第88話 そんな愛紗のある日の1日。
「おはよー」
朝起きて、ぬいぐるみの蒼太に挨拶して、鏡を見る。
我ながらに、カワイイ。顔はイケてると思うんだけどな。胸は……。そのうち育つことに期待したい。
「愛紗、ごはんよー」
ドアを開けて、わたしを起こしにきたママの胸をみて、ため息がでた。
……藍良家のDNAには期待できなそうだ。
休日なので皆、遅いらしい。
1人で朝食を食べるか。
巨乳を目指して牛乳をがぶ飲みしいてると、ママにつっこまれた。
「愛紗ちゃん。あのね、牛乳飲みすぎると太るわよ?」
「胸大きくならんの?」
「胸より先に、お腹が出ちゃうかな? それにね、ママも牛乳好きなのよ……」
お互いの胸を見渡す。
「かなしいね……」
牛乳は今日で卒業することにした。
ちょっとインターネットの掲示板で質問してみよう。「中2女子ですが、どうしたら胸が大きくなりますか?」っと。
返事を待ちがてら、食器を片付けていると、ママに蒼を起こしにいくように言われた。
「たのもーっ!!」
ドアを蹴飛ばして部屋に入ると、蒼がいない。
すると、脱ぎっぱなしの下着らしきものが落ちていた。
右みて、左みて。
よしっ、誰もいないっ!!
わたしは、駆け寄ってつまみ上げる。
すると、Tシャツだった。
ちっ。パンツじゃないのか。
でも、Tシャツを両手でもって顔を埋める。
「ふはー!! ……ってこれ」
汗の匂いがしない。
洗いたてじゃないかっ!!
蒼め。いつも、渡された洗濯物はすぐにしまえと言ってるのに!!
期待して損したわ。
仕方ないから、引き出しに収納して……。
ってか、蒼がどこにもいないし、財布とかスマホもない。そういえば、アイツ(蒼)は、今日は朝から出かけるとか言ってたような。
「チッ、あの泥棒猫のところか」
なぜかイラっとする。
まあ、仕方ない。
腹いせに部屋の物色でもするとしよう。
えーと、屋根裏のエロ本はっと……。
あったあった。
それにしても、あいつ。
我が見てるんだから、隠し場所変えたらいいのに……。そう思い、おもむろにエロ本を取り出してみると、また妹ものだった。
「ほんと、兄貴のシスコンにも困ったものだ……。我、いつか本当に押し倒されるかもしれん♡」
すると、本に何かの紙が挟まっていた。
「なんじゃこの紙は。もしかして、よく図書館にあるご要望カードか?」
蒼め。
なにげに気の利くやつだ。
では、遠慮なく……。
「妹ものは飽きたので、BLも増やしてください」っと。
クックック。
これで屋根裏図書館も我が支配下じゃな。
紙が挟まっていたページを見ると、足を開いた女の子が写っていた。貧乳だ。
「ん? このモデル、なんとなく我に似てないか?? 髪型といい胸のサイズといい、そっくり」
まさか、あいつ。
これは、我への遠回しな愛のメッセージ?
愛紗はむしろドストライクに性的な対象ですよ、という高度なラブレター的なやつかも知れぬ。
しかし、我と兄貴は、結ばれることが許されぬ禁断の関係……。
我に恋慕なのだな。
蒼のやつめ。
ってことは、一歌は当て馬か。
哀れなことだ。
……次に会ったら、一歌にも少しくらいは優しくしてやろう。
って、蒼にも困ったもんじゃ。
本気で告白してくれば、我としても、やぶさかではないのだが。
さすがに、我から素の告白は……、は、は、恥ずかしいというか、断られたら一生、立ち直れなそう。ま、断られるはずなど、ないのじゃがな。
さて、エロ本は元に戻してと。
次は、ゲームじゃ。
あやつのアカウントでログインしてと……。
勝手にマサと離婚して、我のキャラと再婚させてやろうじゃないか。
そして、金目のアイテムも勝手にアイシャに移動。我ってば、なんて親切。
ログインすると、マサがいた。
さっそくメッセージを送る。
「ちょっと、この泥棒猫っ!! 早く離婚してアイラを返しなさいよねっ!!」
すると、すぐに返信がきた。
意外に元気そうだ。
こやつ、ネナベがバレて、コンプレックスに打ちひしがれているのではなかったのか?
「アイシャちゃん? 蒼から聞いたよぉ。妹ちゃんなんだってねー。あ、操作ミスかな? 離婚の申請きたから拒否しとくね。あのね、アイシャちゃん。おにーちゃんだけじゃなくて、他の男の子も見ないとダメだよー?」
は?
兄貴のこと呼び捨てにしてるし。しかも、なんかコイツ、姉貴気取りじゃないか?
もしや。
こいつ、いつのまにか蒼とリアルで会ったな?
ってか、離婚の申請は、送信までに5回も意思を確認されるんだぞ。操作ミスのわけなかろう!! こやつ、わかってて拒否したな。
なんと図太い。
この泥棒猫②めっ。
どいつもこいつも。
前に、世の中の女には、妹と泥棒猫しかいないと聞いたことがあるが、ホントじゃな。
油断も隙もあったもんじゃない。
「蒼と会ったの?」
つい、わたしは聞いてしまった。
すると、またすぐに返信が来た。
「会ったよ。愛紗ちゃんの話もきいた」
「2人で何したんじゃ? ま、まぐわったのか?」
「んー、それはもうちょっと先かなぁ? あと、遊園地いって手つないじゃった♡」
もうちょっと先だと?
そんな時など、永遠にこぬわっ!!
ってか、我もあまり手を繋いでもらえぬのに……ゆるせんっ。
かくなる上は、実際に会って刺し違えるしかない。
「あのー。ちょっと会えませんか?」
みてみて。
この年上にも媚びぬ感じ。
「ん? 蒼の妹さんだし、いずれわたしの妹になる子だもんね。いいよ!!」
……どいつも(一歌)こいつも(マサ)も、頭がお花畑すぎるんだが。
一歌もだが。コヤツも意思の疎通がはかれぬ。
蒼の女の好みは、大丈夫か?
雅との待ち合わせの前に日課を済ませる。
(はぁ、面倒くさ。今日は2人か)
待ち合わせ場所にいくと、声をかけられた。
少し明るめの髪の毛で、ワックスで前髪をあげている。いかにも自分に自信がありそうな男の子。
「藍良さん、俺、君のこと好きなんだけど、付き合ってくれない? 俺のこと知ってるよね。サッカー部のキャプテンで、ウチ、全国大会常連じゃん……?」
毎日繰り返してると、無感動になってくる。
さて、答えるか。
「無理です。わたしのことを知らないのに好きとか言われても、正直ひくんですが」
キャプテンさんは、泣きながら帰って行った。
そして、5分後、また声をかけられる。
こんどは、しきりに髪の毛を直しているメガネの男の子だ、
「あの、ボク、君のこと好きなんだけど。交際してもらえませんか? ボクのこと知ってるよね。学年二位で、将来は東大も確実って言われている……」
「あの。わたしより勉強できない子に興味もてないんですけど。色ボケしてるから、毎回、私に負けるのでは?」
メガネくんは、泣きながら帰っていった。
はぁ……。
なんで、寄ってくるのは、こんな個性派にばっかり好かれるんだろ。
普通でいいんだよ。
普段は目立たないけど、実は優しくて。臆病なくせに、わたしのためには勇気を出してくれる。
「たすけて」っていったら、飛んできてくれるような子。
……どこかに、そんな子はいないのかな。
すると、女の子に声を掛けられた。
「愛紗ちゃん? わたし、お兄さんのクラスメイトのみやびっていいます。よろしくね」
はぁ?
めっちゃ美少女なんだが。
ゴリラみたいなマッチョキャラの中身がこんな子だなんて。完全なるオフ会テロだぞ。
みやびの身体を自分と見比べる。
胸は……、一歌よりは現実的な相手じゃな。
少しだけ安心した。
わたしが呆けていると、雅が何かのお店を指さした。
「ね。あのお店、いまSNSで話題なんだよー? いってみよ。その前に、服買ってあげる♡」
「い、いや。知らない人にそういうのもらっちゃダメってお母さんが……」
すると、雅はニヤリとして我の顔を覗き込んできた。
「もしかして、愛紗ちゃん。おにーさんいないと、人見知り?」
やばい。
バレた。
同級生はまだいいんだが、年上はどうしても苦手なんじゃ。兄貴がいないと、怖くて自由に話せん……。
雅はニマニマすると、わたしの手を掴んで洋服屋さんに連れ込んだ。
「ね、これ着て見て♡」
(な、なんじゃこりゃあぁ!!)
我は試着室で愕然とした。
……メイド服にしか見えんのだが。
しかもご丁寧なことに、手首のところにつけるワイシャツみたいなカフスまである。腕は出てるのに袖だけある状態。こんなのつけてるの裸の王様とバニーガールのおねーさん以外、見たことがないんだが。
これ着て1日連れ回されるの?
罰ゲームすぎる……。
「愛紗ちゃーん、まだー?」
「は、はい……」
兄貴がいないと、思ったことが言えない……。
ど、どうしよう。こわい。
わたしは、どうしようもなくて蒼にメッセージを送った。
「たすけて、おにーちゃん」
でも、あいつ泥棒猫とデート中だし。
スルーされるかな。
すると、すぐに既読がついて返信がきた。
「今どこ? すぐに助けに行くから」
……。
そういうとこなんだよ。
だから、わたしは他の男の子に興味がわかないんだ。




