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青い世界の小波2

早くあがって良かった

 目が合うと、カケルは思わず声を漏らした。


「あっ」


 鈴香も目線を金髪の少女の方に移し、目を丸くする。予想外の事態に遭遇すると人間は案外動けないものだ。2、3分ほどの出来事だが、カケルには長く感じられた。あとからきた和白が鈴香の後ろから顔をのぞかせ、困ったように短い白髪を掻いた。


この沈黙を先に破ったのは鈴香の方だった。時間が経つにつれて鈴香は元の凛とした表情に戻る。一度深呼吸をし、気をおちつかせてから口を開く。


「説明してもらおうか」


 バレてしまった以上はしょうがない。カケルはことの顛末を包み隠さず鈴香に説明した。話しを聞き終えた鈴香気難しそうに両腕を胸の前で組む。クロエはカケルのベッドの上に座り、事の行方を見守り、カケルも落ち着かず自分の太ももをギュッと握った。和白も緊張で冷や汗が額に滲む。

鈴香が結論を出すまでに時間はそうかからなかった。


「クロエさん。済まないがこのことは父に話さしてもらうよ」


 クロエは残念そうにうつむいた。カケルは慌てて鈴香にいう。


「でもな、鈴香」


「ああ。この子の境遇には同情するし、お前の気持ちも分かる。でもこれだけは私の一存では決められない。我々はオーバードライブ以降、陸地のないこの世界(うみ)で暮らすために、団結というものを重視してきた。個人の感情で船の命運を決めるわけにはいかないんだ。わかってくれ」


 鈴香はクロエとカケルを両方見た。すまなそうにする鈴香を責める気にはなれないが、カケルはどうしても納得ができなかった。


「本当にどうにかならないか?」


「分からない。ただ、彼女の命は私が保証しよう。グングニルのデータを渡してもらうことにはなるが……」


 鈴香はもう一度クロエの方を見た。うつむく彼女の目線に合うように鈴香はかがみ込み、クロエの顔を覗き込んだ。


「すまないな。期待に添えられなくて」


「いや、いいんですよ。でも、これだけはお願いします。どうかグングニルを帝国には使わないで欲しいんです。確かに私は帝国から亡命した身ですが、祖国にはたくさんの友人がいます。彼らに被害が及ぶことはあってはなりません」


 青い瞳が鈴香を見つめた。目の奥底からにじみ出る強い意志を感じとったのか、鈴香も目線をそらさない。そっと頷き、立ち上がったかと思えばカケルに耳打ちをした。


「私も出来るだけのことはしよう。本当に私には力がなくてすまないな」


 無理を言っているのはこちらなので、謝らなければならないのはこちらの方だ。それなのになんて言えばいいのかわからなくなる。鈴香は何度も謝る。クロエも腹を決めたのか鈴香の方を真っ直ぐと見ている。

 自分が偉そうに助けると言ったのに結局は何もできない自分が嫌になる。2人の方がよっぽど強い。


 何も喋れないうちに鈴香はクロエを連れ出していった。和白も鈴香についていった。部屋には何もできなかった自分と後悔の念だけが残った。


 


一晩中眠ることはできなかった。今日は士官学校を休んでもいいと言われたが、何もすることがない。クロエについて参考人として呼び出すかもしれないと鈴香からは言われているので、遊びに行くこともできないし、行く気にもなれない。天井のシミを眺めながらベッドに横たわることしかできない。

太陽がのぼり、そして沈む頃、差し込む斜陽がカケルの部屋をオレンジ色に染めた時、鈴香が部屋のドアを叩いた。そのリズムは軽やかなものだった。


「おい、カケル。やったぞ」


 突然の来訪者にカケルはベッドから上体を起こし、ドアの方を見た。ここまで走ってきたのか、鈴香の長い黒髪が乱れ、額には汗を浮かべていた。


 そして、鈴香の後ろには、


「え? クロエ」


 がいた。急いでベッドから飛び起き、クロエのもとへ駆け寄ると、彼女は恥ずかしそうに頬を赤らめた。正真正銘のクロエだ。

状況がよくつかめないが、とにかく鈴香の手を握り感謝の言葉を述べた。


「鈴香、本当にありがとう」


「ああ、私も嬉しい」


 冷え性の鈴香の手も興奮でいつもよりも熱い。


 カケルはクロエと鈴香を連れて直方の格納庫で作業している和白たちの元を訪れ、クロエのことを伝えた。突然現れたクロエに和白と冴木は目を丸くした。


「本当か?」


「ああ。それに偽の身分証明書を発行して九州船団で彼女を匿ってくれるらしい」


 和白も嬉しそうに笑うがすぐに真顔に戻る。あまりにもあっけなくクロエを匿うことが決まったので心に何か引っかかる部分があるのか、鈴香に尋ねた。


「同盟にはグングニルのデータは渡るのか?」


「いや、なにも無しだそうだ」


「それじゃあ、どうして?」


 浮かれていた鈴香だが、彼女もまた同じ疑問を持っていたらしい。不意に凛とした表情になる。


「私にも分からない。このことは会議を通さずにその場で父上の一存で決まったんだ。他の外部には漏れてないし、クロエの存在を知るのは父上と私、カケル、冴木、和白の5名だけだ」


 カケルにはクロエを匿う理由を探せと言っていた和白だが、どうにも腑に落ちない。わざわざ問題の火種になるクロエを匿うのか。それに偽の身分証を作ることも腑に落ちない。もし、同盟の本部から派遣されたスパイでも紛れていれば、すぐにバレてしまう。普通ならどこかの一室に彼女を幽閉する方が遥かにバレるリスクが少ない。それなのにどうしてリスクが高いことを。

 クロエ、カケル、冴木は隣で嬉しそうに話しをしているが、和白と鈴香の間には沈黙が流れていた。


「お前の父親は何を考えているんだ?」


「父上の考えは分からない。ただ、父上はいつも九州船団のことを第一に考えている。情などで流されるような人ではない」


 和白と船団長姫路源也との付き合いは長い。源也はかなりキレる男であり、鈴香の言うとおり感情に左右されるタイプではない。そんな彼がわざわざクロエを匿うのだから、何かを企んでいるのは自明だった。


(あやつは一体なにを考えおるのだ?)


 鈴香と和白の間には再び沈黙が流れた。

さてと、ここまでがプロローグみたいなものです。最後の方は打ち切り直前の漫画みたいな急展開でした。ただ、雑に書いた訳ではなく、物語内でも同様の急展開を見せており、和白や鈴香がそれに振り回されていることが分かっていただけた幸いです。


次回は25日頃までには出したいです

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