第89話 そんな彼女の彼氏は助けたい。
「愛紗!!」
言われた場所にいくと、メイド服で連れまわされる愛紗がいた。
「兄貴ぃぃ」
愛紗は半べそだ。
愛紗は実は……俺がいないと極度の人見知りだ。内弁慶の究極形態だと思う。
愛紗は俺に縋り付いてきた。
「助けて……」
こいつには、散々かまされてるからな。
いい機会だ。
少しくらいは、メイド服で反省してもらおう。
「雅。サンキューな」
雅からは事前に連絡をもらっていた。
少しは人に慣れてもらおうと思って、雅に相手をしてもらっていたのだが……、まさかメイド服を着せられているとは。
プププ。
俺と雅のやり取りを聞いて、愛紗はむくれている。
「今日は、一歌と出かけてたんじゃ?」
こんな時でも一歌のことは呼び捨てなのな。
ブレないやつだ。
「愛紗が困ってるなら最優先だろ。前に困ってるなら助けてやるって言ったじゃん」
「兄貴……、それは一歌より?」
「……」
むごーん。
「なんか言えよっ」
愛紗がキレた。
「と、いうことで、今日はその格好でいいんじゃね?」
「……なにも良くない」
雅が割っていった。
「愛紗ちゃん。似合ってるよ? せっかくのプレゼントだし……。ね?」
「はい。それはそうなんですけど……」
傍若無人な愛紗が、借りてきた猫みたいだ。
見ていて面白い。
と、面白くて肝心の用事を忘れていた。
「愛紗。いま、学校で、ほんとは困ってることがあるんじゃないか?」
「べ、別に……」
こいつ、ほんとに大変な時には遠慮するんだよなぁ。やっぱ、自分からは言い出さないか。
「出てきていいよ。真宵ちゃん」
俺が呼ぶと、柱の陰から、黒髪ショートの少女が出てきた。まだあどけない顔立ちながら、アンバランスな巨乳。幼い顔に不釣り合いな妖艶なボディ。かなりの上物だ。
俺が真宵をジロジロ見ていると、愛紗に蹴飛ばされた。
「我の……友達をイヤらしい目でみるんじゃない!!」
「ごめん。でも、言うことがあるだろ?」
「でも、兄貴に相談しても……」
真宵が口を開いた。
「愛紗ちゃん。ほんとは困ってるでしょ? 学園祭まで1週間しかないんだよ? 事前に申請すれば学外の人にも、お手伝いしてもらえるし……」
俺は真宵から、ある相談を受けていた。
愛紗のことだ。何も気にしなくても万事うまくやっているのかと思ってた。でも……。
すると、スマホに着信があった。
一歌だ。
「一歌? 見つかった? ……愛か。ありがとう」
俺の通話が終わると、愛紗は言った。
らしくなく、泣きそうな声だ。
「兄貴、わたし、ほんとは学園祭で困ってる。友達とバンドする予定だったのに、2人喧嘩して抜けちゃって。いまさらやってくれる人いないし、どうしていいか分からない」
俺はそのために、ここにきたのだ。
だから、答えは決まっている。
「助けてやるよ」
普段、多少仲が悪くても。
妹が困っているなら、本人がヘルプを出せなくても助ける。
それが兄貴の役割だ。




