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青い瞳の少女2

なんと3年かけて3話しか進んでいない……。

頑張るので、よろしくお願いします。

「殺す? 俺じゃなくて君を?」


「そうです。私を殺すの。あなた兵隊なんだから銃やナイフぐらい持ってるでしょう。なんなら私のナイフを貸しましょうか」


目の前にいる少女は金髪碧眼の容姿で流暢な日本語をしゃべり、平然と自分を殺せという。カケルの理解の範疇を越えていた。


「なんで君を殺さなきゃいけないんだ?」


「仲間になってくれるなら教えます」


「じゃあ、君は何者? 兵士には見えないけど」


「殺してくれるなら教えます」


「んーん。ナイフだ。その紋章が刻まれたナイフ。ヴァルギスの紋章が入った物を持てるのは貴族だけだって学校で習ったけど。貴族なの?」


「仲間になるか、殺すか、選択してください」


「仲間、仲間ってね。君のことをよく知らないのに仲間になれるか。だいたい、ヴァルギス人だろ? 俺たち同盟の敵だ。さっきだって俺を殺そうとしたし」


「あれはてっきり、あなたがヴァルギスの兵だと勘違いして……」


語尾が小さくなり、少女は恥ずかしそうにする。カケルは肩をすくめ、会話を続けた。


「じゃあ、亡命者なのか? だったら安心しろ。同盟は亡命者を不当には扱わない」


「亡命するつもりはありません。私は味方が欲しいんです」


「大丈夫だ。同盟はきっと君の味方になってくれるさ」


「私は帝国も同盟も、どちらも嫌です」


「じゃあ、どうすればいいんだ」


「だから仲間になるか、殺すかしてください」


カケルは泣きたくなってきた。せっかく助けたのに、こんな理不尽な要求を突きつけられるとは思ってもいなかっただろう。


もちろん、彼女を殺すのも嫌だし、かと言って仲間になる訳にもいかない。


カケルはため息をつくと、少女もため息をつく。


「残念。時間切れです。自分で死ぬことにします。機内を私の血で汚すことは先に謝ります。最期に誰かとお話しできて嬉しかったです。さようなら」


少女はそっと目をつむり……。


カケルは慌てていう。


「ちょっと待て」


少女は目をつむったままだ。


「いやです。機内を血で染めたくなければ、仲間になってください」


カケルは頭を抱えた。


(あーあ。どうすればいいんだ。第一仲間ってなんだよ)


目をあけ、少女は再びため息をつく。悩むカケルをよそに少女は最終通告を伝える。


「あと、10秒時間をあげます。10、9、8……」


「いやいや。一旦落ち着こうか」


カケルの声をかき消すように、少女は声を大きくする。


「7、6、5、4、3、2」


「待って、お願いだから」


必死に頼んでも少女のカウントダウンは止まらない。


「いーち。ぜろ。決まりですね」


少女は目をつむり、ナイフを思いっきりひく。カケルは頭が真っ白になり、思わず叫んだ。


「はい、はい! 仲間になればいいんでしょ‼︎ なる、なる」


少女は手を止めた。あと0.1秒でも遅ければ、血の海と化してただろう。少女はまだ疑っていて、カケルに念を押さんとばかりに聞く。


「本当ですか。嘘じゃないですよね」


「あぁ。本当だ」


少女は安堵のため息をつく。カケルは落胆のため息をつく。


嬉しさが収まらないのか、少女はナイフをブーツにしまい、カケルの手を両手で握る。ガラス玉のような青い瞳をキラキラさせて少女はお礼をいう。


「ありがとうございます」


しかし、そんな言葉はカケルの耳には入らない。必死に今、とっさに出た言葉をどう訂正するかを考えているのだ。彼女のキラキラした瞳を見ると心が痛むが、仲間にさせられた自分が何をさせられるのか、不安でしょうがない。


少女は敵のスパイかもしれない。あるいはテロリスト。兎にも角にも、そんな輩と関係を持てば、物理的に首が飛ぶのは逃れようがない事実だった。


「どうしましたか?」


考え込んでいたカケルははっと彼女を見る。そして、慌てて作り笑いを浮かべる。


「いやね」


(とにかく、ナイフだ。ナイフさえ奪えれば……)


ナイフさえ奪えれば、少女は死ぬことはない。いざとなれば、騙して少女を同盟に引き渡してもいいとさえ考える。


カケルはそっと、野良猫に接するようにいう。


「とりあえず、ね。そのナイフを、ね」


少女は不思議に思い、首をかしげる。そして、何かを思い出したのか、手をたたく。


「あ、私が貴族か、ということでしたね」


「いや、そうじゃなくて」


カケルは首を横に振るが、構いなしに少女は続けた。


「はい、私はヴァルギス帝国伯爵、ブライアン=フライヤの娘、クロエです。あ、あとこれはペーパーナイフです。騙してごめんなさい」


カケルは自分の耳を疑った。今までの自分の心配が無駄になりかねないワードが聞こえたからだ。


自分の聞き違いかもしれない。ペーパーナイフで脅した人間、脅された人間。そんな人なんて人類史上、自分を含めいないとカケルは思いたかった。


「今、なんて言った?」


カケルの目は血走っていた。それを見たクロエは恥ずかしそうに照れ、申し訳なさそうに話す。


「はい。私はあのフライヤの一族なんです」


「いやいや、違う。そのナイフがどうたらって」


「え⁇」


「そのナイフが! 何なのか言え‼︎」


自分の思っていた箇所と違うところで反応され、しかも終始穏やかそうだったカケルの豹変ぶりにクロエは戸惑う。しばらく、何もしゃべれずにいたが、カケルの考えと、自分の考えの食い違いをすぐに理解した。


「これはペーパーナイフです。This is a paper knife.初めてこの英語を日常会話で使いました」


聞き間違えではなかった。この事実がカケルにどれほどのショックを与えたかは計り知れない。カケルは現実逃避に走る。


「へぇ、帝国のペーパーナイフてものが切れるのか」


「いえ、切れません」


「じゃあ、そのペーパーナイフは珍しいんだね。だって切れるもん」


「いいえ、切れません。ただのペーパーナイフです」


結局、カケルは逃げきれなかった。カケルの目からは生気が失われ、ぐったりと落ち込む。


カケルのテンションの浮き沈みの激しさに、クロエは笑いが堪えきれず、声を出して笑う


ペーパーナイフで脅された、訳のわからない少女の仲間にされ、挙句の果てにその娘に笑われる。ますますカケルは悲しみに沈む。


それを見てクロエは慌てて訂正する。


「違います。あなたを笑ったわけでわありません。ただおかしくって」


「何がだよ」


やさぐれたカケルは癒しを求めて風見鶏を抱く。


「私はいつも自分自身よりも名前、お家柄が先に表に出る世界にいました。だから、私の『フライヤ』という名前より、ペーパーナイフで驚かれたことがおかしかったんです」


クロエは外を見る。


「やっぱり、(ここ)は空とは違う世界です」


ご愛読ありがとうございます。

前話を出したのが一年前。その前が2年前……。

また一年後に投稿するわけにはいかないので予告します。

2月15日、ヴァレンタインデイが終わった次の日に出します。

感想等いただけたら嬉しいです。

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