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王都を追放された悪役令嬢、最果ての監獄を「大掃除」する ~掃除をしていただけなのに、王国軍の討伐対象になってしまいました~  作者: 涼風てくの


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12,「執事の夜勤」~夜分遅くに失礼します~

「――【死霊爆鎖ネクロ・チェイン】」

 グリムが指を弾くと、虚空から無数の鎖が出現し、ゼクスの手足を拘束しました。高密度の魔力で編まれた鎖は、ドラゴンさえも封じる絶対の枷。

「ぬぐッ!? 魔術師か!」

「ええ。掃除には時間がかかりますので、少し大人しくしていただきましょう」

 グリムは右手に魔力を集中させます。放つのは、第8位階攻撃魔法【静寂なるサイレント・デス】。音もなく対象の生命活動を停止させる、暗殺用の即死魔法です。

 ですが、ゼクスの反応は予想外でした。彼は拘束されたまま、口の端をニヤリと吊り上げたのです。

「……気づいたぞ」

「?」

「貴様、先ほどから……妙に『静か』だな」

 ゼクスの言葉に、グリムの眉がピクリと動きました。

「俺の剣撃を受け止めず、すべて躱したのも。魔法を使う際に、わざわざ威力を絞って『無音』の術式を選んでいるのも。……何かに遠慮しているな」

 鋭い。グリムは表情を消しました。図星でした。ここから数キロ先には、「黒の柩」があります。そして、その深部の寝室では、主であるクラリスが眠っています。彼女は神経質で、枕が変われば眠れない繊細な方。もし、ここで爆音を轟かせれば、彼女は目を覚ましてしまうでしょう。

『まあ、グリム。夜中に何事ですの? 近所迷惑ですわよ』

 そんなお叱りの声が聞こえるようです。執事として、主人の安眠を妨害するなど、万死に値する失態。  ゆえにグリムは、自身の力の9割を「音と衝撃を殺すこと」に費やしていたのです。

「戦場において、全力を出せぬ理由があるとは……。舐められたものだ」

 バキバキバキッ!!  ゼクスの全身から黒い泥が噴出し、拘束していた魔力の鎖をへし折りました。力による突破。そして、彼は魔剣を構え直しました。その切っ先が向いたのは――グリムではありません。

 遥か後方。暗闇にそびえる「黒の柩」本体。正確には、わたくしの寝室がある方角でした。

「しまっ――!?」

 初めて、グリムの鉄仮面が崩れました。

「俺の攻撃を防ぎたければ防げ。……ただし、この一撃は『こたえる』ぞ?」

 ゼクスの魔剣に、どす黒い極光が収束していきます。それは対人用の技ではありません。城壁を粉砕し、轟音と共に大地を揺らす、攻城用砲撃魔法。

「――穿て、【黒極ダーク・ブラスト】!!」

 ドォォォォォォォン!!

 魔剣から放たれたのは、直径数メートルに及ぶ極大の闇のビーム。それはグリムの横をすり抜け、鼓膜を破るような衝撃波を撒き散らしながら、一直線にダンジョンへと向かいます。直撃すれば、結界ごとダンジョンを揺らし、間違いなくお嬢様は飛び起きるでしょう。

(――迎撃てない!?)

 グリムの脳内で、瞬時に計算が行われました。相殺魔法をぶつければ、その衝突音は雷鳴の比ではない。軌道を逸らせば、衝撃波がダンジョンの外壁を叩く。

 回避も、迎撃も、許されない。ならば。執事として取るべき選択肢は、一つしかありませんでした。


「――ぐぅッ!!」

 グリムは、音速を超えて跳躍しました。光線の軌道上、ダンジョンの直前へ。彼は燕尾服を翻し、両手を広げて立ちはだかりました。

 展開したのは、最強の防御魔法ではありません。【完全防音結界サイレント・フィールド】。物理的な防御力は皆無。ただ、音と振動を内側に閉じ込め、殺すためだけの魔法。

「馬鹿な……防御を捨てたか」

 ゼクスが驚愕に目を見開く中、闇の閃光がグリムを直撃しました。

 ジュウウウウウウウウッ!!

「ぐ、ぐ、オオォォォォッ……!!」

 高密度のエネルギーが、グリムの肉体を細胞単位で消滅させていきます。完璧だった燕尾服が焼け焦げ、皮膚が裂け、白い骨が露出し、それさえも炭化していく。それでも、彼は一歩も引きません。背後に漏れるはずの「音」と「衝撃」を、すべてその身一つで吸収し、封じ込めました。

(あの方は……お嬢様は、今日、ふかふかのベッドで眠ることを楽しみにされていた……)

 薄れゆく意識の中で、グリムは主人の笑顔を思い出しました。たかが安眠。されど安眠。その日常を守るためなら、老骨の一つや二つ、安いものです。

「……良い夢を、お嬢様」

 ドガァァァァァァン!

 耐えきれなくなった結界が砕け散り、グリムの体は弾かれたように吹き飛ばされました。遥か彼方、谷底のさらに奥深くへ。瓦礫と共に、彼は深い闇の中へと消えていきました。

 後には、静寂だけが残りました。ダンジョンには傷一つなく、衝撃波一つつたわっていない。ほとんど完璧な仕事でした。


「……理解できん」

 ゼクスは剣を収め、鼻を鳴らしました。なぜ避けないのか。なぜ、己の命よりも「静寂」を選んだのか。合理性を欠いたその行動は、穢れに堕ちた彼には理解不能な「狂気」でした。

「だが、邪魔な門番はいなくなった」

 ゼクスは瓦礫の山を見下ろし、踵を返しました。夜明けは近い。最大の障害を排除した今、ダンジョンへの道は開かれています。

「行くぞ。……朝食の時間までに、心臓を頂く」

 生き残った精鋭たちを引き連れ、黒い軍勢が再び進軍を開始します。

戦いの順番としては、クラリス通常→クラリスバーサーカー→エドワード→復活したクラリスとフランソワーズ+グリム?

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