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青い瞳の少女 3

窓に映るクロエは笑みを浮かべているが、カケルが見た彼女の横顔はどこか寂しげに見えた。


喋ったきり、クロエは外を見たまま微動だにしない。


(何にか言った方がいいんだろうか?)


出会って1日も経たない自分がズケズケと他人の事情に首を突っ込んでいいものなんだろうか。深入りすれば、本格的に仲間にならない意志を伝える機会が失われる。でも、ほっとくのも気がひける。


板挟みに遭い、カケルは口を開いたものの声は出ない。


静かになった機内に気づいたクロエははっと我に返る。クロエは窓に映る自分と目があうと、自分の気持ちを飲み込むように唇を噛み締めた。


「そういえば、名前を聞いてませんでした」


前を向いたときには、さっき見た横顔が嘘みたいにクロエの表情は明るかった。余計にカケルの心はモヤモヤする。


(あーあ、めんどくさい。仲間になるって言った俺が悪い)


今から自分が言おうとしていることを後悔しつつ、それでも黙ることはカケルにはできない。


「風見カケルだ」


「カケルさんですか。私のことはクロエとお呼びください」


「わかった。クロエ。俺は今のところお前の仲間になる気はない」


クロエは笑みを浮かべたままうつむく。


「やっぱり、そうですよね。舌噛んで死にます」


予想外の返しにカケルは驚き、慌てる。


「待て、待て。また、そういうことをいう。仲間にはなるつもりはないが、絶対にならないとは言ってない」


クロエは首を傾げた。カケルは自動操縦を切り替え、手動に戻す。


「仲間って脅されてなるものじゃないと思うんだよ。互いに信頼して、助け合って自然となるもんだ。船団に着くまで、30分ある。だから全部話せ」


「でも……」


「何を言っても、一言も他言しない。仲間が欲しいんだろ。まずは俺を信頼しろ。そして俺を信頼させろ」


戸惑いながらも腹を決めたクロエは前を向く。


「わかりました。ただし、1つだけ約束してください。もし、私の話しを聞いて仲間にならないと決めたら私を殺して、海に捨てください。さすがに自分で舌を噛むのは怖いです」


言葉を重ねるにつれ、クロエの声は弱々しくなる。カケルは「わかった」と短く答えた。


それを合図にクロエは語り始める。




私はクロエ=エミ=フライヤ。私の家は兵器の開発から生産までを担う国営企業の経営を任されています。


戦闘機から銃、多岐に渡ります。先ほどカケルさんが倒したF-F-38 ライトニングもそうです。2文字目のFはfighterのFですが、最初の頭文字はflyerのFです。カケルさんならご存知かと思いましたが、フライヤの名前は存知あげてはいませんでしたか。


私の家のことはこれぐらいにしましょう。私の家族の話しをします。


私の父はフライヤ家の三男として生まれました。だから会社の経営にはほとんど関わってません。小さい頃から機械いじりが好きで、主に兵器の開発に携わっていました。ライトニングもそうですし、ムスタングなどの機体の開発にも、関わっていました。


母は日系ヴァルギス人で、父とは打って変わってただの平民でした。ヴァルギスでは身分制度がありますが、能力のある人には貴族の特権が与えられます。母は魔装工学の分野で業績を上げ、皇帝に認められました。母は業績を買われ、父の元で働くことになり、そこで2人は出会いました。


母も一応貴族と同等の立場とはいえ、平民です。母のような平民は成り上り貴族と言われ、貴族からは嫌われていました。


由緒あるフライヤ家の父と成り上り貴族の母の結婚は周りから祝福されたものではありません。しかし、三男だったためか、もしくは母の能力の高さから直接反対されることはありませんでした。


周りからの冷ややかな視線を感じながら私は育ちました。それでも幸せでした。


父は機体の設計以外にもう1つ開発に携わっていました。


グングニル計画と呼ばれる、人口でオーバードライブを引き起こす兵器の開発でした。世界から陸を消し去った力を同盟を消し去るために使おうとしたのです。そして、それは父と母の手によって完成されました。


大陸を消したオーバードライブの10分の1から3倍の範囲のオーバードライブを自由に引き起こせる兵器は、帝国を勝利に導く槍となるはずでした。


しかし、父と母はこの神の槍を恐れたのです。世界を滅ぼしかけた力を使うべきではないと考え、完成を秘匿しました。


それでもすぐにバレてしまいました。帝国やフライヤ家はしつこく兵器のデータを渡すように再三要求しできましたが、父と母はそれを拒否しました。


そこで帝国は……。すみません。力づくでデータを奪いにきました。私と父が屋敷にいない間に、強盗が入り、


そして母を……、


お母さま殺した。世間的にはただの強盗事件として片付けられたわ。でも、私もお父さまもすぐにわかったの。


強盗は帝国に雇われて、データを盗んだと。そして、お母さまを殺したのは父に対する警告だと。


犯人は近くで変死体となって発見されたわ。これで事件は闇のなか。


お父さまは同盟への亡命を決意した。


盗み出されたデータにはロックがかけられているの。父か母の指紋、網膜、特定の言葉を言った時の声紋の認証が揃わなければ解除できない。


帝国が気付く前に逃げようとしたの。帝国内の同盟の工作員に接触し、亡命の手はずを整えたわ。


いざ、亡命を決行するとき、突然彼らは1つの要求を突きつけたの。


グングニルのデータをよこせと。


もちろん私もお父さまも彼らに秘密にしてたわ。それでも情報が漏れてたらしく、工作員たちは最初からデータが目的で、お父さまに近づいてきたの。亡命を考えていたお父さまだけれども、自分の祖国を裏切ることはできない。


お父さまはデータの解除方法を私のものに変更し、私を1人屋敷に残した。そして、自分ではもう開けないデータを持って、工作員との待ち合わせの場所に向かったの。そして、次の日、死体となって帰ってきた。


いずれ解除方法の変更に帝国も同盟も気づいて、私も狙われる。怖くなった私は気づいたらライトニングに乗っていた。軍関係の一族の私が軍施設に進入し、機体を奪うことは簡単だったわ。


そして、今に至るの。私は父と母が命懸けで守ったデータを守る義務がある。




いつの間にか、クロエの目は涙で充血し、呼吸も乱れていた。話し声は悲鳴のようにも聞こえた。


カケルはクロエが頑なに亡命を嫌がった理由を理解した。工作員たちはとっくにグングニルのデータを同盟に送っているはずだ。データの鍵となる彼女が亡命すればどうなるかは容易に想像がつく。


自分は学生とはいえ、同盟の飛行機乗り。軍人として国益を考えれば、クロエを引き渡すのが正解だ。むしろしなければこっちが反逆罪で銃殺される。クロエをかばったところでデメリットしかない。


クロエを引き渡せば同盟が有利になる。恩賞だって出る。


カケルは自分がとるべき決断をできずにいた。いっそクロエを、彼女の言う通りに殺してしまえば楽になる。


今まで帝国機を撃墜してきた自分に今更なんてあるはずもない。


拳銃に手を伸ばそうとするが、1ミリたりとも操縦桿から離れない。


クロエはカケルの様子には気づかず、鼻をすすりながら、でも、明るく話す。


「父と母が守ったデータを守るには自分が死んで全てを終わらすのが一番です。でも、死ぬのは怖い。死にたくない。

帝国にも、同盟にも自分の居場所がないのはわかっています。私はずるい人間です。父も母も死んで、私だけは生き残ろうと居場所のない海に逃げました。だから私はカケルさんを脅した。私はカケルさんと仲間になりたいんじゃないです。ただ、私が生き残るための隠れ蓑にしようとしただけ……。私はずるい人間」


クロエはズボンをぎゅっと握った。そして、自分の気持ちを飲み込むように唇を噛み締めた。口元が緩んだとき、クロエは穏やかに笑っていた。


「やっぱり、死ぬべきだわ。私を殺して」


「嫌だ!」


クロエの言葉をかき消すようにカケルの声が響く。


「仲間になれだの、殺せだの、どれかに統一しろ」


「じゃあ、殺してください。今すぐにでも」


カケルに張りあうように、クロエも声を張り上げた。笑顔で塗り固められていたクロエの表情が崩れた。


カケルは拳銃を無造作に後部座席に放り投げた。


「じゃあ、それを使って死ね。簡単だろ? そいつを頭に突きつけて引き金を引けば1発だ」


渡された拳銃を握りしめ、クロエは自分の頭に突きつけた。指が震え、引き金にうまくかけられない。


「そんなに死ぬのが怖いなら俺を撃て」


クロエはカケルの発言に目を丸くする。


「俺を撃ってこの機体を奪えば同盟にも、帝国にも行かなくて済む。もし、お前が悪い、ずるい人間ならためらいなく撃てるよな」


「そんな、私には……」


クロエの目から涙が溢れ出し、拳銃を突きつけるのをやめた。嗚咽を漏らすクロエにカケルは語りかける。


「お前の父親はなんでクロエ、お前を1人屋敷に残した? 大切なデータの解除方法をお前のに設定した?」


「それは同盟にデータを渡さないためで……」


「俺にはそう思えない。データってお前が生きてないと開けない。それってお前が捕まっても、少なくともデータが解除されるまでは、命は保証されるってことだろ? お前の両親が本当に守りたかったのはなんだ? データだけなのか?」


「……」


「お前が一番自分の親のことをわかっているはずだ。確かに死んでしまえば、データを守れる。でも、それをお前の両親が喜ぶのか?」


クロエは癇癪を起こした子供のように泣き叫ぶ。


「わかってるよ……。わかってるわよ、そんなことぐらい‼︎ でも、私に何ができるの? 親が死んで、怖くなって逃げ出した私に何ができるの? 私には帰る国も、家、家族も、何も……無いのに……」


カケルは一度もクロエを見ない。色々と自分がどうすべきか悩んでたカケルだが、答えは最初から目の前に広がる空にあった。


広い空は縛るものがなく自由だ。それに憧れて、自分は飛行機乗りになった。自分が何かに縛られるのもカケルにとっては嫌だし、他人がもがき苦しむ姿を見るのも同じぐらい嫌いだった。


(なにが銃殺刑だ。同盟だ。そんなものに縛られて、肝心なことを見落としてた)


もう、カケルの言葉に迷いはなかった。


「確かにクロエには自由に飛べる場所も、のびのびと泳げる場所もないかもしれない。かと言って死ぬこともできない。死ぬのなんて、誰だって怖い。俺なんかペーパーナイフを突きつけられてビビったんだぞ。

居場所がないって言うのなら、俺がその居場所を見つけてやる。見つからないなら、海と空を割る水平線をこじ開けてでも造ってやる」


「そんな場所なんてあるわけないじゃない! そんな都合のいい場所なんて‼︎」


「じゃあ、今からこのコックピットが居場所だ」


「え?」


「俺はお前の仲間になること決めた。俺は仲間の居場所にはなれないのか?」


クロエは何もしゃべれずに、泣き崩れた。でも、今までの涙と違って、それは優しく暖かいものだった。かろうじて出た言葉は、


「ありがとう」だった。


ご愛読ありがとうございました。

無事に投稿できました。話の半分がクロエの語りという驚きの展開(笑)

次回からはいよいよ船団が登場します。そう言えば、風見鶏が最後にしゃべったのいつだっけ?(汗)たぶん次回はしゃべります。

次回投稿は2月19日を目指したいです。

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