第9話 そんな彼女の友達はよく分からない
まじで誘われてるのか?
俺は、改めて愛を見てみた。
身長は一歌より少し高くて、胸はDくらいか。スカートをまくし上げていて、綺麗な脚が見えている。
正直、童貞モブ男にとって、ご褒美以外の何者でもない身体だ。
「いや、でも。ゴムとかもってないし」
しまった。
動揺して意味のわからない断り方をしてしまった。
「別に生でいいよ。アタシ、ピル飲んでるからガキできないし」
ピル?
なんでそんなもん飲んでるんだ?
でも、中出しかぁ。刺激的で素敵な響きすぎる。
愛がそうなら……一歌も飲んでるのかな。
ってことは、他の男とも生で?
それはちょっと、……いや、すごくイヤだ。
もし、おれが愛とヤッたら一歌、悲しむのかな。でも、一歌だって他のヤツとしてるんだし。
そう思いながらも、俺はゲームしながら肩を寄せてくる一歌のぬくもりを思い出していた。
あの時間、結構、楽しいし。
大切なんだよ。
だから、なくなるとイヤだ。
「ごめん。一歌がイヤがることは無理」
すると、愛はパンパンとスカートの埃を払って、俺と向き直した。
「ふーん。他のヤリ目男と違うか。そうかもね。あ、変なこと言ってごめん」
「いや、別に」
「一歌が、ああいう顔すんの初めてだからさ。一歌、男の誘いにはのるけど、たぶん。相手を好きになったことないんだよ」
「そ、そうなんだ」
ここ最近の一歌を見ていると、それは、さほど意外なことではなかった。
愛は続ける。
「あぁ。一歌、ああ見えて脆いからさ。好きになったのが変な男だったら、あいつ、たぶん壊れちゃうから。ま、あんたなら大丈夫そうか」
「そうなんだ? あのさっきのピルって、一歌も?」
愛はポリポリと頭をかいた。
「アタシら生理痛ひどくてさ。あ、一歌、アンタ以外とは生ではやってないから、安心しな?」
「そうなんだ。よかった」
……ん?
それって、アンタ以外とはゴムでしてるってことじゃん。安心して良いことなのか、相当微妙ですけどね。
……軽く落ち込む。
そんな俺が視線を逸らした次の瞬間、俺の耳は、愛に甘噛みされていた。
「んじゃ、改めて。セックスする? 一歌の相手ができるように、鍛えてあげるよ。ほら、ゲームとかでも、はじめにはチュートリアルあるじゃん? あんなかんじ」
耳元で聞こえる愛のハスキーな声に、頭がクラクラする。
……ごくり。
俺は唾を飲み込んだ。
でも。
「大変、魅力的なご提案ではありますが。お断りします。当方、チュートリアルは飛ばす派でして……」
愛は、自分の膝をパンパンと叩いた。
「あははっ。なにその言い回し。うざっ。ウケるんだけど。でも、ちゃんと断るんだ。えらいっ」
愛は俺の頭をワシャワシャとした。
なんかこいつ、年上みたいだな。
俺には姉はいないけど、姉貴がいたら、きっとこんな感じなんだろうか。
キンコーン
タイミング悪く、始業の鐘がなった。
「それと、キスすんの、はじめてだったんだけど」
これは言っとかないと。
男だって、初めては大切なのだ。
不当に奪われた俺のファーストキス……。
愛はうなじをさすって、気まずそうに眉を下げた。
「まじ? 一歌ととっくにやってると思ったからさ。ふーん。ファーストキスもらっちゃったか。やべーな。なんなら、もう二、三回しとく?」
そういう愛の顔は優しい。
一目で冗談なのが分かった。
愛は、どうやら、内と外をハッキリ区別する子のようだ。今回のことで、俺は内側に入れたってことかな。
「愛……、山西さん。一歌の相手にいつもキスしてんの? もっと自分を大切にした方がいいっていうか」
愛は呆れたように、ため息をついた。
「アタシの心配してんの? 優しいねぇ。安心して。他の男らは、キスなんてしなくても、呼び出しただけで、アタシの足見て本性出すからさ。そんなことまでしてない」
「そか。ならいいんだけど」
「アタシを誘って来た時点で、ボコってるから。アタシ、喧嘩で負けたことないんだ」
愛は小さな拳を握ってみせた。
どうりで……。
一歌が男と長続きしないわけだ。みんな、愛の洗礼をうけているのだろう。
おかげで、一歌の男性ローテーションが早まっている気はするが。
ま、俺は殴り合いの喧嘩をしたことすらないんだけどね。
でも。
「あのさ。こういうのやめた方がいいよ。こんなとこで2人きりとか。もし、相手の腕っぷしが強かったら山西さんがヤバいし」
「ありがと。あ、アタシのことは愛でいいよ。……んじゃあ、アタシ、そろそろ戻るから。あ、これアタシのメッセンジャーのID。一歌のことで連絡とりたいから登録よろしく。……スルーしたらころすから♡」
自分の言いたい事をいうと、愛は去っていった。確認のためにキスまでするのはやりすぎだと思うが。
それだけ一歌が大切ってことなのかな。
俺には理解し難いが、愛なりの友情なのだろうと思う。
愛のIDを登録すると、直ぐに返信がきた。
一歌と違って、スタンプが続き、メッセージが送られて来た。
「さっきはありがと。アンタのファーストキスの件、一歌には内緒で♡ それと、先生キレてるけど、授業でなくて平気なの?」
愛のメッセージは、意外にも女子っぽい。
俺は時計を見た。
やばっ。もう授業、はじまってるし。
教室に戻らないと!!