第96話 そんな彼女の親友のお願いごと。
いや、そんなハズは。
でも、確かに俺に似ている……気がする。
「ま、いいや。わたしお父様と話があるから、行くね。あとはお2人でどうぞ〜」
雅はそう言うと、本当に出て行ってしまった。
「お姉様……、蒼は、そこ座れよ」
愛は落ち着かない様子だ。
「愛お嬢様……♡、ププッ」
「うるさい。ころすぞっ。ちょっとこっちきて」
愛はベッドに座ると、ベッドの自分のすぐ横をポンポンとした。
「あぁ」
俺が座ると、愛は話し始めた。
「さっきは、ごめん。……あの曲、あれは涼と一緒に作ったヤツでさ」
涼って、写真の男のことか?
「あぁ。そのころ、愛は中学生だったんだろ? すげーよな」
「そんなことない。昔のこと、ずっと引きずってて。こんなことしても元通りにはならないのに。ダサいの分かってる」
愛は力なく笑った。
でも、俺は笑い返せなかった。
「あのさ。愛、辛いんだろ? そういうの、どうにかしたい」
「どうして? 一歌の親友だから?」
「わかんないけど、とにかくどうにかしたい」
愛は一歌の親友だ。
でも、一歌に対しても、俺に対しても、クラスの皆んなに対しても。壁を作っている。
どこか他人事で。
愛は自分にすら熱中できていない気がする。
モブの俺がこんなこと言うなんて笑い話にされそうだけど。どこか悲しそうで、そういうの放っておけないし、どうにかしたい。
「蒼。アタシの全部を受け止められる?」
「え?」
どうなの? おれ。
全部とか無理っぽ。
「……正直なヤツ。口先だけでもイエスって言えっつーの」
愛はクスクスと笑った。
「そんなことないし。エッチなお願いとか以外なら何でもこい!!」
「はは。アタシ、やっぱ弱い。こんなこといっても、涼がいなくて、ホントは辛くて、眠れなくて。時が解決するとか嘘だよ。何年経っても同じ。アタシを助けて」
俺が頷くと、愛は話を続けた。
「あのさ、アタシ。姉様……雅ちゃんと姉妹なんだよ」
「知ってる」
「小学校の頃に両親が離婚して。色々あって寂しくてさ。中学に入ったら、好きな先輩に誘われて。ベースはじめて。トントン拍子に進んで、プロとか見えて来て、アタシも何か変われるのかなって。でもさ、その先輩……涼は、バイクであっけなく死んじゃって。ずっと一緒って約束したのに」
「そうか」
愛は微笑んだ。
「その「そうか」って涼みたい。んで……いつも最後に「わかった」って言うの。アタシ、……そのあとメチャメチャでさ。あるとき、涼の噂話をしてたクラスメイトとつかみ合いの喧嘩になって自主退学……。雅ちゃんも同じ学校だったから、学校に居づらくなっちゃって転校」
自主退学って、つかみ合いなんて可愛いものじゃなかったのでは……。
「うん」
「雅ちゃんにもすごく迷惑かけて、負い目があるんだ。しかも、アタシが悪いのに、アタシから距離作っちゃってさ。きっと、アタシのこと今でも恨んでるだろうし、今では学校でも他人のフリ。……最悪」
もしかして、一歌の陰口騒ぎにも関係してるのかな。あの時、愛の動きが変だと思ったんだ。普通なら愛が庇いそうなものなのに、一歌を守ったのは、美桜だった。
俺は、なんとなく愛の頭を撫でた。
すると、愛は俺の手首を掴んで引き寄せると、自分の髪の毛をもっとぐしゃぐしゃにした。
「あーあ。こんな気の強い女、普通イヤだろ。蒼、アタシを助けたいなんて、アンタ変だよ。そんな男、世界に1人……だけ」
「お嬢様だし、いたわらないと?」
「うるさいっ……、あのさ、無茶なお願いしていい? 一生のお願い。アタシをバイクの後ろに乗せて」
え。
おれ免許ないんだけど……。
でも、ようやく愛がホントの愛を見せてくれた気がして、なんか嬉しくて。
「わかった」
気づいた時には、そう答えていた。




