第2話 ダロン伯爵
アイザックが村を襲撃してきた山賊の"レッドモンキー"を壊滅させ自身の剣術の才に気が付き始めた日から2日後。
エルディン王国カーエサル領から軍が派遣されてきた。それは"レッドモンキー"が村に出没したという知らせを受けたため。それを率いているのはカーエサル領を統治するジェラル・ダロン伯爵。しかし彼は村に着くなり驚くことになる。
「まさか……本当に討伐されているとは……」
それは村の端に固めているレッドモンキーたちの死体だった。ダロン伯爵はレッドモンキーの出没の報告を受けてすぐに軍を派遣しようとしたがその直後にすべてのレッドモンキーが討伐されたという報告を受けたため伯爵自ら軍を率いて確認のためにやってきていた。
そもそもとしてアイザックが簡単に殲滅したレッドモンキーだがその強さはエルディン王国が警戒するほどに高い。まずこの世界には犯罪者の危険度がA~Dで設定されているのだが"レッドモンキー"は上から2つ目のBに位置しており、ほとんどの犯罪者がCかDなのに対してBというのは凶悪さや強さの格が違う。
さらにレッドモンキーのボスであるガルザーグ・スカーはエルディン王国の騎士団長を殺害している。エルディン王国の騎士の強さは世界随一であり最強は国王直轄近衛兵団ではあるが騎士団長クラスもまた他国では最強に部類されてもおかしくないほどにレベルが高い。
そんなガルザーグ率いるレッドモンキーは危険度Bでありエルディン王国が要警戒するほどの山賊たちだった。だからこそそんなレッドモンキーが辺境の村の老人に殲滅されたと知って伯爵自らが真実を見極めにやってきたというわけである。
「……聞きたいことはあるがそれは後か……」
ダロン伯爵はレッドモンキーの殲滅に関して問いたかったが村の惨状やケガ人などを見て自身がまずやるべきことをした。
「魔法使いはケガ人を治療魔法で治療せよ!騎士たちは周辺を巡回!安全を確保せよ!」
「「「はっ!」」」
その指示によって騎士や魔法使いが動き出す。そうこの世界には魔法が存在する。魔法とは火を飛ばし風を起こし傷を癒す、限られた者のみが行使可能な奇跡の御業。体内に魔力を持って生まれた者のみが使用できる魔法は大変強力で"魔力を持って生まれた"というだけで将来が約束されたといっても過言ではないほどに重宝されている。
そうして指示を出したダロン伯爵は馬から降り護衛の騎士をひとり引き連れて村長へと話しかける。
「わざわざ来ていただいてありがとうございますダロン伯爵様。わたしはこの村で村長をやっておりますタルヴァン・クレイブと申します」
「ダロンだ。村長に聞きたいのだがレッドモンキーを殲滅させた人物はいったい誰なのだろうか?」
「それはこの者です。アイザック!」
村長のタルヴァンが村人と話していたアイザックを呼び寄せる。
「アイザック・ドリオールと申しますダロン伯爵様」
アイザックは頭を下げて名を名乗る。
「ほう?アイザックといったか。貴殿がひとりでやったのか?」
「はい。儂が一人でやりましたな」
それが事実かをダロン伯爵が村長のほうを向き確認する。すると村長は頷きながら答えた。
「事実でございます。多くのものがその現場を見ております。そのアイザックの行動によって命を救われた子も存在いたします」
その話を聞いてダロン伯爵は事実と認識してアイザックに問う。
「では貴殿は元騎士か冒険者か?」
「いいえ。ずっとこの村で暮らしておりますただの農家です。剣を握ったのもつい2週間ほど前のことですし」
そう事実を述べるアイザック。しかしそれを聞いたダロン伯爵は馬鹿にされていると判断して少しのイラ立ちを覚える。
「私を馬鹿にしているのか?たかが2週間前に剣を握ったばかりの老人が我が国の騎士団長も殺害してみせたガルザーグ率いるレッドモンキーを壊滅させたと?」
「運が良かっただけですな」
「ほう?あくまで事実と語るか」
ダロン伯爵は貴族として謀略渦巻く世界を生き抜いてきた。その過程で嘘には敏感となっておりそれを見抜くのに長けるようになった。
「(まさか……真実なのか? しかしいくらなんでも2週間というのは……)」
自身の直感ではアイザックが真実を述べていると告げているが世界の常識がそれを否定する。ダロン伯爵は村長に再度問いかける。
「村長はアイザック・ドリオールの言葉を真実と思うか?」
「そうですな~……確かに大体2週間ほど前から剣を振り回す姿を目にしております。それ以前に赤子の時代からアイザックのことは知っておりますがそういった姿を見たことがございません」
「そうか」
ダロン伯爵の直感はそう述べる村長の言葉も真実と告げている。もはや理解不可能な事態に自身の騎士たちの中で最強の男に任せることにした。
「アイザック殿。私は貴殿の言葉が真実かどうか判断ができん。ゆえにここで我が自慢の騎士と戦って証明してくれんか?もしガルザーグを打倒した強さを本物というのならそれを私は見てみたい」
結局真実がわからないダロン伯爵は直接アイザックの強さをその目で見ることにした。これに対して自身の剣術の才に気が付いたアイザックはしかしそれをひけらかしたいとも思っていないし、今まで通りの生活ができればそれでいいと思っている。
だからこそ貴族の目に留まるのはかえって面倒でありできれば拒否したいが相手は貴族の中でも上から3つ目の伯爵の位を持つダロン伯爵。ただの平民の農家でしかないアイザックに拒否権は存在しなかった。
「……わかりました……」
アイザックは渋々ダロン伯爵の申し出を引き受ける。そしてこれがアイザックの名が広まるキッカケになる。
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