表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

4,「地下五階の資材保管庫」~その赤竜、高圧洗浄させていただきます~

 地下五階、資材保管庫。扉を開けた瞬間、むわっとした熱気と、金属の焼ける臭いが押し寄せてきました。

「……何ですの、この熱気は」

 保管庫の中は、まるでサウナのような暑さでした。壁際には巨大な焼却炉がいくつも並び、その一つから赤々とした炎が漏れ出しています。

 床には、何かの体液がこびりついてベトベトに。天井からは、得体の知れないパイプが何本も垂れ下がっていました。そして、部屋の中央には――

「あら、洗濯機?」

 それは、見たこともない形状の機械でした。高さは三メートルほど。銀色の金属で覆われた円筒形の本体に、無数のダイヤルとボタンが並んでいます。

 正面には丸いガラス窓があり、中では何かがぐるぐると回転しているのが見えました。

 壁面に刻まれた古代文字が、淡く光りました。どうやら、この施設の案内表示のようです。

『古代遺物:全自動洗濯乾燥機。稼働状況:正常』

「まあ! 洗濯機がありますのね!」

 わたくしは、思わず駆け寄りました。追放されてから十日以上、まともに洗濯ができていなかったのです。これは嬉しい。

「グリム、さっそく使い方を――」

 その時でした。

 ガシャン!

 部屋の奥で、何かが崩れる音がしました。振り返ると、そこには山のように積まれた廃棄物の山がありました。錆びた機械、壊れた武器、ボロボロの布切れ。その山が、ゆっくりと動いています。


 いいえ、違います。山の中に、「何か」がいるのです。

『グ……ルル……』

 低い唸り声と共に、廃棄物の山が弾け飛びました

 現れたのは、一匹の獣でした。全身を黒い鱗(おそらく汚れでしょうけれど)に覆われた、巨大な爬虫類。四肢は丸太のように太く、爪は鋭く、口からは不快な硫黄臭のする息が漏れております。背中には折り畳まれた翼、そして尾は部屋の端から端まで届くほどの長さ……まあ、なんと場所を取る方でしょう。

「……あら」

 わたくしは、その生き物を見上げました。体長は十メートル以上。天井に届きそうなほど巨大です。常人なら、その威圧感だけで腰を抜かすでしょう。

『人間……なぜ、ここに……』

 地鳴りのような声が、部屋全体を震わせました。

「お嬢様ッ!」

 グリムが、わたくしの前に飛び出しました。その両手には、銀色のナイフが握られています。

「下がってください! あれは『古の赤竜』……! 神話時代の最強種です!」

「赤竜?」

 わたくしは首を傾げました。

「赤くありませんわよ? 真っ黒じゃない」

『……何だと?』

 竜が、ギロリとわたくしを睨みました。その目は血のように赤く、瞳孔は縦に裂けている。

『我を愚弄するか、人間……! この古の赤竜エドワルドを……!』

「エドワルドさん? お名前があるのですね」

 わたくしは、グリムの制止を振り切って前に出ました。

「失礼ですけど、エドワルドさん。貴方、最後にお風呂に入ったのはいつですの?」

『……は?』

 竜が、困惑したように動きを止めました。

「だって、見てくださいな。本来は赤い鱗なのでしょう? それが真っ黒になっているということは、汚れが何層にもこびりついているということですわ」

 わたくしは、竜の鱗をじっと観察しました。確かに、黒い層の下には、かすかに赤い輝きが見えます。本来の鱗の色は、きっと美しい深紅だったのでしょう。それが、何百年もの汚れで覆い隠されているなんて……可哀想に。

「おまけに、鱗の隙間に何か挟まっていますわね。寄生虫かしら? 不衛生極まりない」

『き……寄生虫だと……!?』

 竜が、急に落ち着きを失いました。

『そ、そんなものいるわけがない! 我は千年、この地で眠っていただけだ!』

「千年も入浴していないのですか!?」

 わたくしは、本気で驚愕いたしました。

「信じられませんわ……! 千年ですのよ!? どれだけ垢が溜まっているか、想像もできません……!」

『や、やかましい! 我は竜だ! 風呂など必要ない……!』

「竜だから風呂に入らなくていい、という理屈は通りませんわ」

 わたくしは、毅然と言い放ちました。

「不潔は、種族を問わず悪です」

『ぐ……ッ!』

 竜が、たじろぎました。まさか、こんな小さな人間に説教されるとは思っていなかったのでしょう。

「グリム」

「はい、お嬢様」

「【高圧洗浄機モード】の準備を」

「……畏まりました」

グリムが、わたくしの鞄から一本の杖を取り出しました。先端には、複雑な魔法陣が刻まれた金属のノズルがついています。

「さあ、エドワルドさん」

 わたくしは、杖を竜に向けました。

「少しじっとしていてくださいね。千年分の汚れ、落として差し上げますわ」

『ま、待て……! 何をするつもりだ……!』

 竜が後ずさりいたしましたが、もう手遅れですわ。

「【浄化の奔流パージ・ストリーム】――発動」

 ゴオオオオオオオオッ!

 杖の先端から、凄まじい勢いで聖水が噴射されました。それはただの水ではありません。リリウム家秘伝の、超高圧・高温の「浄化水流」。汚れを物理的に吹き飛ばし、同時に魔法的な穢れも洗い流す、究極の洗浄魔法です。

『ギャアアアアアアアッ!?』

 竜の絶叫が、部屋中に響き渡りました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ