な?」
「みゃうん」
えへんと胸を張ったのは主演女優ツクモだ。
……まあ良いだろう。ツクモの可愛い姿を撮った功績に免じて良い子良い子するのを許そうじゃないか。
「子供と動物には勝てないからな」
「うわー。それは入るわ……」
「みんな癒しを求めてるっすからねえ……」
ログアウト不能といわれて。デスゲームといわれて。
みんなピリピリしてたところに可愛らしい子猫が「みゃあ」と来たら。
イチコロである。断言しよう。イチコロである。
「……見るか?」
「当然やろ!!」
「当然っす!!」
* * *
サンタ帽をかぶったツクモが背中に白い袋を乗せてトコトコ歩いていく。
ご機嫌にしっぽがゆらゆらしている。
「みゃん♪ みゃん♪ みゃんっ!?」
ころりと落ちた袋をあわてて拾い上げて器用に背中に乗せるのはご愛敬。
さあ、サンタを待つお宅に到着だ。
「なあん」
「みゃ!」
転がるように出てきた真っ白なもふもふは特別出演ツクモの妹。
しっぽをぶんぶん回しながらそわそわと「待て」している。
「みゃ!」
「! にゃあああん!!」
よくできましたとツクモサンタがくわえて差し出したのはかつぶし。
妹、狂喜。
がじがじと噛みつきながら転げ回っている。
「みゅ!!」
「にゃ!?」
そのしっぽをツクモがてしっと捕まえる。
お行儀悪いとたしなめるようにてしてしする。
妹、反省のポーズ。
よろしい、と満足げな顔のツクモ。
「……にゅにゅにゅ」
ちらちらとかつぶしとツクモを見比べる妹。
お姉ちゃんの分は無いの?一緒に食べた方が美味しい……よね?といわないばかりだ。
ううんと悩んで……えいっ決めたとばかりにかつぶしを千切って――どうしようかと見比べて大きい方をツクモにパス。
そして私知らないもーんとばかりに小さいかつぶしに噛り付く。
しかし、ツクモにパスしたかつぶしに目は釘づけである。
「……みゅううん」
全く仕方のない子ねとため息をついたツクモははっしと小さなかつぶしを取り上げ――大きい方を妹にパス。
「みゃあああん!!」
目をキラキラさせてかつぶしをキャッチする妹。
「みゃ」
「みゃ!」
そして二人並んでかつぶしを食べてるところでフェードアウトである。
「……まあ、こんなモンだな」
「ツクモちゃん可愛え……」
「可愛いっす。萌えっす」
「あと、十本ぐらいあるがどうする?」
「見るっす!!」
「当然やろ!!」
そうして。
夜を徹してのツクモ映画鑑賞会は続いたのだった。




