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都会の病院で働く白石真理子の日常は、忙しさに追われる毎日だった。
早朝の始業から深夜の当直まで、患者の診察や検査、カルテの記入に追われ、休憩時間もままならない。
同僚たちと笑い合う時間もあったが、プライベートはほとんどなく、恋人もいなかった。
仕事が生きがいであり、孤独を感じる暇もなかった。
だが、そんな日々の中で、次第に体の不調が現れ始めた。
朝、目が覚めると胸の奥が締め付けられるような違和感。
昼には吐き気に襲われ、仕事の合間に何度も深呼吸を繰り返した。
「疲れているだけよね」
自分に言い聞かせるが、心のどこかで不安が膨らんでいく。
ある夜の当直明け、疲労でぼんやりとした頭で、ふと病院の薬局に立ち寄った。
誰にも気づかれないように、こっそりと妊娠検査薬を手に取り、トイレの個室へ。
薄暗い照明の中で検査薬の結果を見ると、そこにはまぎれもなく陽性のサインが浮かんでいた。
「こんなはず、ない」
息を呑み、震える手で検査薬を握りしめた。
恋人もいない、自分にはそんな可能性はないと思っていた。
それでも、身体が示す事実を無視することはできなかった。
白石は静かに、これから始まる未知の現実に向き合う覚悟を決めた。