第7話 そんな彼女は学内でも絡み出した。
相変わらず、毎週末会っている。
一歌は、外では手も繋がないし、あまり話もしてこない。
でも、部屋に入ると「きも」とか言いながら、ずっと俺にくっついている。やっぱ、俺のこと好きなんじゃないかと思ったので、本人に聞いたら、ジト目で完全否定された。
「暇だから時間潰しに会ってるだけだし、勘違いしないで」とのことだ。
……女子はよく分からん。
実は今日もラブホで会っている。
いつの間にか俺は寝てしまったらしい。
「うーん」
あつい。。。
寝苦しくて目を開けると、一歌の顔が目の前にあった。
目が合うと、一歌は、イタズラがバレた猫のように飛び上がった。
「べべ、べつに、寝顔とか見てないし!!」
それにしても何でこんなに暑いんだ。
ん。
起きあがろうと思っても起き上がれない……。って、いつの間にか毛布でぐるぐる巻きにされているじゃないか!!
……。
俺って、実はイジメられてるだけなのだろうか。
それにしても、全身が汗でグショグショで気持ち悪い。
「すごく汗かいたんだけど。ちょっとシャワーしてくるわ」
俺がそう言って立ちあがろうとすると、手首を掴まれた。そして、一歌は無言で、俺の胸や脇のあたりに顔を近づけてきた。
おもわぬ急接近に、俺はドギマギしてしまった。すごくドキドキしている。
やばい、一歌に心臓の音が聞こえちゃうかも。
ラブホの密室で、女子に匂いを嗅がれるオレ。
これって、すごく淫靡なシチュエーションだよね?
すると、一歌は眉に皺を寄せて言った。
「……蒼。汗くさい」
おいおい。
汗かいたのは、あんたがスマキにしたからだろう。理不尽すぎる。
「って、臭い俺はシャワーに行きたいんだけど」
「まだ行っていいって言ってない」
一歌はそれからずーっとスンスンしている。エンドレスだ。
「あの、そろそろ本気で解放して欲しいんだけど」
すると、一歌の顔が赤くなった。
「臭いもの嗅がされた……セクハラ」
むしろ、セクハラ被害者は、俺だと思うんですが? なぜ加害者の一歌が、被害者みたいな口ぶりなんだよ。
「へいへい。んじゃあ、シャワーいってきますね」
一歌はまた手首をひっぱってくる。
「1人は寂しいから、早く戻ってこい」
相変わらずの上から目線だ。
でも……。
一歌が俺をどう思ってるのかは分からないけれど、俺も一歌と過ごす時間は心地いい。
俺はシャワーを浴びながら、一歌について考えていた。
少し一歌のことがわかってきた。ラブホが好きもいうよりも、2人きりの時間がいいらしい。
だったら、ドライブデートとか喜んでくれるかな。
シャワーを浴び終えて部屋に戻ると、一歌は枕を抱いてゴロゴロしていた。
(こうしてると、ただの可愛い子なんだけどな)
「18歳になったら免許とるから」
俺がそう言うと、一歌はまた何かスマホに入力しはじめた。
「ドライブ、どうせ行く人いないんでしょ? いってあげてもいいよ?」
一歌は俺に肩をぶつけてきた。ドライブ行けるとしても、一年以上先の話なのに、いいのかな。
あっ、でも、免許だけあっても仕方ないよね。
「……でも、車買えないか。高いもんなあ」
すると、一歌は顎に指をつけて少し考えた。
「2人で働けば、きっと買えるし」
2人で働けば?
うーん。
一歌の中で、数年後の俺たちはどんなことになってるんだろうか。
そんな俺のことなど意に介していない様子で、一歌は鼻歌を口ずさんでいる。
それは懐かしい曲だった。
絶望的な俺を支えてくれた、忘れることのできない曲。
すごくすごく久しぶりに聴いた気がする。
まあ、同い年だもん。
メジャーな曲だし、一歌が知っていても、変なことではないか。
そんな一歌は最近、学内でも絡んでくる。
ほんと、なんなんだ。
先生に呼び出されて、廊下を歩いていると、膝の力が抜けて、痛みが走った。
「イタッ」
……膝カックンされたらしい。俺が転びそうになると、誰かが、笑いながらどこかに行った。
そして、すぐに一歌からメッセージがきた。
「1人でコケてるし、きしょださっ」
……。
転びそうになったのは、アナタのせいなんですが? それに、転んでる人は、きしょくないです!!
おれ、やっぱり、いじめられてるのか?
心地いいなんて言ったけど、勘違いだったかも。
一歌め。どこにいるんだっ!!
振り返ると、柱の陰に一歌がいた。
俺の方を見てあっかんべーをしている。
すると、一歌のポケットからスマホが落ちた。
一歌は急いでスマホを拾うと、駆け足でどこかに行ってしまった。
俺は見てしまった。
一歌のスマホの待受画面。
……俺の寝顔だった。