第93話 そんな彼女の義妹のはなし。
次の日、近所のファミレスで、まずは顔合わせをすることになった。
「えーと、この人がベースの子。こっちは妹の愛紗とドラマの真宵ちゃん」
それぞれ挨拶する。
愛紗も今回は自分のためだという経緯は理解しているらしく、悪態をついてはいない。
これから話し合いをするわけだが、バンドの名前がないとやりづらい。
「このバンドって名前とかあるの?」
愛紗は首を横に振った。
「いや、ない」
愛紗は言葉を続けた。
「……蒼と妹ちゃんと泥棒猫……」
ちょっと、そういうのやめて?
映画のタイトルとかでありそうで、面白いけど。自分だけ「ちゃん」づけなのはどうかと思う。
それを聞いて真宵があたふたした。
「わたしは泥棒猫じゃないよ?」
「蒼のこと優しそうっていってたじゃん」
「わぁーっ。そんなこと言ったけど、言ってない」
仲良さそうだ……もしかしたらクラスで浮いてるんじゃないかって、少し心配だったんだ。愛紗にちゃんと友達がいたようで安心した。
「真宵ちゃん、愛紗のことよろしくな」
真宵はお辞儀をした。
「もちろんです♡」
「こいつ、面倒くさいでしょ?」
「えへへ。ちょっとだけ」
「あの、名前は、愛紗と仲間たちでどうですか?」
「んじゃあ、それでいいわ」
俺は続けた。
「んで、曲どうするの?」
俺が聞くと愛紗がボソボソと答えた。
「オリジナル……」
「え?」
真宵が補足してくれた。
「あの、今回は他にもバンドでるんですけど、オリジナル曲での参加が条件なんですよね……とほほ……」
は?
俺は思わず素で聞き返してしまった。
「曲ってあるの?」
真宵は答える。
「それがぁ。抜けた子が作った曲で出ようと思っててぇ〜」
まじかよ。そんなの聞いてないし。
演奏の練習だけでも無理ゲーなのに、曲もこれからって、完全にやる前からゲームオーバーでしょ。
「でもさ、4人中2人が抜けて、曲もないとか。やる意味あるの? 棄権でよくない?」
言った直後に後悔した。
つい、本音が出てしまった。
「……もういい」
愛紗はそう言うと店から出て行ってしまった。
「ちょっと待てよ!!」
理由は分からない。
でも、愛紗は俺に助けてと言った。
だから、相応の理由はあるに決まっている。
俺は、それを分かってたのに……。
店から出ると愛紗がうずくまっていた。
「さっきは悪い」
俺がそう言うと、愛紗は膝を抱えた。
「別にいい。パパくるから。わたしがバンドするって言ったら、パパがすごく喜んでくれて、ママと見に来るって。だから」
あぁ。そうか。
こいつは俺と同じなんだ。
心のどこかで、父さんに負い目があるのだ。
一緒にできなくてゴメンって。
特に父さんは、「いつか娘ボーカルとバンドしたい」って言ってたからな。愛紗は尚更か。
「そだよな。気持ちはわかった。俺の父親でもあるし。よろこばせたいよな」
「……うん」
「でも、現実問題、曲どうしよう。知り合いに作曲できる人いないの?」
愛紗は首を横に振った。
そうだよな。そんな都合よく行くわけないか。現に俺の周りにもいないし。
すると、ふと一歌との会話を思い出した。
「愛、いつも同じ曲を聴いてるんだよ。自分で作ったとか言ってたけど、ホントかなぁ?」
愛は前にバンドをやっていた。
良いところまで行ったなら、当然、オリジナル曲があるハズだ。……で、あれば。
「大丈夫か?」
振り返ると愛がいた。
「愛、前のバンドでオリジナルの曲があるだろ? 使わせてくれないかな」
すると、愛は俺を一瞬見て、目を細めると視線を逸らした。
「……ごめん。それは無理」




