第95話 そんな彼女の最近のお友達。
雅は俺をチラッと見ると、男性に近づいていく。男性は立ちはだかろうとする運転手を制止した。
「お父様。愛ちゃんに会わせて!!」
お父様?
愛ちゃん?
意味が分からない。
クラスでも、愛と雅が話している姿は、殆ど見た事ない。それなのに、本当に姉妹なのか?
どちらも両親が離婚していて、愛は父親、雅は母親と暮らしている。父は政治家で、母は元大学教授。……あり得ない話ではない。
色々聞きたいが、今は、愛の事が優先か。
愛のお父さんは、立ち止まった。
「雅。どうしてここに? だがなぁ。愛が会いたがってないんだろう?」
俺もなにか言わないと。
「あの、山西さん。愛さん、実はライブでベースを弾いてくれる予定で……」
すると、お父さんはギロリと俺を見た。
「君には聞いていない」
(こぇぇ……)
雅が言葉を続けた。
「愛ちゃん、ずっと辛いんだよ。それに、愛ちゃんに聞いたよ。あまり関係が上手くいってないんでしょ? でも、お父様だって、ホントは心配なんでしょ?」
愛はお父さんと、うまくいっていないのか?
この前、雅から離婚は父親の浮気が原因だと聞いた。
……それを考えれば無理もないか。
「夜は冷える。とにかく入りなさい」
愛のお父さんの声には元気がなかった。でも、雅のおかげで、中に入れてもらえた。
門扉から母屋までは20メートルほどあり、古そうだが、かなりの豪邸だ。
靴のまま中に入ると待合室に通された。
家の中は和洋折衷という感じで、書院づくりのような板の間に、壺や絨毯などが設えられていて、戦前の豪邸という雰囲気だった。
ソファーに並んで座ると、雅が寄りかかって来た。
「うふふ。役得♡」
「いや、ちょっとマズいでしょ」
ここではヤバい。
愛のお父さんに見つかったら、社会から抹殺されそうなんですけれど。
「えーっ、わざわざ来てあげたんだよ? それにスリルが興奮しない……?」
それアナタだけだから……。
こっちは興奮度マイナス百万点なんですが。
「それにしても、さっきは、すごいタイミングだった」
「一歌ちゃんが、蒼くんピンチだから行ってあげてって」
一歌のヘルプだったのか。
やっぱ、まじ天使だな。あの子。
すると、なぜか雅につねられた。
雅はむくれている。
「いてて、なにすんだよ」
「他の女のこと考えてるでしょ?」
「一歌のことだし」
「感じわるっ。でもね、愛のこともどうにかしてあげて」
雅は、そう言うと俺の膝の上に手を置いた。
「それって、どういう意味?」
「あの子の昔の話は聞いた?」
「うん。前に好きな人とバンドしてたとか」
「うん。ああなっちゃったのは、うちの事情……わたしのせいなんだ。あの子、昔のことずっと引きずってて……」
すると、足音がした。
雅は反射的な身体を離す。
「一応、愛には雅が来たと伝えてある。部屋に行ってみなさい」
俺と雅は立ち上がった。
すると、愛のお父さんに声をかけられた。
「藍良くん、君には話があるから、またあとでわたしの部屋まで来るように」
(ひーっ……)
愛のお父さんは、さすがに人前に立つ仕事をしているだけあって、圧がすごいのだ。
正直なところ、怖過ぎて絶対にいきたくない。
「分かりました……」
俺と雅は2階への階段を上がる。
「それにしても、雅と愛が姉妹だなんて、今でも信じられないよ」
「ま、内緒にしてるからね。ここに来るのも久しぶりだし」
「それはどういう……」
雅は、俺の口に人差し指を押し付けて話を遮った。
「しっ。声を出さないで。愛にバレちゃう」
バレちゃう?
どういうことなんだろう。
雅は愛の部屋の前に立つとノックした。
「雅です。愛、でてきて」
さすが姉。
スタートからマウントとっている。
「姉様? ……どうしたの?」
姉様さま?
プププッ。
愛の口から出たとは思えん言葉だ。
それにしても、愛がお嬢様だったとは。
そういえば、前に紹介された山星 空くんもお金持ちそうだったもんなぁ。
でも、愛は出てこないんじゃ。
雅はドアを叩いた。
「愛!! 出て来なさい!!」
(愛には強気だな)
すると、一瞬の間を置いてドアが開いた。
「姉様、いきなりこられても部屋も散らかって……って、ちょっと!!」
雅がドアの間に足を挟んだ。
「蒼くん!! 今のうちに!!」
俺はドアを開けた。
すると、意外と女の子っぽい部屋だった。
「蒼……、ちょっと見るなよ!!」
そういって愛が立ち塞がった方をみると、棚にフォトフレームがあって、男性の写真が飾ってあった。
あれが好きだった男性か。
「愛。無理矢理に押しかけて悪い」
愛は視線を逸らした。
「ごめん、曲は無理」
「曲もだけど、お前のことを助けたいんだよ!!」
「別にアタシは……」
「んなわけないだろ。何年も前の写真飾って、お前、その時のまま立ち止まってるじゃん」
雅は写真と俺を交互に見て、首を傾げた。
「あの写真、蒼くん?」




