第90話 そんな彼女の義妹の困り事。
妹ってなんだろう。
ムカつく時も多いし、兄妹なんていらないって思うこともあるけれど。
でも、やっぱり他人になれないし。
泣かれたら、俺も悲しい。
だから、困っていれば助けたい。
ってか、元のメンバーとやるのは不可能なのかな。
「愛紗、そのメンバーとはどうして喧嘩したの?」
愛紗はスカートの裾を掴んで言った。
「その子の幼馴染の男の子に告白されて、断った……」
「あの、ちなみに、そちら様には、なんて言ったの?」
「何度も言われてしつこいから、可能性ゼロだし、次いったらストーカーで通報しますって……」
あー、それが原因か。
つか、人見知りのくせに毒舌すぎるだろ。
少しは他人にも優しくしような?
「抜けたの2人だよな? じ、じゃあ、もう1人は?」
「それは、ある日、クラスの男の子に呼び出されて……」
「いや、続きはいいや……」
その先は想像がつく。
どんだけモテるのこの人。
俺のモテ運まで、ガッツリ吸収されてる気がするんですが。
「でもさ、助けるって、メンバー見つけてくれるの?」
愛紗はそう言うと、俺の目をじっと見つめてきた。不安そうだ。
「1人、候補は見つけてる。美人だぞー?」
「ふーん。女か。また泥棒猫③が……」
愛紗はブツブツ言っている。
ま、その泥棒猫は、俺のファーストキスの相手なんだが。あえて言うまい。
「ちょっと前に真宵ちゃんから聞いてさ。楽器の経験あるやつ探してたんだよ」
「我のために、下々の者はご苦労なことだ」
おっ、ちょっとだけ小憎たらしい愛紗が復活した。調子が出てきたかな?
まあ、下々もなにも、メイド服着てるアナタが一番、下々っぽいですけどね。
「まぁな。真宵ちゃんはドラムだろ? ドラムが残ってくれて運がよかったよな」
「どして?」
「ドラムは少ないし、一番見つけにくいんだよ。気軽に始められないしな。ね? 真宵ちゃん?」
真宵は前髪で顔を隠した。
「わたしは、まだ好きな人とかいないし、寂しい女の子だから、バンドに残っちゃった」
ってか、誰もが愛紗を好きになる前提なの? 世の2男子は全員、ドMなのか? こいつ好きになっても泣かされるだけだぞ。
「ううん、残ってくれてありがとう。ってか、真宵ちゃん普通にかわいいでしょ」
真宵は右手を口元に添えると、身体を左右に振った。
初々しい反応だ。
イテッ
愛紗に蹴られた。
「蹴るなよ!! 愛紗はボーカルだろ?」
「そうだけど? ……兄貴。ギターの人が足りない」
「あほか。おまえ。身近にプロギタリストがいるじゃん」
紅(父)よ。出番だ。
「パパ? いや、いくら学外でもいいってって言っても、さすがにアラフォーのおじさんは……」
「いや、俺が出るんだよ。習って」
「ふぅーん。ま、いいや。兄貴で」
……モチベさがる言い方してくれるなよ。
「そういえばさ、お前。そんなに歌うの好きじゃないだろ? なんでバンドで出ることになったの?」
「うち、パパがミュージシャンじゃん? たまたまそれを真宵とあと2人が聞いたみたいで。そ、それで、我が召喚されたって訳じゃ」
愛紗よ。厨二病口調が維持できてないぞ?
あまり無理しなくていいからね。
……要は、断れなかったってことか。
この八方美人さんめ。
俺らは、家に帰ってさっそく父さんと話してみることにした。
リビングで愛紗とならんで座る。
「……と、いうわけで、父さんの力を借りたいんだよ」
父さんは、話が終わると遠くを見た。
「いつか、こんな日が来ると思ってたんだよ。『プロデビューしたら、娘さんをください』とな。でも蒼よ。プロへの道は甘くはないぞ?」
この人、ほんとに人の話を聞いてないな。
さすが愛紗の父親だ。
娘もいらなければ、プロになる気もないんだが。
愛紗は俺の二の腕の辺りを掴んだ。
「頑張れば、兄貴との恋愛みとめてくれるの……?」
ほらほら。
そこも、悪ノリしない。
ギターは父さんから借りれるとしても、演奏がなぁ。
父さんは言った。
「蒼。冗談はさておき、1週間じゃかなりきついぞ? 本気なのか?」
「あぁ、本気だ。明日から学校休んで毎日練習するから」
父さんは俺の背中を叩いた。
「よく言った!! 蒼も本気だな。かあさーん、俺も明日から仕事休むから!!」
すると、母さんが、バンッとテーブルを叩いた。そして、眉間に皺を寄せて言った。
「……2人とも、ちゃんと学校と仕事にいけぇぇ!!」




