第71話 そんな彼女はラップで勝負したい。
風邪から復活して数日後。
俺は久しぶりに◯△オンラインにログインする。
今日は、ある人とゲーム内で会う約束をしているのだ。
とはいえ、マサさんには会いたくない。だから、新キャラを作った。キャラクター名は「あいら♡」だ。
え?
種族?
当然、ドワっ子だ。
ちなみに、この手のゲームでは、ドワっ子は幼女のような愛らしいデザインが多いが、◯△オンラインでも例に漏れず、ロリっ子デザインなのである。
そして、なぜか愛紗も女ヒューマンの新キャラを作ってくれて、一緒にいる。
今日は酷暑日で、死ぬほど暑い。
エアコンをつけていても、普通に汗をかく暑さだ。愛紗はキャミと短パンなので、肌がくっつくとベタベタして気持ち悪い。
「ペタペタして気持ち悪いから、あっちいけよ」
俺が押し退けると、愛紗は余計にくっついてきた。
「兄貴ぃ、そんなにロリが好きなら、我の胸を揉ませてやるぞ? 乳首の場所も教えてやろうか?」とか言って、リアルに無い胸を押し付けてくる。
一歩間違えば、社会的に抹殺されかねない案件だ。本気で迷惑なのでやめて欲しい。
しばらく、愛紗(キャラ名は「あいしゃ♡」)と待っていると、お目当ての人がきた。
ふわふわの猫耳に、スポーツ少女然とした華奢なボディー。小ぶりな胸に、きゅっとしまったヒップ。
「はろはろにゃんー♡」
といいながら、駆け寄ってくる。
きもっ。
こほん、キャラ名は「なぎさ」。
えー、少し前にトイレを血の海にした、俺の担任♂だ。
先生は、とりあえず学校を辞めることになり、今は有給消化のゲーム三昧らしい。
相談事があると言ったら、「ゲーム内なら話を聞いてあげてもいいにゃ」と言われて、今に至る。
リアルが怖くなっちゃったのかな?
そのままニートとかにならないと良いのだけれど。
ま、愛想を尽かされて、いきなり振られないことを祈っているぞ。先生よ。
「先生。猫娘にしたんですか? まじ、ひくわー」
「せんせぃなんて言わないで♡ ここではわたしは、なぎさなのにゃっ♡」
いや、まじキモいわー。
俺はロールプレイを否定する訳じゃない。
だが、いい歳した担任♂が、キャピキャピしてるのは、かなりきっつい。
ドワっ子とネコむすめの姿で会話を弾ませる、男子高校生とアラサー男性教諭。軽いホラーですよ。俺は、ネトゲの世界は魑魅魍魎が跋扈する恐ろしい世界だということを、改めて実感した。
「んで、何?」
先生は言った。
「いや、一歌のことなんですけど」
「ってか、まる聞こえだけどいいのにゃ?」
あぁ。たしかに。
このゲームでは、レベルが低いとチャットすら制限されている。生まれたての俺らは、オープンチャットしか出来ない。
レベル上げでもしながら聞くか。
手頃なクエストは……。
すると、リアルでインターフォンが鳴った。
玄関をあけると一歌だった。
「蒼くんとゲーム、楽しみ♡」
「いちかおねーちゃんだぁ」
一歌に気づいた愛紗も駆け寄ってきた。
「ほんとあついね。これ、差し入れ」
一歌はアイスを買ってきてくれた。
「わーい。おねーちゃん大好き♡」
こいつ……、本人がいないときは呼び捨てのくせに、ほんと良くやるよ。
この前の陸の一件以来、一歌は愛紗にメロメロだ。おねーちゃんと言われるのが、すごく嬉しいらしい。
タブレットをテーブルに置くと、一歌は俺の横に座った。
ふわっと良い匂いがする。たわわな胸も、ちょっと汗ばんでいて、良い!! むしろ、もっと身体をくっつけてきて欲しい。
それに、この前の心理テスト。
あの答えに、頭の中のリフレクト。
そう。
この子は、本心では♪
おれと毎日3回♪ 致したいのだ♪
やべぇ。
なんかバイブス上がってきた。
ヘイヨー。
おれもしたいぜ、朝朝晩。
惚れていたいぜ、朝晩晩。
愛紗としたいぜ、朝飯前。
一歌を欲しいぜ、パンパパン。
来るものがあるぜ、下半身!!
頭の中の壁打ちラップバトル。
俺様の大勝利!! なんか気分がいい。
俺がニヤニヤしていると、愛紗が声を上げた。
「おにーちゃんが、パァになっちゃったあ! しかも、下手ぁぁぁ」
え。
いつのまにか、声に出てたっぽい。
どこ……から?
しぬほど恥ずかしい。
穴があったら入りたい……。
愛紗はニヘラニヘラすると、両手を銃の形にして突き出した。
「シスコン、ばかっ、兄貴♪ 相手は、ソレっ、愚妹♪ 下半身、ソレっ、無節操♪」
このクソガキっ!!
しかも、俺よりもうまいじゃないか!!
一歌はジト目だ。
この子にこういう目つきをされることは少ないから、ショックも大きい。
「蒼くんっ、ヘンタイだしっ!! しかも、愛紗ちゃんっ、歌詞に入れてるしっ!! とってもとってもっ、シスコンだしっ!!」
なんか微妙にリズミカルな気がする……。
一歌は、ぷーっとなった。
「蒼くんは、わたしのだもん……他の子とできないくらい、いっぱいしたいもん。愛紗ちゃんには渡さないもん」
一歌が耳を甘噛みして、舐めてくる。
やばい、下半身がムズムズする。
はっ。
俺は気づいてしまった。
両手に花(片方は毒花)のこの状況。
一歌に欲情すると、愛紗に欲情したのと外形的には変わらない。そして、それは即ち、重度のシスコン、まさしく無節操。
やばい。
一歌ともっとイチャつきたいのに……。
欲情せずに(既にしてる?)、最後まで乗り切れる気がしないのだが。




