第76話 そんな彼女の心配事。
始業式が終わってオリエンテーションの時間になった。
クラスの連中は、後任の担任についての話題で持ちきりだ。前任者がどんな気持ちで辞めていったなんて無関心。なぎさ先生がトイレに頭を打ちつけるほど苦しんでいたなんて、誰も気にしていない。
気づけば俺は、歯ぎしりをしていた。
ま、そんな俺の気持ちを話したら、なぎさ先生は「ありがとニャン」とか言うんだろうな。
キモッ。
ん?
誰かの視線を感じた。
……雅さんだ。
あの子、どうも掴みどころがない。
一歌に嫌がらせしてる悪党なのかも知れないけれど、なんだか悲しそうに見えてしまう。
すると、ドアが開いた。
スーツ姿の女性が入ってきた。
年齢は20代半ばくらいだろうか。身長は160くらいで色白の肉感的な太もも。スリットの入ったスカートスーツが嫌味な程、似合っている。
一斉にクラスの注目が集まり、ざわついてた教室が一瞬で静かになった。
後任の担任は、金髪碧眼の美女だった。しかも、目鼻立ちがハッキリし過ぎてはおらず、どことなく可愛い顔立ちだ。
金髪美女は教卓の前に立つと、出席簿を両手で持って言った。
「はじめまして。今日から皆さんの担任になったリンネ•アンダーウッドです。よろしくお願いします。担当は古文です」
すげぇ。日本語がうまい。
しかも、担当は古文かよ。
クラスの男連中も、俺と同じ感想らしく、一斉に歓声があがった。正直、後任が金髪美女とは、クラスの誰もが予想できなかったでろう。
オリエンテーションは、先生の簡単な自己紹介と連絡事項等で、10分程で終わった、
リンネ先生は、さっそく男共に取り囲まれている。国際化がすすんだと言っても、まだまだ金髪美女は特別なんだなぁ、と感じる光景だった。
俺が帰ろうとすると、リンネ先生がこっちに来た。先生が屈むと、ふわりと大人っぽい良い匂いがした。先生は俺の耳元に口を近づけて言った。
「わたし、君に興味があるの。今度、2人きりでお話しましょうね」
えっ。
もしかして、おれ気に入られてる?
でも、初対面だし。
気に入られる理由がない。
うちの母さんも「お前が女の子にモテるハズがない。もし、一方的にモテたら、その相手は詐欺師だと思いなさい」と言ってた。
騙されないぞ。
ん。
一歌がこっちを見ている。
やばい。
鼻の下のばしてたかな。
後が怖い。
放課後。
屋上のベンチで、一歌とお弁当を食べた。
お弁当箱を開けると、ミートボールとソーセージと玉子焼きだった。玉子焼きには苦労の跡が窺える。
「ど、どうかな?」
一歌は、そう言うと前髪を手でペタペタして顔を隠した。……もしかして、不安なのかな?
「すげー美味いよ。ありがとう」
「よかったぁ」
「うん」
一歌は身体を左右に振っている。
まだ何かあるのだろうか。
「あのね、実はね。ちゃんと作ったの玉子焼きだけで、ソーセージは焼いただけだし、肉団子は温めただけ(ごにょ)」
見ればわかる。
それにソーセージ手作りだったら、すごいの通り越して若干ひくわ。
「すげー嬉しいよ。また作って」
一歌は笑顔になった。
「次はソーセージも手作りするからね!!」
「いや、それ頑張り過ぎて若干引くから」
「蒼くんのイジワル……」
一歌はそういうと抱きついてきた。
お弁当を食べ終わると、沈黙が訪れた。
一歌は珍しく、何かを言いづらそうにしている。
「……蒼くんに聞いてほしい事あるよ」
聞いてほしい?
一歌にしては、珍しい。
でも、だからこそ、ちゃんと聞かないと。
「どんなこと?」
「あのね。わたし、ヤリマンとか淫乱とか性格悪いとか色々言われてるじゃん?」
え。淫乱ってのは初めて聞いたけど。
一歌は続けた。
「そういうの。言われるのイヤ……。わたしに原因あるし、思われるのは仕方ないけど。前は言われても別に〜って思ってたんだ。でも、好きな人の前で、それを言われるのはイヤなの。それに、ママとかパパの耳にも入っちゃったら、きっと悲しませちゃう。助けて……。蒼くん」




