小サイケ01
紫色の巨大な芋虫はゼリーみたいにブニブニのたうち回っている。
錆びた丸時計が六時のチャイムを歌うと近くにあった小さな木の扉が勢いよく開かれ、中から小人達がぞろぞろと出てきた。
小人達の頭は皆揃いも揃って魚で、体は人間ではあるものの一糸纏わず目に恥ずかしい。
その内の女性は髪の毛の代わりに長い尻尾で首筋で撫でてなまめいていた。
それ見て勇むのか、男性はピラニアの歯で作った槍を構えて芋虫に向かって突き進む。
やがて槍が芋虫の体表まで達するとプツンと表面の革が避け、中を満たしているグレープゼリーが漏れてきた。
小人の数はたくさんなので最初のひと突きでは終息せず槍は続々と押し寄せてくる。
芋虫は堪らなくなってコインが硬い床に落ちたときのような声でわめき始めた。
暴れる芋虫の巨体に弾き飛ばされてしまう男性も少なくなかったが
地面に叩きつけられてぐったりしている者も女性が着てもいないスカートの端を持ち上げる上品なポーズで駆け寄って助け起こすと再び勇んで突撃をし始めるものだから、面白かった。
そんなことが続いてついに芋虫は全身から大量のグレープジュースを溢れさせてた後に力尽きた。
レンジの加熱完了を知らせる音に続いて観客0の客席からは奇しくもオリンピックに負けずとも劣らない大歓声が響き渡る。
そこにいないはずの僕もつられてちょっとだけ笑ってしまった。
ところで、大きなグレープジュース溜まりが出来上がっていたので
小人達はおもむろに自分の魚頭を引き抜いてその紫色の海に投げ込み始めた。
魚達は着水するやいなやスイスイ泳ぎ始めて、銀の鱗を見せつけるように跳び跳ねたりしていた。
その中には時折弁当箱でお馴染みの醤油の魚も混じっていて、嫌がらせかお節介かソレと目が合うと口のなかに醤油の風味が広がってしまうので大変である。
頭の無くなった男女達の方はというと薄めた磁石のように情けなくふらふら惹かれあって、しまいには互いの肩に手を回しあい真っ赤のテントのなかに姿を消して行くものだから、僕は中の様子を想像したくなかった。
全てのカップルがテントの中に吸い込まれるように消え去ってしまった後、
テントの裏手からはクラシック音楽と共に針金のように細くて黒い手足の生えたポケットティッシュが現れた。
手にはマッチ棒を握りしめているので恐らく放火魔なのだろう。
通常ならばこれから行われるであろう残酷な悪戯に胸を躍らせて、その生物を嬉々として見守るはずが
僕はやたらと滑らかな古い白黒のアニメーションのように動くポケットティッシュに怒りを感じたので
強烈な視線を浴びせて消し炭にしてやった。
マッチ棒だけが地面に虚しく落ちる。
さっきまでは居るはずもない存在だった僕はテントの前に立っていた。
物語に明らかに干渉してしまった時点で僕はその場に強制出場させられてしまったのだ。
僕はマッチ棒を拾い上げてそれの先っぽの赤と布のテントの赤にとに視線を交互にやりながら考えた。
「この悪戯は痛快だろうけれど、彼らにも彼らなりの生活とかやり方があるわけで……。」
マッチ棒をポケットに仕舞ってその場を去ろうと振り返った時、空の色が油のような濃く不気味な虹色になって警告してきた。
どうやら今回はそういう構成と定められた物語らしい。
逆らえば僕はこの後番人によってどれだけ恐ろしい世界に飛ばされ、経験させられてしまうか想像もつかない。
僕は仕方なくテントに向き直ると、ポケットから先ほど拾ったシンプルな形状を取り出した。
いざとなって少し躊躇っていると、辺りには正義を誇張するような鮮やかな国旗の濃い匂いで満たされ
見えない銃口をスナイパーライフルのように確かに脳天に突き付けられている気分になる。
テントの端っこに雑に擦りつけて着いた火は皮肉なことにも水を求める魚のように素早く布の中に飛び込んで行き
真っ赤なテントは瞬く間に真っ赤な炎の塊に変わり果ててしまった。
阿鼻叫喚の悲鳴やら歓声やら立派なオーケストラ音楽が響く中
目に見えない看護婦さんがお盆に水の入ったガラスのコップを一つ乗せて歩み寄ってきた。
目に見えないのにどうしてそれを看護婦と判断するのか自分でもわからないことはさておき
僕がそれを受け取って飲もうとするところで世界は立体ではなく大きな一枚の正方形の薄い紙へと変換され、工場の機械がやるようにすさまじい速度で器用に何重にも折りたたまれて手のひらサイズになった後にピンセットでつままれてクッキーの箱のように小分けされた何かの箱の内の一つに仕舞われた。
(完)




