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青い瞳の少女

カケルは後部座席をチラリと見た。パイロットの少女はすやすやと寝息をたてていた。


彼女が眠る後部座席は、元々単座だった零式を風見鶏のためにカケルが強引に改造し、付け足したもので狭い。女性や子供が一人座るのが精一杯だ。


(こんなに華奢な子が戦闘機2機に追われながら亡命とは)


未だにパイロットの正体が同い年ぐらいの少女だったことにカケルは驚きが隠せなかった。


視線を前に戻したカケルは膝の上の風見鶏を撫でる。


「なあ、風見鶏。こいつをどうしたらいいと思う?」


風見鶏は自分のご主人を見つめ、フクロウみたく、顔を180度傾げる。


「姫路様に連絡し、亡命の手配を願いでるのがよろしいと思います。違いますか?」


風見鶏は顔を元の位置に戻し、再度言う。


「私にはカケル様の言動の意図が分かりません」


「どうも、この子は訳ありな気がする」


「訳あり? ですか」


「そう。さっき俺が倒した2機は帝国の浮遊船を護衛する高々度仕様の機体だ。低空にくれば運動性がガタ落ちする。だから俺は勝てたんだけど」


とうとつに敵機についての説明をされ、風見鶏はカケルの真意を汲み取ることができない。反応しかねている風見鶏に向かってカケルはニヤリとして見せる。


「これで通算6機目の撃墜だ。エースの称号までちょうど折り返し地点」


風見鶏は今までのカケルの音声データを元に、彼の冗談めいた声音が喜びの時に出るものだと判断した。会話に困っていた上に、プログラム上自分のご主人のモチベーション管理も任せられている風見鶏は彼を讃えた。


「おめでとうございます。カケル様のご活躍は同盟の勝利につながるでしょう」


無機質な声にカケルは少し寂しそうに笑った。


カケルはさっきの説明を再開すべく、自動操縦に切り替えて、操縦桿から手をはなす。今度はジェスチャーも交えて話した。


「まあ、つまり高々度の機体は滅多にここまで降りてこないんだ。例え、脱走兵や亡命者が出ても、自分たちの高度(エリア)で仕留めきれなければ、深追いはしないんだ。不用意に零式みたいな低高度の機体に遭遇すれば、さっきみたいになる」


風見鶏はカケルの言うことの真意が掴めたのか、小さく羽ばたく。


「つまり、カケル様は帝国の機体がここまで降りてきたのは、このパイロットに何か要因があると」


「そう。それにもう一つ俺がそう思う理由がある」


カケルはそう言うと後ろの少女を指指した。


「さっき彼女を手当てしながら気づいたんだけど、多分、軍人じゃない。ジャケットなんかは帝国兵のものだけど、その下はただの飛行服だった。階級も部隊章も付いていない。脱走兵ではないと思う」


「民間の亡命者なのですか?」


「どうだろうなあ。ただの一般人が帝国軍の機体を盗んでくるとは思えない。案外こっちのスパイで逃げてきたのかもなあ」


カケルは彼女がしっかりと寝ていることを最後に確かめ操縦桿を握る。そして独り言のようにつぶやく。


「まあ、結局彼女が何者であれ、姫に報告しなきゃいけないけど。

風見鶏。姫と回線を……」


「う、う……」


後ろから少女のうめき声が聞こえた。振り返って見ると、少女と目が合う。意識がはっきりしない少女はただじっと青い目をカケルに向けた。カケルは目を丸くするが、すぐににっこりと笑みを浮かべ、人の良さそうな声を出す。


「お目覚めですか、お嬢さん」


カケルの一言に少女の目は一瞬にして輝きだす。少女は自分の履いていたブーツに手を突っ込むと、中から銀細工のナイフを取り出す。そして、それをカケルの喉仏に添えた。


「Don't move. Continue to fly a plane 」


「え⁈」


突然の出来事にカケルは頓狂な声を出す。しかし、彼女の目を見て、状況を飲み込んだ。


カケルが黙って操縦桿を握ると少女はナイフをカケルの首筋に当てる。彼女の位置からは風見鶏が見えておらず、何かの役に立つかもしれないと、風見鶏を足元に隠れさせた。


(英語の授業をちゃんと受けとけばよかった)


彼は英語が話せない。もちろん、何か彼女と交渉することもできない。


しかし、後悔してはしょうがないと、とにかく話すことにした。


「あっ、えっと。アイ アム ‘‘ア’’ ジャパニーズ、ぎょえっ」


ナイフが強く押し当てられてきた。


「あっ、ごめんなさい! すみません! 許してください‼︎」


戦闘中でも冷静さを保っていたカケルが見る影もない。これ以上力を入れられたり、動かされたりすれば、ナイフは簡単に首筋をえぐることを、カケルは文字通り「肌身」で感じていた。


(殺される)


自分の死を覚悟したカケルだが、思わぬ言葉が少女の口から飛び出す。


「あなたは日本人ですか?」


とても流暢な日本語だった。少女は身を乗り出し、カケルの顔見ようとする。彼女の長い金髪がカケルの頬に触れる。


「プリーズ ドント キル me……、え⁈」


本日2度目の頓狂な声がカケルの口をついた。極度の緊張感と不測の事態にカケルの判断力は麻痺していた。カケルはただ足元に向かって叫んだ。


「風見鶏、頼んだ」


ご主人の命令を受け、隼のごとく風見鶏は飛び出した。そして、金属製の頭が少女のあごにぶつかる。言葉を発することなく、少女は前のめりに倒れる。


しばらくの間、呼吸を整えるのに精一杯だったが、カケルは次第に冷静さを取り戻す。少女からナイフを引っ剥がし、肩にもたれる少女をそっと後部座席に座らせた。


カケルは風見鶏を撫でた。風見鶏は誇らしく「ほー、ほー」と鳴く。ゆっくりとしたため息が機内に漏れた。


しかし、彼の安堵はそう長くは続かなかった。飴色の木の柄に施された銀細工を見て、カケルは息を飲む。


「双頭の龍。ヴァルギスの紋章……」


カケルは自分がとんでもないことに巻き込まれていることにようやく気づいた。


「見ましたね」


当たりが浅かったのか少女は目を覚ました。カケルは振り返り、身構えたが、少女はリラックスした状態で、だらりと背もたれに寄りかかっていた。


「安心して。私はあなたを殺す気なんて最初からありません」


さっきまでナイフを突きつけていた人の言葉とは思えず、カケルはそっと機内にある自分の拳銃に手を伸ばす。そうとは知らずに少女はこう告げた。


「あなたは2つの選択肢があります。私の仲間になるか、私を今すぐ殺すか。いや、3つ? 私が自分で命を絶つもありです」


少女は自分の首筋にナイフを当てながら、尋ねる。


「さあ、あなたはどうする?」


ご愛読ありがとうございました。

相変わらず、説明多いし、テンポが悪いですが、次回もよろしくお願いします。

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