零と一の塊~調整者というロマン~
蒸気機関――スチームパンクといえば何を置いてもこれだろう。
蒸気機関車セントラル号。
ふしゅーふしゅーと蒸気を吹き上げいざ出発だ。
「SLっす!! SLっすよ!!」
「こういうのがVRの良いところだよな。煤とかでないし」
「ゼヘクまで一時間ぐらいやね」
「車内で買い物ができるんだったか?」
セントラル号は豪奢な列車だ。オリエンタル号を模したらしい。
客室は二人用の個室。食堂車は無いが品ぞろえのいい売店が入っている。
「ゼヘクのロボ兵の機構回路ってあるやん?」
「あるな」
「あれ作ってんのがノヴァーリアやねん」
「ほう」
ノブナガ曰く。
ゼヘクとノヴァーリアの関係は微妙らしい。
ミスリルという鉱山資源を握るゼヘク。
機構回路という先端技術を握るノヴァーリア。
両者は牽制しあいながら共存しているという。
「やから、ミスリル武器はノヴァーリアでは売ってへん。逆にコンピュータとかはゼヘクでは売ってへんのや」
「その制限の例外が……?」
「このセントラル号やねん。ここでしか手に入らない武器とかもあるし、見とかなあかんのや」
なんといっても三両ぶち抜きの売店だ。
品ぞろえもその辺の店と変わらない。
「まず買っとかなアカンのはウェアラブルコンピュータやね」
「新しい魔法が覚えられるんだよな」
「魔法ちゅーか、電脳空間にアクセスできるようになんねん。……VRゲーム内でこんなこと言うのはなんか変やけども」
いや、まあ、現実はサイバーパンク通りには行かなかったからな。
結局人間は人間のまま、機械は機械のままの方がコスパが良かったと言うだけのこと。
人間に機械のふりをさせても、機械に人間のふりをさせてもどうしても無理が生じる。
だから。
そこに「心」が無かったとしても――否、無いからこそ。
AIというものには一定の敬意を払うべきだと思う。
ただの一と零の塊でも――それが「可愛い」の一言を引き出せるなら。
それはやっぱり意味のあることなのだ。
「とりあえず、グラサンは買うとった方がええねん」
「前衛は……この腕時計型でいいか」
「あと、手持ちの金多少電子化しとき」
「うーいす」
と、話し合いながら――三人がこちらの様子をうかがっているのが分かる。
そりゃそうだ。
なにせ後衛で――現役SEだ。
どんなデバイスを選ぶかセンスが試される。
「……」
迷う。
こういう時に迷うのはもう理系――技術系の性みたいなモンだと思う。
カタログ取り寄せてネットの評判見て店をはしごして何買うか考えている時――まさに至福の時間。
それを一時間ぽっちで決めろと。鬼か! 何度でも言おう。鬼か!!
「……」
とにかく、攻撃力は0で良い。
回復力、防御力、補助力……その辺にウエイトが置かれているの。
デザインとしては腕につけるタイプ……杖の邪魔にならないように。
「……」
インターフェースが使いやすく起動が速いヤツ……この辺か。
すっと手を伸ばしてシルバーの機体を手に取るとパチパチと拍手が起こった。
「……なんだよ」
「いや、ウチもそれ勧めようと思っとったんや」
「じゃ、勧めろや!?」
「いや、マサムネこういうの選ぶときアレコレ言われるのいやがんやん」
「当たり前だ」
悩む時間は至福。何度でも言おう。悩む時間は、至福。
「あとついでにオプションパーツぶっ込むぞ」
「一時間しかないんやけど……」
「問題ない」
にやりと、笑う。
そう、一時間もあれば十分だ。
「SEというものを――教えてやる」
* * *
と、大見得切ったものの。
元々ソフト系の人材なのでハードにはそこまで強くない。
なんかSEっていうと魔法使いか何かのように思ってる人が居るがその実ものすごく細分化した職業だ。
ネット系、サーバー系、プログラマ系、マネジメント系、コンサルティング系エトセトラエトセトラエトセトラ。
専門外のことはなんにもできないという人も珍しくはない。
それはさておき。
出発から一時間後――俺ら四人はノヴァーリアの地に降り立った。
駅は上品な煉瓦づくりの建物だった。東京駅に似てるかもしれない。
いわゆるグリーンエリア――治安の良い高級住宅地のようだ。
サイバー空間に飛び交うデータを除けば世田谷辺りの住宅地と変わらない。
いや、田園調布か六本木あたりか?
なんかそれぐらい高級な感じ。閑静な住宅街だ。
「で、こっからどうすんだ?」
「基本は電脳化手術をするんが手っ取り早いんやけど――時間がないからそこはスキップやね」
「ダウンタウンの方に降りるのか?」
「そう――それも危険地帯に降りる」
「その心は?」
テクテクと歩きながらのんびりと話す。
グリーンエリアならではの光景だ。
「レッドタウンの闇闘技場でチャンプになる。それが宇宙への最短ルートやねん」
「……ああ、次はスペースオペラだったか」
こくりと頷くノブナガ。
「ここでのクリア条件は宇宙に出ること。いうか、宇宙船をゲットすることや」
「で、その闘技場で勝つと宇宙船が貰えると」
「中古やけどね」
そう言って俺らはグリーンタウンとイエロータウンを隔てる門に着いた。
Welcome to NOVALIA。
明滅するネオン管が歓迎を示した。
* * *
手続きを済ませ、イエロータウンに降り立つととりあえず宿を取った。
そこそこ治安の良いそこそこ豪勢な宿。
四人で一泊金貨一枚はお値打ちだろう。
「まずは資金稼がんと」
俺らのお財布ことノブナガはそう言った。
高い商人スキルを持つノブナガは四人の中では別格の金持ちだ。
それがそう言うんだから――そうなんだろう。
「荒野に出てバイオモンスター狩るか、ダウンタウンでチンピラを狩るか、それとも別の依頼を受けるか」
「冒険者ギルドとかないんすかねー」
「リョーマそう言うの嫌いだったやん」
「『都合良すぎだろう!!』だったか」
「とすると、自分で依頼探すのか……チンピラ狩りにいかね? この世界の雑魚がどれくらい強いか知りたい」
「サイバネ化してるんでしたっけ」
「あと、銃とかガンガン使ってくるらしい」
「俺もマサムネに賛成だな」
「賛成っす」
「ほな行こか」
そう言うわけで。
俺たちはイエロータウンでチンピラを狩ることにした。
* * *
「……つっよ」
「……」
「マジなんなんすか。アレ」
「……桁違いだな」
三組ほど対戦して――結果、惨敗。
瞬殺である。
まず、装甲が固い。
その辺のチンピラがフツーにミスリル装甲化されてたりする。
次に、魔法の発動が速い。
頭の中に埋め込まれた電脳を介してノータイムで妨害を行ってくる。
最後に、火力が高い。
食らったら弾け飛ぶような攻撃が標準。
――打つ手無し。
「……こっちも電脳化するか?」
「手術代がない。時間もかかるし」
「イエローでこれとか……」
――だがそれは。
「おい、お前ら」
――SEがいなければ、の話である。
「デバイスみんなよこせ――チューニングしてやるから」
* * *
結局のところ。
NPCとは零と一の塊だ。
心なんてない。ただプログラム通りに動く人形。
俺の相棒ツクモも結局のところただのデータの塊にすぎない。
だけど。
だからこそ。
それを格好良く可愛く愛らしく凛々しく見せるには技術がいる。
人間は。
人間に敏感だ。
らしくない動きを見せればすぐに――醒める。
だからこそ。
VRゲームとはAI技術の最先端である。
「基本的に今のVRゲームってのはAIを自社開発ってのはレアケース」
ちゃきちゃきとメモリを増設しながら話す。
「専門で作ってる会社から権利買ってきて調整して使うのがフツー」
アプリを最適化して、ギアをなめらかに。
「ここで注意したいのはAIは『プログラムの著作物』に含まれるってことだ」
著作物……思想または感情を創作的に表現したもの、だったか。
まあ、御託は良い。結局のところ過去の判例でAIは「著作物」の認定を受けている。
つまり、著作権法の範囲内。
著作権。
特許などとは桁違いの保護期間を誇る知的財産権の絶対王者。
進歩の早いプログラムにおいてはほぼ永遠と行っても過言ではない。
それで守られてる以上――勝手なことは出来ない。
勿論調整にも――契約した範囲内のことしか出来ない。
「自ずと調整の癖や限界ってのは現れてくるもんだ」
デザインでもビジュアルでもサウンドでもない。
通はゲームの調整者を見る。
「『すろら!!』の調節者は上郷剛健。業界じゃ神って呼ばれてる男だよ」
しかし、だからこそ。
研究し尽くされてるとも言える。
かく言う俺も――研究したクチだ。
「さあ――神に挑もうぜ」
AI発言にはマサムネなりの思惑がありました。
零と一の使い手SEだからこその――心なんてないんだと知るからこその。
それはきっと知性や人間性の否定ではなくて。
心なんかなくても零と一の塊でも二次元の空想でも。
あの小さな相棒には――確かに敬意を払うに値する何かがあるのです。




