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7,「地下20階のキノコの森」~ファンギーなお茶会はご遠慮願います~

 ノクターンが消えた後。溶けかけた廊下の奥から、ポヨン、ポヨン……と奇妙な音が近づいてきました。

 現れたのは、頭にリボンをつけた、体長50センチほどの「歩くキノコ」でした。キノコはわたくしたちの前で止まると、その傘をパカッと開きました。中から出てきたのは――ボロボロに腐食した、一通の手紙。

「招待状 ~だいすきなおねえさまへ~」

 稚拙な文字でそう書かれた手紙からは、強烈な甘い腐臭が漂っています。

「……グリム、読んでくださる? 触りたくありませんの」

「はっ」

 グリムが手袋越しに手紙を開くと、そこには子供の落書きのような文字で、こう記されていました。

『はじめまして、しろいおねえさま。あたし、ずっとひとりぼっちで、さみしかったの。だから、あそびにきてね。あたしのコレクションルーム(地下20階)で、おちゃかいをしましょう。……こなかったら、ダンジョンの柱をぜんぶ溶かして、お城ごと生き埋めにしてあげる♡  追伸:その紅色の騎士さん、すごくおいしそう。あたしのペットにちょうだい?』

「……」

 沈黙が流れました。エドワルドは「ペ、ペット……」と顔を青くして震えています。グリムは殺気を放ち、手紙を青い炎で焼き尽くしました。

 わたくしは?  わたくしは、深く、静かに息を吐きました。

「……いい度胸ですわ」

 建物の柱を人質に取るなんて、管理規約違反も甚だしい。それに、わたくしの可愛い騎士を、ペット扱いですって?

「エドワルド。新しい雑巾を用意しなさい」

「は、はいッ!」

「それからグリム。最高濃度の漂白剤ブリーチを。……わたくし自ら、その『お茶会』とやらに出席して、マナーを叩き込んでやりますわ!」

 脅迫に屈する? 逃げる? いいえ。売られた喧嘩は、倍の洗浄力で買い取るのが、リリウム家の流儀です。

 わたくしは深緑のドレスを翻し、さらに深く暗い、地下への階段を睨みつけました。


 地下20階への転移陣を降りた瞬間、むせ返るような湿気が肌にまとわりつきました。視界は薄暗く、空気は紫色に澱んでいます。

「……最悪ですわ。湿度が80%を超えています。これではカビが生えて当然です」

「お嬢様、足元にお気をつけを。床が……呼吸しております」

 グリムが掲げるランタンの青い灯りが、おぞましい光景を照らし出しました。かつては石造りだったはずの床も壁も、今は極彩色に発光する苔やキノコに覆われ、ブヨブヨと脈打っています。天井からは粘液の雫が垂れ、それが地面に落ちるたびに、ジュッ、と新たな胞子が舞い上がります。

「ヒッ、ヒィィッ……! 俺の鎧が……湿気で、湿気で曇ってしまう……ッ!」

 エドワルドは半泣きになりながら、常に自身の全身をタオルで乾拭きし続けていました。先ほどの錆びる恐怖がトラウマになっているようです。可哀想に。あとで防錆オイルを塗ってあげなくては。

「奥に、明かりが見えます。……趣味の悪いピンク色の明かりが」

 わたくしは愛用のモップ【スッキリさん】を杖代わりに、ヌルヌルする地面を3ミリほど浮遊して進みました。


 回廊を抜けた先にあったのは、巨大な空洞でした。その中央に、異様な光景が広がっています。

 腐ってねじれた巨木で作られたテーブルと、椅子。テーブルの上には、毒々しい色のケーキと、ボコボコと泡立つティーポット。そして、上座の椅子には――。

「……ふわぁ。……おそぉい」

 大きな欠伸と共に、一人の少女がだらしなく座っていました。艶やかな紫色のロングヘアに、豪奢なゴシック・ドレス。一見すれば人形のように美しい美少女ですが、彼女は自身の体ほどもある巨大な「カビのクッション」を抱きしめ、うっとりとした目でわたくしたちを見つめました。

 彼女こそが、ノクターンの言っていた「失敗作」――腐敗の魔女、フランソワーズ。

「はじめましてぇ、しろいおねえさま。……待ってたよぉ」

 フランソワーズは、眠たげな瞳を細め、ねっとりとした視線をわたくしの後ろに向けました。

「それに……うまそうな鉄屑ちゃんも♡」

「ひぎぃっ!?」

 エドワルドが素っ頓狂な声を上げて、わたくしの背後に隠れます。彼女の視線は、恋する乙女のようでありながら、同時に「食べ残しを見るハイエナ」のように貪欲でした。

「さあ、すわって? 特製の『発酵ティー』をいれたのぉ。……ひとくち飲めば、内臓がドロドロにとけて、とっても気持ちよくなれるよぉ……」

 彼女が指先を振ると、カップに紫色のヘドロが注がれ、それが勝手にカタカタ宙に浮いて、わたくしの目の前に差し出されました。プン、と鼻をつく刺激臭。それはお茶というより、産業廃棄物の煮凝りでした。

「……」

 わたくしは、目の前に浮かぶそれを無言で見つめ――。バシャンッ! モップの一振りで、カップごと叩き落としました。

「あーあ」

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