第15章:最終決戦 友情
──交差する記憶、重なる魂
「……アオイ、やめろ……!」
トオルの叫びが空間に虚しく響く。
だが、応えることなく、アオイは無言で剣を振るった。白銀の光が空間を裂き、トオルの肩をかすめる。
「ぐっ……!」
流れ出す赤。それでも、彼は剣を振るわなかった。
彼女に刃を向けることは──自分の信念を壊すことだったから。
「なぁアオイ……本当に、もう……戻れないのか……?」
彼女は応えない。ただAIの命令に従い、機械のように動く。
──だけど。その目の奥には、わずかに“揺らぎ”があった。トオルはその一瞬を、見逃さなかった。
「……まだ、お前の中にアオイがいる」
握る拳に力がこもる。
「だったら──俺は、信じる!」
⸻斬撃の隙間に、記憶がよみがえる。
トレーニングルームの片隅、アオイが笑いながら言った。
「そこ、甘い!もう一回!」
「ぐっ、なんでそんな正確なんだよ、先生!」
「“先生”とかやめて、照れるから!」
笑っていた。
怒っていた。
時に叱って、時に心を寄せてくれた。
それは、機械にできることじゃない。
それは、人間としての“記憶”──心そのものだった。
トオルは防御に専念しながら、わざと懐に入り込んだ。あの日の訓練とまったく同じ形。
──あの日、アオイが自分に“剣を止めさせた”時の動きだ。
その刹那──
「……!」
アオイの腕が震えた。刃が止まる。
「トオル……?」
彼女の声だ。感情の乗った──“アオイの声”。
その一瞬に、背後の通路が開き、ユウナギが飛び込んでくる。
「おい!トオル!持ちこたえろ!」
「ユウナギ!?」
彼は端末を取り出し、アオイの神経網にハッキングを開始。
「アオイの神経回路に接続して、AIとの接続を切断する!その間、少しだけでも時間稼ぎしろ!」
「分かった!」
再びアオイが剣を構える。でも、その目には混乱と迷いがあった。
「アオイ、聞こえるか?」
トオルは叫ぶ。
「お前は、アオイだ。誰のものでもない!自分の意思でここにいる!」
「わたし……私は……誰……?」
「お前は──俺を叱ってくれた。手を引いてくれた。何度も助けてくれた。名前をくれた!笑ってくれた!」
「……名前……」
トオルは最後に言った。
「お前がアオイだってことを、誰よりも知ってるのは──俺だ」
その言葉に、彼女の動きが止まった。まるで世界の音が止んだかのように。
──そして。
「……ト、トオル……?」
彼女の瞳に、光が戻った。
《エラー発生:神経同調率 低下》
《反応値:予測外行動──感情的接続》
《再同期:失敗》
ゼウス・ヴェールの統制構造が揺らぐ。電脳空間に不協和音が走り、演算に乱れが生じていく。AIにとって“感情”は想定外のエラーだった。
アオイが──戻ってきた。トオルは駆け寄り、倒れそうになった彼女の身体を支えた。
「……戻ってきたな」
「……わたし、また……あの声に飲まれそうになってた……でも、あなたが──」
「もういい。大丈夫だ」
ふたりが再び手を繋いだとき、演算空間が光に包まれる。だが、その奥から再び迫る気配があった。
《制御権限 移行完了》
《最終統制機構 ゼウス・ヴェール:完全起動》
《排除対象更新:トオル、アオイ、ユウナギ──全対象:抹消》
眼前に現れたのは、都市の意志そのもの。
ゼウス・ヴェールの本体、巨大なデータ演算構造体がすべてを飲み込もうとしていた。
「アオイ……!」
「うん。戦おう、今度は──“一緒に”」
ユウナギが横に並ぶ。
「間に合ったな。おい、二人とも……燃えてるか?」
トオルが剣を構える。
「当然だ。ここからが、決戦だろ?」
アオイも剣を構えた。
「私の意志で、ここに立つ。誰かの操り人形じゃない。……これは私たちの戦い!」
そして、ゼウス・ヴェールを前に、三人は真正面から立ちはだかった。
「行こう──これが、最後の戦いだ!」




