第77話 そんな彼女の顔見知り。
「……分かった」
俺は、一歌のSOSにそう答えた。
でも、どうしたらいいんだ。
具体的に何をすれば良いのか分からない。
みやび先生に相談するか。
……俺は、なんだかんだ言って、あの先生の事が好きみたいだ。
すると、一歌がニマニマしながら言った。
「ふぅーん。蒼くんは、なぎさちゃんの事が好きニャン? きっと伝えてあげたら、泣いて喜ぶニャン」
あれ、いつの間にか、思ってることが口から出ていたみたいだ。最近、どうもこう言う事が多いな。
あ、さっき不思議に思ったことを聞いてみようかな、
「ところで、さっき、ご両親にバレたらみたいなこと言ってたけれど……。家に怪文書が来てるとか?」
「……怪文書って言葉、久しぶりに聞いたかも」
一歌はププッと笑った。
こいつ……。こっちは真剣に心配してるのに。
「じゃあ、どういうこと?」
「あぁ。木之下さんから、伝わっちゃうかもって思ったの」
木之下さん?
誰それ。
話が唐突もなくて、ちょっと付いていけていない。
すると、リンネ先生が通りがかった。
(……さっきの2人きりで話したいってなんだったんだろ。もしかして、告白されたり?)
俺は少しドキドキしてしまった。
すると、一歌が手を上げた。
「木之下さーん。いきなりだからビックリしたし」
すると、リンネ先生は、ため息をついた。
「お嬢さま。その呼び方はやめてください」
「じゃあ、凛音ちゃんって呼ぶ?」
ん。
んんっ。
リンネ•アンダーウッド。
アンダーウッド……。
木之下……。
リンネ……。
凛音……。
ええーっ!?
もしかして、一歌パパのところの秘書さんか?!
どうりで。
数回だが会った事がある人だし、なんとなく親近感を覚えた訳だ。
リンネ先生は咳払いした。
「改めまして、木之下 凛音と申します。本当は社長が来たかったらしいのですが、親族だと担任になれないみたいで、教員免許をもっていた私に白羽の矢が立ったんです」
そういえば、一歌パパ、一歌のことすごく心配していたし。心配すぎて、秘書さんを派遣したのか。
「いきなりは困るしっ!!」
一歌は腰に手を当ててクレームを入れた。
「事前にバレたら、お嬢さま、拒否したでしょう?」
あぁ。なるほど。
それで噂がパパの耳に入るって話に繋がるのね。
「そういえば、さっき2人で話したいって、なんだったんですか?」
俺が聞くと、リンネ先生は退屈そうに答えた。
「藍良くんを誘惑して、お嬢様に相応しい男性か試してみようと思ったんですよ」
まじか。
愛といい、みんな身を挺して男を試すの好きだな。
ってか、やばかったじゃん、
こんな金髪美女を相手に、断れる自信がない。
「あれ、でも。リンネさん。前にお会いした時は金髪じゃなかったですよね? 暗く染めていたんですか?」
すると、リンネ先生は人差し指をたてて、小さく横に振った。
「チッチッ。今のわたしが染めてるんです。あと、コンタクトね♡」
「違和感が皆無ですね」
「まあ、お母さんがイギリス人だからね、似合っちゃうんですぅ」
ちょっと調子にのってるな。この人。
「でも、俺が拒否しなかったらどうしてたんですか?」
リンネ先生はペロッと舌を出した。
「別に。それならそれで、わたしは最後までしても良かったよ。君のこと、結構、気に入ってるし」
「そんなこと言って、片瀬さん(一歌パパ)のパートナーなんじゃないですか?」
すると、リンネさんは手を叩いて笑った。
「……社長? ないない。悪い人じゃないけど、生憎、わたし年下好きなんだよね。だから、わたしはフリー。ってことで、わたしはどう?」
「一歌いるし、そんな風にはなりませんから」
「ふぅーん。金髪の女の子を抱いてみたくない? なかなかない機会だよ? わたしの顔は嫌い? 意外とモテるんだけどな」
正直なところ、リンネさんは相当に可愛い。
だが、負けを認める訳にはいかない。
「…………」
Silence is golden.
沈黙は金なり、だ。
俺は沈黙を守ることにした。
すると、一歌が俺の顔を覗き込んだ。
「無言って、誘惑に負けるって半分認めてるようなもんだしっ!!」
一歌はご立腹だ。
昔の偉い思想家さんや。
沈黙してたら大ピンチになったんですが?




